いじめられっ子闇の魔法使いになる

1.いじめ

　ああ、まただ。
　吉川大作は不良の鷹森大介に一方的に殴られ、蹴られ、ボロボロになって倒れた。
　大作はこれを半年近くもいじめを受けていた。
　花園中学校、古臭い校舎の校舎裏に呼び出されてはサンドバックのように殴られる毎日、学校に行きたくなくても親には行けと強制的に送り出され、わざわざ大介にやられに行っている。
　一度いじめの話を親にした。
　親を経由して先生にも伝えたが、報復を恐れた先生はどうにもできないの一点張りであった。
　学校に行かない選択肢も提案したが、親は成績に響くことや義務教育だから仕方がないと理由をつけて無理やり学校に送り出す。
　誰も救えない、救ってくれない、暴力という一方的な力を持った人間の偉大な世界、大作は毎日絶望した。
　「ケッ、つまんねえなあ」
　大介は大作につばを吐いて帰ってしまった。
　全身が痛い。
　硬式野球のボールをぶつけられるぐらいの痛みだ。
　痛みが骨まで達している。
　いつまでこんなことを繰り返すのだろうか、いつになったら解放されるのだろうか、ずっとこんな毎日はもう嫌だ。
　立ち上がった大作は大介に放り投げられたカバンを拾って帰ろうとする。
　僕の人生はいじめられるためにあるのだろうか。
　大介のサンドバックのために生きるなんて嫌だ。
　けど逃げられない。
　どうしたらいいんだ。
　彼は絶望しながら、学校の校門を出た。
　空は夕暮れ、夏だがもうすぐ暗くなってくる頃合いだ。
　帰ろうとした時だった。
　道端に古本らしきものが転がっていた。
　誰かが落としたのだろうか。
　大作は古本を拾う。
　タイトルはよく分からない文字が書かれており、外国の本なのか？
　でも閑静な住宅街に来る外国人なんて少ないだろうし、見た感じボロボロで状態も悪くちょっと気味悪い感じがする。
　落とし物は落とし物、せめて交番に届けよう。
　大作は怪しい古本を拾った。
　ちょうど通学路に交番があり、寄っていける。
　せめていいことはしよう。
　別に褒められたい訳では無いが、いいことをして自分は模範的な人間になろう、大介みたいになったらお終いだと言い聞かせた。
　歩いて数分もしないうちに交番にたどり着いた。
　警察官に「これ、落とし物です。誰だかわからないけど」と答え、古本を渡す。
　「ありがとうね、君はいいことをしたよ。これは預かるから、後は任せなさい」
　その時だった。
　警察官は険しい表情を浮かべた。
　様子がおかしい。
　「どうしました？」
　大作が様子を伺うと、「この本だけど・・・・・・」と続ける。
　「悪いけど、この本は君が預かってくれないかな？」
　突然の回答に驚く大作、そんなことがあるのか・・・・・・。
　「この本は君の所有物だ。そう言うことにしておいてね」
　正直、大作の理解が追いついていなかった。
　この日、大作は謎の古本を貰って、家に帰った。