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アルバート

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 曇天の空、冷たい涙雨が降り注ぐ。
 ビームトーチの刃からは白煙が昇る。
 アイリスもアルバートも沈黙を維持して、お互いいつでも斬撃を繰り出せるよう、にらみ合いが続く。
 一秒でも遅れれば、どちらかがやられる。
 アイリスのスーツは雨に濡れ、ぐしゃぐしゃであった。
 しかし彼女は歯を食いしばり、アルバートを睨みつける。
 「行くぞ・・・・・・!」
 アルバートは声を押し殺して、駆け出す。
 ピチャ!
 雨で濡れた地面の足音、アイリスも身体を乗り出すように駆け出す。
 ついに動いたのか。
 アイリスとアルバートの二人は、刃を交えることなく、すれ違った。
 そしてアイリスは身体を反転させ、力づくでビームトーチを振りかざす。
 アルバートは、日本刀で一撃を防いだ。
 「これは!」
 アイリスはつばぜり合いになった瞬間に気づいた。」
 この日本刀は、ビームコーティングが施されていた。
 このビームトーチはどんな金属も切断できる強力なツール、非常時には最強の武器にさえなれる。
 しかしこの日本刀にはビームをはじくコーティングが施されており、言ってしまえば、ビームトーチのビームを無効化できる特殊な日本刀であることを、アイリスは理解した。
 アルバートは彼女の一撃を押し返す。
 「くっ!」
 アイリスは離れる。
 であれば脇腹を狙ってやる!
 そう考えた彼女はビームの刃を脇腹に打ち込もうとすると、アルバートはそうはさせんと日本刀で防ぐ。
 「僕の刀がビームコーティング対応だったことを見抜いたのはさすがだ。判断も的確だ。しかし何よりもすごいのは怒りに震え、僕への憎しみを強く抱き、ぶつけてくることにある!」
 アイリスは青ざめた。
 アルバートにはすべてがお見通しだった。
 そうだ。
 テロリストとそれに組するアルバートが憎い。
 アルバートの暖かい血が憎い。
 それさえ見抜かれている。
 アルバートは喜んでいた。
 「憎しみもいい、理想もいい、だが君は理解している。刃を交える時ほど熱血しているはずだ!」
 アイリスの怒りは頂点に達した。
 「何を言う!」
 怒りの一撃を振るう彼女、アルバートの腕から紅蓮の炎のようなものが出現する。
 「何だ?!」
 この熱気、異常だ。
 「奥義、『紅蓮腕(ぐれんかいな)』!」
 アルバートの刀から紅蓮の炎が放たれた。
 アイリスはまずいと察し、すぐ回避した。
 限界スレスレのところで回避はできたが、数cm間違えれば、直撃を受け、最悪焼き払われていただろう。
 紅蓮の炎は涙雨に勝っていた。
 「この攻撃・・・・・・まさか!」
 アイリスの顔色が悪くなった。
 そう。
 アルバート、彼は『黒魔術』の使い手だ。
 「そうだよ。僕も『黒魔術』を使えるのさ」
 全身から不快な汗が流れる。
 そんな馬鹿な。
 『黒魔術』を使える『トランスロイド』が自分以外にいたなんて・・・・・・。
 アルバート・ラチェット、異常なまでの力、限りなく恐ろしささえ感じる精神力、アイリスは今までで一番恐怖した。
 こんなやつがいたなんて。
 アルバートの歓喜に潜む、プリミティブな殺意、アイリスはかなり恐怖していた。
 勝てるのか?
 いや殺される。
 『紅蓮腕』の素早い一撃は『スピリットフィールド』を展開するより早く、威力も打ち破れる余裕さえ感じ、何よりも彼は戦うたびに喜び、快感で満たされている。
 『黒魔術』と彼の異常な精神の相乗効果、アイリスは今までで感じたことない恐怖を感じていた。
 怒りと憎しみに駆られる闘争心を失いつつあった。
 「アルバート様!」
 テロリストの一人が駆けつける。
 「ビックベン爆破計画が失敗しました!」
 その掛け声にアルバートの顔色は急激に悪くなる。
 「そうか、ここは引く。他の連中も後退させろ!」
 アルバートはテロリストの一人に命令すると、刀を鞘へと収める。
 「また夜に来る。その時に、決着をつけよう」
 アルバートはそう言い残すと、研究所を去っていく。
 助かった。
 だがアイリスは何故か怒りに震えていた。
 血管が切れそうだった。
 情けをかけられたに違いない。
 殺すこともできただろうにと。
 何よりもアルバートに言葉では言い表せない激しい憎悪の心が、濡れた全身を蝕んでいく。
 夜か。
 次は必ず倒す。
 アイリスは胸に誓った。
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