マーヴェリックストライカーズ

アイリス

　燃え盛る研究棟の数々、テロリストの男たちの死体、少女アイリスは混乱していた。
　両手は震え、先ほどの鬼神のような表情は絶望の色に塗り替えられていた。
　「私は、何を・・・・・・」
　自分が何をしているかわからない。
　どうしてここにいるかさえわからない。
　一つ確かなのは自分は人を殺したということだけだった。
　いつからか、銃を手にした男たちを前に、本能で戦った。
　本能が叫んだ。
　彼らを殺せと。
　暴力の加減もわからず、とにかくがむしゃらに戦っていた。
　自分が怖い。
　自分が自分でなくなる感覚がある。
　自分という色を失って、消えてしまうかもしれない。
　そんな恐怖しかない。
　「どうして、どうして私は・・・・・・人を・・・・・・」
　どうしたらいい？
　これからどうすればいい？
　誰もここにはいない。
　アイリスの視線は白衣姿の老人に向かった。
　彼女は涙を流していた。
　「お父さん・・・・・・」
　記憶が蘇る。
　ロンドンの貧民街を彷徨っていたときに手を差し伸べた白衣姿の老人を、そしてどこか温かさを感じるラボの中で衣食住が約束された日のことを、そしてこのスーツをプレゼントされたことも、ぼやけながらだが、アイリスの脳裏に再生された。
　「今、お父さんって言ったのか？」
　この老人は自分の育ての親だ。
　なぜだろう。
　具体的な記憶のない中で、なぜかそのことだけは確かに理解していたのだ。
　お父さんは殺された。
　あの男に。
　あの少年に。
　誰なんだ？
　どうしてこんなことをしたんだ？
　アイリスから怒りが込み上がった。
　あいつらは何者なんだ。
　燃え盛る黒煙、あちらこちらに散らばる亡骸の数々、アイリスはただ立ち尽くすだけだった。