上 下
35 / 50
異世界生活

それでさ、あんたの名前は?

しおりを挟む
 俺達が案内されたのは王都のはずれ、西の門近くの家だった。
 なんていうか……

 思ったより金持ちじゃないのかな?

 普通の一軒家だった。
 
 この子供の雰囲気から、貴族とか王族とか、お金を持っている層を連想したんだけどな……
 そう思ったのは俺だけじゃないようで、レジーナ達も意外そうな顔をしている。

 子供はそんな俺達の雰囲気に気付いたのか声を掛けてくる

「どうした?」

 う、うーん。
 金持ちだと思ってたのにちげーじゃねーか!騙された!
 なんて言えないしな。
 
 俺が返答に詰まっているとレジーナが返事をする。

「な、なんかちょっと意外でさ。あんたの雰囲気から貴族を想像してたよ」

「なぜそう思ったんだ?」

「だってさ、あんたにはお付きまでいるじゃないか。そんなの金持ちか貴族とかさ、そんな連中じゃないとめったにいないさ」
 
「そうか」

 子供はたいして気にもしていないようだ。
 そういえばまだ名前も聞いてなかったな。

 俺達は案内されるままに家に入る。
 家には執事のような老齢の男が立っており俺達に会釈する。
 奥にも人の気配がある。
 メイドさんとかかなぁ。

 ……やっぱり金持ちか?

 しかし、家の中もいたって平凡な作りで高そうな調度品もない。
 なんだろうな、ほんとこの子はなんなんだろう。
 男の子なのに女の子のような見た目。

 お兄さんはなんだか怖くなってきたよ。
 
 あ!そうだ!!オセ!!オセレーダー頼む!!

〈ふむ。 この老人の他に奥に二人、さらに地下には六人程いるな〉

 地下? この家地下あるの?
 
〈気配があるからな。地下はあるだろう〉
 
 地下のある家か、やっぱり金持ち?

「まぁ座ってくれ。何か飲み物でも淹れさせよう」

 俺達は促されるままテーブルに着く。
 座ったのを確認すると子供は奥の部屋に引っ込んでいく。 

 少し待つと出迎えてくれた執事がさっそく飲み物を運んでくる。
 レモン水のような飲み物だ。これ流行ってるのか?
 このレモン水みたいな水はいやな思いでがあるんだよな。
 
 アンドラめ。
 前飲んだ時は寝むらされたからなぁ。

 俺の心配をよそにレジーナ達はさっそく口をつけている。
 気にしなくて良さそうか?
 アルバートは一気に飲み干すとお代わりまでねだりだした。
 大丈夫そうだな。

 しばらくすると子供がお供の男を一人連れて部屋に入ってきた。

「待たせたな。すまないが、負傷したデールは休ませている。こいつはカールという」

 紹介されたお付きの一人、カールは頭を下げる。
 俺達はちょうどいいので簡単に自己紹介を済ませる。

 が、子供は名乗らない。
 
 レジーナも気になったのか、子供に質問をする。

「それでさ、あんたの名前は? なんであんな所で襲われてたんだい?」

 カールは子供の様子を気にしている。
 社長に仕える秘書みたいだな。

「一つづつ説明させてもらいたいが……ほんとに聞くか?」

 どういう意味だ?
 聞いたらまずいの?
 なら聞かない。俺は聞かないよ。
 俺はレジーナに目で合図をする。
 だめだ、聞いたらだめだ、面倒な事になりそうだからやめてね!と。
 レジーナは俺の意図を察してくれたのか、力強くうなずく。
 
 あ、待って、その頷き方だめなやつじゃない?

「聞くよ! 話してみな!!」

「待て待て待て待て!! 聞かないよ!? 面倒事はごめんだよ!?」

 レジーナの返答を光の速さで否定する。
 
「なんでさ!? 子供が困ってそうじゃないか!」

「子供って言ってもお付きの人までいるんだぞ!? 俺達が出来る事なんてないって!!」

 同調を求めるようにアルバートとローラを見るが、両者共もレジーナに賛成の様子だ。
 
「陽介、乗りかかったってやつだ! 話だけでも聞いてみたらいいだろう?」

「そうですよ陽介さん、ここでサヨナラはかわいそうじゃないですか」

 説得失敗か。
 冒険者ギルドで受けた依頼はどうすんだよ。
 うーーーん。

 おっぱい

 ギロリとローラの視線が俺に刺さるのがわかる。
 いいじゃないか、少しくらい仕返ししても。
 
「わかったよ、わかったけど俺達Eランク冒険者だからね? 出来る事少ないからね?忘れちゃだめだよ?」
 
「臆病だなぁ陽介は!気にすんなって!」

「臆病じゃなくて慎重だと言ってくれ」

 とりあえず話だけでも聞いてみるか。
 レジーナに目配せをし頷いてやる。
 リーダーはレジーナだしな、任せよう。 

「という事で、聞かせてくれないかな?」

「わかった。それではさっそく……




 子供は名乗らなかった。
 名乗ることはしなかったが、「ある高貴な出生である」とお付きのカールが言う。
 それではさすがに話もしづらいので、仮の名として「リトア」と呼んでくれという事だ。
 
