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決別
しおりを挟む想像していない、予想外の言葉に私は驚く。
結婚?
私とルイが?
過去にルイから一度も言われたことがなかったプロポーズの言葉。
前とは違う展開を向かえたの?
私は…
「分からないわ…」
過去の私ならすぐ了承したけれど、今の私は一度はローレンスを選んでいる。
ルイを裏切って…
「今すぐ返事をほしいわけじゃない。
できればゆっくり考えてほしい…僕とのこと。」
ルイの真剣な眼差し。
私は思わず唾を呑み込む。
この目を向けられるのは久しぶりだった。
私は彼のこの目が好きだった。
ローレンスと結婚してから、ルイに会わなかったわけではない。
国王ローレンスの右腕となり宰相の役職に就いた彼とは、パーティーなどで顔を会わす機会があった。
宰相として陛下と話す時の、彼の真剣な眼差しは昔と変わらなかった。
けれど私に挨拶するときの眼差しは、変わってしまった。
彼らしくない、弱々しい眼差しの奥に悲しさが隠れていた。
私はその目を見るたびに、負い目を感じていた。
───────
ルイのプロポーズから数日。
私はまだ結論に至っていなかった。
ローレンスのことや、ルイを一度は裏切っている負い目、ルイに揺れている気持ち…そんな思いがせめぎあっていた。
「エレーナ…」
ふと声をかけられ振り向くと、そこにはローレンスがいた。
「大丈夫か?」
ルイのプロポーズから数日、私はローレンスを避けていた。
「ええ、大丈夫ですわ。」
私を心配そうに見つめる彼の表情に私への思いをひしひしと感じる。
私はローレンスと結婚して幸せだった。
なに不自由ない暮らしを送っていた。
しかしここで再びローレンスを選ばなくても、彼は孤独にはならない。
だって…彼には正妻、皇后がいる。
私は側妃だったのだ。
最初は不安だったけれど寵愛をくれる陛下と優しい皇后に恵まれたことは私にとって幸運だった。
「エレーナ、その…」
神妙な面持ちのローレンスを見て、私は胸騒ぎがした。
ここでローレンスの言葉を聞いたらもっと悩んでしまう気がした。
だから…
「ローレンス皇太子。
私、ルイにプロポーズされました。」
私は身勝手な選択をすることにした。
「ルイに…?
そうなのか、」
「了承するつもりです。」
これから彼には父親を失くすという悲劇が降りかかる。
そこでまた辛い彼の姿を見てしまったら、私はまた同じ選択をするかもしれない。
ずっと彼を愛していた。
彼だけで生涯を終えることを嘆いたことはない。
でも、過去に戻ってきて私の未練に気づいてしまった。
元恋人ルイへの蓋をした気持ちに…
陛下には、未練はないと言っておきながら…
またやり直せるなら、今度はルイを選びたくなった。
「そうか…」
ローレンスは私の言葉の意味を察したのだろう。
それ以上、なにかいうことはなかった。
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