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ほっとホスピス
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あともう少し。
朝の陽射しに照らされて
桜並木の坂道を息を切らしながら丘の上の病院を目指して走る。。
「まずい遅刻しそう」
一人言をつぶやきながら速度を上げる。
今日は初出勤の日。
あきれた事に寝過ごしてしまった。
いつもこうだ、肝心な時にドジをしてしまう。
ふー汗だくになりながら何とか遅刻はしないで済んだ。
ナースステーションに息をきらしながら飛び込む。
「はじめまして、一ノ瀬音です」大きな声でそう言いたかったが、
普通の声しか出なかった。
みんなが手をとめて私を見つめる。
頭を下げる。
ここはホスピス。
終末医療の病院だ。
あれは6年前。
遠足で足を踏み外して崖から落ちた。
凄く痛い。動けない。血もかなり出ている。
みんなとはぐれていたので、だれも助けてくれない。
けっこう血が出ている。
とても困った。
その時、あの人が助けてくれた。
偶然私が落下するのを見かけたようだ。
「ああーあ、こりぁまずいな。ばい菌が入ると破傷風になるかもしれない、
打撲もひどい」
思ってたより重症だったみたいだ。下手したら死んでしまうかもしれない。
その時驚いた事に、傷口を彼が口をつけてたまってた血を吸ってくれた。
いきなりの出来事なので、何が起こっているのか分からない。
あとで知ったのだけど、とにかく出血を止めなくてはいけない。
救急車はすぐにはこない。
そのために行った緊急治療を行ったのだと。
でも、見知らぬ他人にそんな事をしてくれるなんて、
考えられない。
やがて救急車が来たのだけど、応急処置が良かったので、大事に至らなかった。
助かった。
お礼をいいたくて名前を聞いた。照れくさそうに名刺をくれて、そして何も言わずに
去って行った。
何で名刺をくれたのかはよく分からなかったけど、「桜が丘病院」の医師である事は分かった。その時から私の王子様になった。
きっとはずかしかったろうけど、大きな声で私を助けてくれた。
家に帰って「桜が丘病院」の事を調べた。
それは「ホスピス」という病院で、終末医療が専門。つまり入院患者を見送る病院だ。
縁がないなぁと思ったけれど、偶然おばあちゃんが、そのホスピスのお世話になる事になった。
末期がんで余命半年。最後は静かに見おくりたいと、「桜が丘病院」のお世話になる事にになった。
ドクターをはじめ、看護師さんやスタッフの方はとてもやさしくて、全力で介護をしてくれた。やがて悲しい日が来たが、最後の数か月、家族が寄り添って見送れたのは、この病院のおかげ。その時あの王子様を思い出した。
お会いするのはとても抵抗があって、あれから一度も会っていないけど。私の中に何かが芽生えた。そして私は看護師になる決意をした。
けっこう大変だったけど、今その「桜が丘病院」のナースステーションにいる。
「一ノ瀬さん、私があなたの指導担当ですよ」と先輩の沢田香澄さんが声をかけてくれた。
「なれない事ばかりだろうから、ゆっくりと、いろいろ教えてあげるね」と、少しいたずらっぽい笑顔。
「はいっ、よろしくお願いします」とペコリと頭を下げた。
細かい事はおいおい教えてあげるから、まずしばらくは私についてきて。習うよりなれろで、現場を見せてあげる。
ボーイッシュな香澄さんが頼もしく言ってくれた。
さあ、行くわよ。
朝の陽射しに照らされて
桜並木の坂道を息を切らしながら丘の上の病院を目指して走る。。
「まずい遅刻しそう」
一人言をつぶやきながら速度を上げる。
今日は初出勤の日。
あきれた事に寝過ごしてしまった。
いつもこうだ、肝心な時にドジをしてしまう。
ふー汗だくになりながら何とか遅刻はしないで済んだ。
ナースステーションに息をきらしながら飛び込む。
「はじめまして、一ノ瀬音です」大きな声でそう言いたかったが、
普通の声しか出なかった。
みんなが手をとめて私を見つめる。
頭を下げる。
ここはホスピス。
終末医療の病院だ。
あれは6年前。
遠足で足を踏み外して崖から落ちた。
凄く痛い。動けない。血もかなり出ている。
みんなとはぐれていたので、だれも助けてくれない。
けっこう血が出ている。
とても困った。
その時、あの人が助けてくれた。
偶然私が落下するのを見かけたようだ。
「ああーあ、こりぁまずいな。ばい菌が入ると破傷風になるかもしれない、
打撲もひどい」
思ってたより重症だったみたいだ。下手したら死んでしまうかもしれない。
その時驚いた事に、傷口を彼が口をつけてたまってた血を吸ってくれた。
いきなりの出来事なので、何が起こっているのか分からない。
あとで知ったのだけど、とにかく出血を止めなくてはいけない。
救急車はすぐにはこない。
そのために行った緊急治療を行ったのだと。
でも、見知らぬ他人にそんな事をしてくれるなんて、
考えられない。
やがて救急車が来たのだけど、応急処置が良かったので、大事に至らなかった。
助かった。
お礼をいいたくて名前を聞いた。照れくさそうに名刺をくれて、そして何も言わずに
去って行った。
何で名刺をくれたのかはよく分からなかったけど、「桜が丘病院」の医師である事は分かった。その時から私の王子様になった。
きっとはずかしかったろうけど、大きな声で私を助けてくれた。
家に帰って「桜が丘病院」の事を調べた。
それは「ホスピス」という病院で、終末医療が専門。つまり入院患者を見送る病院だ。
縁がないなぁと思ったけれど、偶然おばあちゃんが、そのホスピスのお世話になる事になった。
末期がんで余命半年。最後は静かに見おくりたいと、「桜が丘病院」のお世話になる事にになった。
ドクターをはじめ、看護師さんやスタッフの方はとてもやさしくて、全力で介護をしてくれた。やがて悲しい日が来たが、最後の数か月、家族が寄り添って見送れたのは、この病院のおかげ。その時あの王子様を思い出した。
お会いするのはとても抵抗があって、あれから一度も会っていないけど。私の中に何かが芽生えた。そして私は看護師になる決意をした。
けっこう大変だったけど、今その「桜が丘病院」のナースステーションにいる。
「一ノ瀬さん、私があなたの指導担当ですよ」と先輩の沢田香澄さんが声をかけてくれた。
「なれない事ばかりだろうから、ゆっくりと、いろいろ教えてあげるね」と、少しいたずらっぽい笑顔。
「はいっ、よろしくお願いします」とペコリと頭を下げた。
細かい事はおいおい教えてあげるから、まずしばらくは私についてきて。習うよりなれろで、現場を見せてあげる。
ボーイッシュな香澄さんが頼もしく言ってくれた。
さあ、行くわよ。
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