こわれてしまいそうな恋心

橘祐介

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ほっとホスピス

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病気で2度死にかけました。

その時はいろいろ考えました。

でも、その話は重くなるので、

物語に少しその想いを託したいと思います。

「いのち」を題材にした作品になりますので、真摯に書かないといけないと思いますが、

あえて、「明るい方を」表現したいと思います。

ご参考までに少し重いですが、こんな作品も書いています。

https://ameblo.jp/tachibanapoem/entry-12583639867.html?frm=theme

 

当作品は

「ホスピス」を舞台にした、新米看護師の青春・成長の物語です。

恋やファンタジーの要素も入れていきます。

まだ筆力が足りていないので、公開するのにはいささかためらいがありますが、

よろしければご一読ください。

*励みになりますので、あつかましいお願いですが、1ミリでもいいなと思っていただけたなら、

ぜひ、フォローをお願いいたします。

 

--------以下作品です--------

 

「ほっとホスピス」

 

〇4月1日。

あともう少し。朝の陽射しに照らされて桜並木の坂道を息切らしながら

丘の上の病院を目指して走る。

「まずい遅刻しそう」一人言をつぶやきながら速度を上げる。

今日は初出勤の日。あきれた事に寝過ごした。

いつもこうだ、肝心な時にドジをしてしまう。

汗だくになりながら何とか遅刻はしないで済んだ。

ナースステーションに息をきらしながら飛び込む。

「はじめまして、一ノ瀬音です」大きな声でそう言いたかったが、

息が切れていたので普通の声しか出なかった。

みんなが手をとめて私を見る。ペコリと頭を下げる。

 

ここはホスピス。終末医療の病院だ。

あれは6年前。遠足で足を踏み外して崖から落ちた。凄く痛い。

動けない。血もかなり出ている。みんなとはぐれていたので、だれも助けてくれない。けっこう血が出ている。とても困った。

その時、彼が助けてくれた。偶然私が落下するのを見かけたようだ。

「あーあ、こりぁまずいな。出血しているし打撲もひどい」思っていたより重症

だった。その時、彼が新品の白いハンカチで止血をしてくれた。

救急車はすぐにはこない。そのために緊急で止血をしてくれた。

それは見事で、完璧だった。そして、私を背負って救急車が来られる崖の上まで担ぎ上げてくれた。でも、見知らぬ他人にそんな事をしてくれるなんて、

やがて救急車が来たのだけど、応急処置が良かったので、大事に至らなかった。

助かったお礼を言いたくて名前を聞いた、けど何も言わず去っていった。

 

救急車の人に聞いてあとで分かったのだけど、名前は立原和也。

「桜が丘病院」の医師。その時から彼は私の王子様になった。

家に帰って「桜が丘病院」の事を調べた。それは「ホスピス」という病院で、

終末医療が専門。つまり入院患者を見送る病院だ。

縁がないなぁと思ったけれど、偶然おばあちゃんが、

そのホスピのお世話になる事になった。末期がんで余命半年。最後は静かに見おくりたいと、「桜が丘病院」のお世話になる事にになった。

ドクターをはじめ、看護師さんやスタッフの方はとてもやさしくて、

全力で介護をしてくれた。やがて悲しい日が来たが

、最後の数か月家族が寄り添って見送れたのは、この病院のおかげ。

その時あの王子様を思い出した。お会いするのはとても抵抗があって、

あれから一度も会っていないけれど。私の中に何かが芽生えた。

 

そして私は看護師になる決意をした。けっこう大変だったけど、

今その「桜が丘病院」のナースステーションにいる。私は新米の看護師。

「一ノ瀬さん、私があなたの指導担当ですよ」と先輩看護師の沢田香澄さんが

声をかけてくれる。「なれない事ばかりだろうから、ゆっくりと、

いろいろ教えてあげるね」と笑顔。

「はいっ、よろしくお願いします」とペコリと頭を下げる。

細かい事はおいおい教えてあげるから、まずしばらくは私についてきて。

習うより慣れろで、現場を見せてあげる。

ボーイッシュな香澄さんが頼もしく言ってくれた。

さあ、行くわよ、と肩を叩かれて、病室に向かった。

無我夢中で何が何だか分からないでその日は終わった。

「ああ、つかれた、ホントに私ここでやっていけるのだろうか」少し弱気になる

 

病院がある丘を下りて行きながら、

目まぐるしかった今日の事を思い返した、上野静子さんの病室に香澄先輩と行った。

年齢は85歳。かなり調子が悪いみたいで、横たわっていて、

元気がない。身体をふいてあげている時、ふいに私につぶやく。

「小学校の時にね、よく校庭の花壇に咲いているサルビアの花を摘んで、

その蜜を吸ったの、それはすごく甘くていい香りがしたわ。

もう一度あの蜜を吸ってみたい」やわらかく微笑んで、

嬉しそうに私にそう告げてくれた。静子さんのひととおりのお世話も終わり、他の病室を幾つか訪問した。それは、それぞれ大変で、

やっていけるのかなと、少し自信が無くなってしまう。

めまぐるしかった一日が終わり、ため息をついて、坂を下る。

その時ふと、道の途中にサルビアの花が咲いていたのを思い出した。

私は、そこに行き、何本か花を摘んだ。翌日静子さんのところに行き、

サルビアの花を渡した。

「わあ、サルビア、ありがとう、ありがとう」彼女は嬉しそうに、

しばらくその花を眺めて、そしてちゅーちゅーと吸い始めた。

私にも少しおすそわけしてくれる。一緒にその蜜を吸ってみた。

甘い香りが口の中一杯に広がる。その時、ふいに、軽いめまいがして目を閉じた。

目を開くと、病室が、小学校の校庭のサルビアの花壇になっている。

そこには赤いスカートと白いブラウスの小学生の静子さんがいた。

友達とサルビアの花を口につけて、嬉しそうにしばらくそこにいた。

チャイムが鳴って、校舎に向かって静子さんたちは走っていく。

静子さんが校舎の中に消えた時、病室は元の姿に戻った。何が起こったか分からない。

パニックになりそうなのをどうにかこらえて、静子さんに目をやる

すやすやと眠っている。少し微笑んでいる。きっとこれはありありあえないまぼろし。

でも静さんのやすらかな寝顔を見ていると、何だか、信じてもいいのかなと思えてきた

静子さんは明日どうなるか分からない。私も無我夢中の日々で、

明日の事は分からない。でも、今出来ることをやろう。そう素直に思えたら、

明日も頑張る勇気が湧いてくる。ありがとう静子さん。頑張れ私。

 
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