120 / 169
君と花火をもう一度
しおりを挟む
*短編小説です
『君と花火をもう一度』
「じゃ、お大事に」
小さな女の子が僕にバイバイしてくれる。
ひまわり総合病院の小児科。
僕はここに勤めて3年目になる。
15人目の患者さんが終わった。
ふー、一息。
もうあれから10年。
高3の夏。
「お、お前、何」
「どう、似合ってる」
髪をアップにして、音森夏澄は藍色の浴衣を着て僕の前でにこにこしている。
「びっくりさせんなよ、いつもジャージだろ」
「お祭りなんだからいいじゃない」。
「まっ、そりゃそうだけど」
「ねえ、早く行きましょうよ」
「うん」
何だかいつものように彼女のペースに巻き込まれた。
今日は近所の神社で夏祭り。
盆踊りもある、というか、出る。
西の空が茜色から、群青色に変わってくる。
夕焼けがきれいだ。
彼女、音森夏澄とは幼馴染。
僕の家の2軒となりに住んでいる。
3歳の時から一緒。
幼稚園も一緒。
ある日、かくれんぼしていて、彼女がいなくなった。
あれ、うまく隠れたな、と思っていた、が、
ホントにいなくなったのだ。
探した、探した。
どこにもいない。
僕は不安になって泣きながら。
隣の町まで、探し歩いた。
あきれた事に、近所の公園の奥のベンチで、
おいしそうにアイスクリームを食べていた。
奥なので気が付かなかった。
「おい、探したぞ」
「へえ、このアイスおいしいよ」
「おまえなぁ、心配したんだぞ」
「そう」
「まっ、いいか、僕も食べる」
いつも日が暮れるまで、遊んだ。
僕の家は駄菓子屋。
文房具も売っているのだが、駄菓子が良く売れる。
小学校の前の坂道を少し登ったところに店がある。
「学校の上」、というあだ名で、近所の子供にけっこう人気があった。
それもそうだろう、幼い頃の僕、自分が欲しいものを仕入れていたのだから、
子供たちの気持ちがよく分かる。
母親の店だったが、店番はたいがい僕。
すごくふわふわした感じで、毎日楽しかった。
夏澄は特別なお客。
アイスクリームをただであげたり、
店のチョコレートを盗んで、近所の原っぱで二人で食べたりした。
よくどろんこ遊びしたので、パンツまで、どろどろ。
家に帰ったら、母さんにこっぴどく怒られた。
幼稚園を卒園して、小学校に。
夏澄とはクラスが別。
何だか、お互い違う友達が出来て、少し会うのが減る。
「夏澄、たまには遊ぼうよ」
「うん、いいけど、何する」
「そうだな、分かんない」
「バカ、考えてよ」
「まさかままごとはないし」
「当たり前でしょ、そんな子供みたいな」
まだ、子供だった僕たちがそういった会話をしていた。
「ねえ、隣の町に遊びに行こうよ」
#小説#短編小説#恋#愛#出会い#幼なじみ#花火#思い出#夏祭り
『君と花火をもう一度』
「じゃ、お大事に」
小さな女の子が僕にバイバイしてくれる。
ひまわり総合病院の小児科。
僕はここに勤めて3年目になる。
15人目の患者さんが終わった。
ふー、一息。
もうあれから10年。
高3の夏。
「お、お前、何」
「どう、似合ってる」
髪をアップにして、音森夏澄は藍色の浴衣を着て僕の前でにこにこしている。
「びっくりさせんなよ、いつもジャージだろ」
「お祭りなんだからいいじゃない」。
「まっ、そりゃそうだけど」
「ねえ、早く行きましょうよ」
「うん」
何だかいつものように彼女のペースに巻き込まれた。
今日は近所の神社で夏祭り。
盆踊りもある、というか、出る。
西の空が茜色から、群青色に変わってくる。
夕焼けがきれいだ。
彼女、音森夏澄とは幼馴染。
僕の家の2軒となりに住んでいる。
3歳の時から一緒。
幼稚園も一緒。
ある日、かくれんぼしていて、彼女がいなくなった。
あれ、うまく隠れたな、と思っていた、が、
ホントにいなくなったのだ。
探した、探した。
どこにもいない。
僕は不安になって泣きながら。
隣の町まで、探し歩いた。
あきれた事に、近所の公園の奥のベンチで、
おいしそうにアイスクリームを食べていた。
奥なので気が付かなかった。
「おい、探したぞ」
「へえ、このアイスおいしいよ」
「おまえなぁ、心配したんだぞ」
「そう」
「まっ、いいか、僕も食べる」
いつも日が暮れるまで、遊んだ。
僕の家は駄菓子屋。
文房具も売っているのだが、駄菓子が良く売れる。
小学校の前の坂道を少し登ったところに店がある。
「学校の上」、というあだ名で、近所の子供にけっこう人気があった。
それもそうだろう、幼い頃の僕、自分が欲しいものを仕入れていたのだから、
子供たちの気持ちがよく分かる。
母親の店だったが、店番はたいがい僕。
すごくふわふわした感じで、毎日楽しかった。
夏澄は特別なお客。
アイスクリームをただであげたり、
店のチョコレートを盗んで、近所の原っぱで二人で食べたりした。
よくどろんこ遊びしたので、パンツまで、どろどろ。
家に帰ったら、母さんにこっぴどく怒られた。
幼稚園を卒園して、小学校に。
夏澄とはクラスが別。
何だか、お互い違う友達が出来て、少し会うのが減る。
「夏澄、たまには遊ぼうよ」
「うん、いいけど、何する」
「そうだな、分かんない」
「バカ、考えてよ」
「まさかままごとはないし」
「当たり前でしょ、そんな子供みたいな」
まだ、子供だった僕たちがそういった会話をしていた。
「ねえ、隣の町に遊びに行こうよ」
#小説#短編小説#恋#愛#出会い#幼なじみ#花火#思い出#夏祭り
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
隣の人妻としているいけないこと
ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。
そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。
しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。
彼女の夫がしかけたものと思われ…
どうして隣の家で僕の妻が喘いでいるんですか?
ヘロディア
恋愛
壁が薄いマンションに住んでいる主人公と妻。彼らは新婚で、ヤりたいこともできない状態にあった。
しかし、隣の家から喘ぎ声が聞こえてきて、自分たちが我慢せずともよいのではと思い始め、実行に移そうとする。
しかし、何故か隣の家からは妻の喘ぎ声が聞こえてきて…
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる