こわれてしまいそうな恋心

橘祐介

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*A4一枚の短編小説です。

 

             「蛍」

幼い頃毎年夏休みにおじいちゃんの家に遊びに行ってた

虫捕りアミを持って近くの神社で蝉を獲ったり

ランニングシャツで川で魚を追いかけたり

うちわを持って縁側でスイカを食べたり

浴衣を着て蛍を見にいったり

それはそれは夢中になって遊んだ

そしてそこには君がいた


憂鬱な顔をした妻がため息をつく

疲れた僕はコーヒーカップを持って黙ってる

時計の音だけが大きく響く部屋

隣の部屋では子供たちが眠ってる


壊れかけた砂の城のようで

蜃気楼にようにはかなくて

パラフィンに包まれているような

鈍色の空気の底に二人


娘の寝息が聞こえた

息子の動く音が聞こえた

時間だけが流れる

気が遠くなるほどの沈黙の部屋で

ふいに蛍を思い出した

それは理由はなかったのだけれど


この子たち蛍見た事ないんだ

ポツリと妻に言った

何も言わないで妻はコクリとうなずいた


そうだ明日みんなで見に行こうか

それからでも遅くはないだろう

僕は問いかけた

1秒、2秒、3秒、そして

はっとした顔で妻はもう一度うなずいた

 

 



 



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