 リトアはある集団を追っている。
 その集団は各地で魔術師の団体を襲っており、最近この辺りにも出没し始めている。
 その集団をリトア達は「魔殺まさつ」と呼んでいる。

 その魔殺だが、襲った集団の遺体から魔力を吸い込んで力を得る性質があるようで、襲われた魔術師の団体は全て魔力が吸われていたようだ。
 
 リトア達は魔殺を倒すために奮闘しており、協力者を求めている。
 先ほど冒険者ギルドに行ったのも情報収集の為だったとか。


 これって……


 魔の咆哮を襲ったヤツらだよな!?
 
 だとしたら既に国が『加護』持ちを連れて討伐に向ったよな?
 もう解決してるんじゃないか?
 
 言うべきか?
 他にも魔術師団を襲ってる別口もいるとか?
 どうなんだろう。
 
 それにしてもこの国と協力すればいいと思うんだが。
 ここ王都だぞ? 直談判できないのか?
 
 話を聞き終えた俺達がどういう反応を示すのか、不安そうにリトアは俺達を見ている。
 レジーナも何と言っていいのかわからないのだろう。
 俺が質問するか。

「リトア、そんな危険そうなヤツらを追っているなら国に言うべきでは?ここは王都だし、リトア達がここにいるのは国に協力を求めるためじゃないの?」

 この質問は予想していたのだろう。
 すぐに返答がくる。

「それには事情があってね。もちろんこの国が追っているのは知っているよ。それで解決するならいいんだが……」

 国が追っても解決しないの?
 あの騎士団長名前なんだったかな、強そうだったぞ?
 それに『加護』持ちのパーティは俺達以外は強そうだったぞ?

 それでもダメなのか?

 どういう事だよ。
 よつば達が追ってるんだぞ。

 レジーナ達は俺の元パーティメンバーが行っている依頼だと気づいたようだ。
 最初に話たしな。
 

「どういう事?なんで国が追ってるのに解決しないんだよ。けっこうな部隊で討伐に行ったと思うぞ?」

 俺の返答にリトア達が驚く。

「なんで陽介はそんな事を知っているんだ?」

「俺の元パーティメンバーが国の騎士団と一緒に討伐に行ったからな。『加護』持ちがいればどうにかなりそうな話だったけど……だめなのか?」

 眉間に皺を寄せ考え始めるリトア。
 険しい顔ですら様になっているな。
 美形ってずるい。

「いつ頃討伐に行ったかわかるか?」

「たぶん今朝だな。もう出発しているのかまだ王都にいるのかはわからないけど」

「そうか…… 無事だといいが……」

 そう言うとリトアは俺の眼を見つめてくる。
 綺麗な顔立ちをしているが俺はロリコンではない。

 ってかそもそもこいつ男だしな。
 俺はそっちの気はないぞ。
 俺の性癖を新規開拓しないでくれ。

「お前達、魔殺の討伐に協力してくれないだろうか。もちろんタダとは言わない。報酬も出そう」

 俺はよつば達が気になっていた所だけど、なんか危なそうじゃない?
 リトア達には屈強な戦士とか高位な魔術師とかそんなの揃ってるんだよな?
 俺は安全なところで『索敵』だけする仕事がしたいんだけど。
 みんなに聞いてみるか。

「みんな、どうする? この依頼受ける?」

「話も聞いちゃったしね、別に悪い事でもない。私は受けてもいいと思うよ」

「おう! 俺も賛成だ!」

「いいと思いますよ」

 全員賛成か。
 俺はレジーナに目で合図をする。
 レジーナさん、言ってやってください。

「じゃあ! その依頼受けるよ、どこまで力になれるかはわからないけどよろしくねリトア!」

 レジーナの良く通る声が俺の背筋を伸ばす。
 先に受けた冒険者ギルドの依頼もちょっと気になるがそれどころじゃないな。
 よつば達が心配だが、大丈夫だろうか。
 
 なるべく早く駆けつけてやろう。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…

美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。 ※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。 ※イラストはAI生成です

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?

ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。 それは——男子は女子より立場が弱い 学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。 拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。 「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」 協力者の鹿波だけは知っている。 大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。 勝利200%ラブコメ!? 既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?

処理中です...