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異世界生活

それでさ、あんたの名前は?

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 俺達が案内されたのは王都のはずれ、西の門近くの家だった。
 なんていうか……

 思ったより金持ちじゃないのかな?

 普通の一軒家だった。
 
 この子供の雰囲気から、貴族とか王族とか、お金を持っている層を連想したんだけどな……
 そう思ったのは俺だけじゃないようで、レジーナ達も意外そうな顔をしている。

 子供はそんな俺達の雰囲気に気付いたのか声を掛けてくる

「どうした?」

 う、うーん。
 金持ちだと思ってたのにちげーじゃねーか!騙された!
 なんて言えないしな。
 
 俺が返答に詰まっているとレジーナが返事をする。

「な、なんかちょっと意外でさ。あんたの雰囲気から貴族を想像してたよ」

「なぜそう思ったんだ?」

「だってさ、あんたにはお付きまでいるじゃないか。そんなの金持ちか貴族とかさ、そんな連中じゃないとめったにいないさ」
 
「そうか」

 子供はたいして気にもしていないようだ。
 そういえばまだ名前も聞いてなかったな。

 俺達は案内されるままに家に入る。
 家には執事のような老齢の男が立っており俺達に会釈する。
 奥にも人の気配がある。
 メイドさんとかかなぁ。

 ……やっぱり金持ちか?

 しかし、家の中もいたって平凡な作りで高そうな調度品もない。
 なんだろうな、ほんとこの子はなんなんだろう。
 男の子なのに女の子のような見た目。

 お兄さんはなんだか怖くなってきたよ。
 
 あ!そうだ!!オセ!!オセレーダー頼む!!

〈ふむ。 この老人の他に奥に二人、さらに地下には六人程いるな〉

 地下? この家地下あるの?
 
〈気配があるからな。地下はあるだろう〉
 
 地下のある家か、やっぱり金持ち?

「まぁ座ってくれ。何か飲み物でも淹れさせよう」

 俺達は促されるままテーブルに着く。
 座ったのを確認すると子供は奥の部屋に引っ込んでいく。 

 少し待つと出迎えてくれた執事がさっそく飲み物を運んでくる。
 レモン水のような飲み物だ。これ流行ってるのか?
 このレモン水みたいな水はいやな思いでがあるんだよな。
 
 アンドラめ。
 前飲んだ時は寝むらされたからなぁ。

 俺の心配をよそにレジーナ達はさっそく口をつけている。
 気にしなくて良さそうか?
 アルバートは一気に飲み干すとお代わりまでねだりだした。
 大丈夫そうだな。

 しばらくすると子供がお供の男を一人連れて部屋に入ってきた。

「待たせたな。すまないが、負傷したデールは休ませている。こいつはカールという」

 紹介されたお付きの一人、カールは頭を下げる。
 俺達はちょうどいいので簡単に自己紹介を済ませる。

 が、子供は名乗らない。
 
 レジーナも気になったのか、子供に質問をする。

「それでさ、あんたの名前は? なんであんな所で襲われてたんだい?」

 カールは子供の様子を気にしている。
 社長に仕える秘書みたいだな。

「一つづつ説明させてもらいたいが……ほんとに聞くか?」

 どういう意味だ?
 聞いたらまずいの?
 なら聞かない。俺は聞かないよ。
 俺はレジーナに目で合図をする。
 だめだ、聞いたらだめだ、面倒な事になりそうだからやめてね!と。
 レジーナは俺の意図を察してくれたのか、力強くうなずく。
 
 あ、待って、その頷き方だめなやつじゃない?

「聞くよ! 話してみな!!」

「待て待て待て待て!! 聞かないよ!? 面倒事はごめんだよ!?」

 レジーナの返答を光の速さで否定する。
 
「なんでさ!? 子供が困ってそうじゃないか!」

「子供って言ってもお付きの人までいるんだぞ!? 俺達が出来る事なんてないって!!」

 同調を求めるようにアルバートとローラを見るが、両者共もレジーナに賛成の様子だ。
 
「陽介、乗りかかったってやつだ! 話だけでも聞いてみたらいいだろう?」

「そうですよ陽介さん、ここでサヨナラはかわいそうじゃないですか」

 説得失敗か。
 冒険者ギルドで受けた依頼はどうすんだよ。
 うーーーん。

 おっぱい

 ギロリとローラの視線が俺に刺さるのがわかる。
 いいじゃないか、少しくらい仕返ししても。
 
「わかったよ、わかったけど俺達Eランク冒険者だからね? 出来る事少ないからね?忘れちゃだめだよ?」
 
「臆病だなぁ陽介は!気にすんなって!」

「臆病じゃなくて慎重だと言ってくれ」

 とりあえず話だけでも聞いてみるか。
 レジーナに目配せをし頷いてやる。
 リーダーはレジーナだしな、任せよう。 

「という事で、聞かせてくれないかな?」

「わかった。それではさっそく……




 子供は名乗らなかった。
 名乗ることはしなかったが、「ある高貴な出生である」とお付きのカールが言う。
 それではさすがに話もしづらいので、仮の名として「リトア」と呼んでくれという事だ。
 
