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1550系電車異世界へ行く

1550系電車

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 東京は大田区蒲田、とある大手私鉄の支線があった。
 五反田方面に行く支線で、1550系電車が活躍していた。
 1550系電車は元々は本線用の電車で、地下鉄線乗り入れ用に製造された車両だった。
 しかし地下鉄線乗り入れの運用の終了やホームドアの導入により、本線での役目を終え、横浜郊外の車庫へと回送される。
 その後、新車と同じ内装・床下機器などに改装され、塗装も赤色の塗装から緑色に塗り替えられ、8両から3両へと短い編成になった。
 元々、中間に挟まれていた車両だった関係から中間車のうち2両に運転台を取り付けた。
 名義上は新車導入となっているが元は町工場で保管されていた謎の中間車3両を試作車として転用したので、たった1編成の異端車となっている。
 この車両は次世代の電源装置やモーターの試験車として運用されている。
 旅客営業にも使えるよう、座席を残してある。
 そのため朝のラッシュ・夕方のラッシュに運用され、日中や休日は車庫で停泊していることの多い車両である。
 異端の1550系は蒲田駅のホームに滑り込むように停車する。
 遠目越しに車両を眺める駅員の榊と柳、彼らの先には鉄道ファンらしき男性3人がカメラを構えていた。
 「あらあら、カメラなんか構えちゃって」
 榊が呆れたような物言いをする。
 「珍しい車ですからね。都外からわざわざ来る客もいるとか」
 「何もあれだけのために見物することもなかろうに」
 「それにしてのあの車両、いつまで持つんでしょうかね?」
 「さあな、試作型だから先は長くないかもしれないな」
 榊は事務室に戻る。
 1550系電車は、蒲田駅で折り返し運転の準備をしていた。
 乗客たちは異端な経歴を持っている電車に興味がなかった。
 のっぺらぼうみたいな平面デザインの車体、濃い緑と明るい緑、金色の帯によってさわやかさのある見た目、内装は新型車と見まがうくらいきれいで上品の木目調に仕上がっており、乗客たちは気にすることなく、目的地に向かって列車に乗り込む。
 1550系電車は、深夜の最終電車までこの運用を続けて田園調布の裏手にある車庫で朝方まで留置される。
 そんなルーチンに耐えながら、1550系電車は今日も一日過酷な運用に耐える。


ー深夜ー


 田園調布の裏手にある車庫、1550系は留置線に留置されていた。
 パンタグラフを下げた後、電源を切る車両、通勤客たちを支えた珍しい車は、ようやく休息の時を迎える。
 車内の照明がすべて消えた。
 1550系は基本的に平日のラッシュ時のみに運用に入る。
 今日は金曜日、休日は車庫で留置されることの多い車両のため、ある意味電車の休日を迎えることになる。
 誰もが寝静まる街、1550系は平日まで車庫で休んでいる。

ー早朝ー

 曇りの日の土曜の午前5時、東京都内は黒い霧に包まれた。
 その日は異様なほどの黒い霧が街を包み、不気味な様子だった。
 田園調布では、その不気味さから人が一人も外出することがなかったという情報もあるようだ。
 そして、事件が発生する。
 霧が明けた後、田園調布裏手の車庫に留置されていた電車が、信じられないことに消息を絶ったのだ。
 鉄道会社・警察の関係者も駆けつけたが、彼ら彼女らも唖然とした。
 1550系電車が黒い霧の明けた後に線路上から姿を消し、全地域を捜索しても部品一つ手がかりが見つからなかったのだ。
 この黒い霧も発生理由は不明で、一つ確かなのは黒い霧の発生で電車が消えたという奇妙な事実だけが残る。
 幸いなことに、乗客も乗務員も車内にいなかった。
 しかし消えた電車の存在に誰もが驚いていた。
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