 リトアはある集団を追っている。
 その集団は各地で魔術師の団体を襲っており、最近この辺りにも出没し始めている。
 その集団をリトア達は「魔殺まさつ」と呼んでいる。

 その魔殺だが、襲った集団の遺体から魔力を吸い込んで力を得る性質があるようで、襲われた魔術師の団体は全て魔力が吸われていたようだ。
 
 リトア達は魔殺を倒すために奮闘しており、協力者を求めている。
 先ほど冒険者ギルドに行ったのも情報収集の為だったとか。


 これって……


 魔の咆哮を襲ったヤツらだよな!?
 
 だとしたら既に国が『加護』持ちを連れて討伐に向ったよな?
 もう解決してるんじゃないか?
 
 言うべきか?
 他にも魔術師団を襲ってる別口もいるとか?
 どうなんだろう。
 
 それにしてもこの国と協力すればいいと思うんだが。
 ここ王都だぞ? 直談判できないのか?
 
 話を聞き終えた俺達がどういう反応を示すのか、不安そうにリトアは俺達を見ている。
 レジーナも何と言っていいのかわからないのだろう。
 俺が質問するか。

「リトア、そんな危険そうなヤツらを追っているなら国に言うべきでは?ここは王都だし、リトア達がここにいるのは国に協力を求めるためじゃないの?」

 この質問は予想していたのだろう。
 すぐに返答がくる。

「それには事情があってね。もちろんこの国が追っているのは知っているよ。それで解決するならいいんだが……」

 国が追っても解決しないの?
 あの騎士団長名前なんだったかな、強そうだったぞ?
 それに『加護』持ちのパーティは俺達以外は強そうだったぞ?

 それでもダメなのか?

 どういう事だよ。
 よつば達が追ってるんだぞ。

 レジーナ達は俺の元パーティメンバーが行っている依頼だと気づいたようだ。
 最初に話たしな。
 

「どういう事?なんで国が追ってるのに解決しないんだよ。けっこうな部隊で討伐に行ったと思うぞ?」

 俺の返答にリトア達が驚く。

「なんで陽介はそんな事を知っているんだ?」

「俺の元パーティメンバーが国の騎士団と一緒に討伐に行ったからな。『加護』持ちがいればどうにかなりそうな話だったけど……だめなのか?」

 眉間に皺を寄せ考え始めるリトア。
 険しい顔ですら様になっているな。
 美形ってずるい。

「いつ頃討伐に行ったかわかるか?」

「たぶん今朝だな。もう出発しているのかまだ王都にいるのかはわからないけど」

「そうか…… 無事だといいが……」

 そう言うとリトアは俺の眼を見つめてくる。
 綺麗な顔立ちをしているが俺はロリコンではない。

 ってかそもそもこいつ男だしな。
 俺はそっちの気はないぞ。
 俺の性癖を新規開拓しないでくれ。

「お前達、魔殺の討伐に協力してくれないだろうか。もちろんタダとは言わない。報酬も出そう」

 俺はよつば達が気になっていた所だけど、なんか危なそうじゃない?
 リトア達には屈強な戦士とか高位な魔術師とかそんなの揃ってるんだよな?
 俺は安全なところで『索敵』だけする仕事がしたいんだけど。
 みんなに聞いてみるか。

「みんな、どうする? この依頼受ける?」

「話も聞いちゃったしね、別に悪い事でもない。私は受けてもいいと思うよ」

「おう! 俺も賛成だ!」

「いいと思いますよ」

 全員賛成か。
 俺はレジーナに目で合図をする。
 レジーナさん、言ってやってください。

「じゃあ! その依頼受けるよ、どこまで力になれるかはわからないけどよろしくねリトア!」

 レジーナの良く通る声が俺の背筋を伸ばす。
 先に受けた冒険者ギルドの依頼もちょっと気になるがそれどころじゃないな。
 よつば達が心配だが、大丈夫だろうか。
 
 なるべく早く駆けつけてやろう。
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