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車庫で
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雪が谷大塚駅にはそこそこの大きい車庫があった。
そこには池上線で運用される車両が多数停車していた。
多くの電車は旧型電車で、戦前生まれが大半の状態であった。
その中にはおじいさんの電車も混じっていた。
おじいさんの電車は改造されているようだが大正時代に生まれた、言ってしまえば、電車の長老のような存在だ。
1956年の暑い夏の日だった。
あの終戦の夏のような暑さだ。
おじいさんの電車は、パンタグラフを下げたまま動くことはなかった。
僕はどうしてか分からないが、雪が谷大塚から電車に乗ることが多くなり、車庫でずっと停車したままのおじいさんの電車をよく目にする。
おじいさんの電車は朝から晩までほとんど動かなかった。
別の日、おじいさんの電車は全然動かなかった。
おじいさんの電車は秋を迎える日も動くどころかパンタグラフも上昇させることなく、ただ車庫で停車していただけだった。
僕はたまたま、旧海軍の技術者で鉄道技師になった同期とコンタクトが取れた。
実はそのために海軍の連絡網を便りに土方に連絡し、土方を経由して、国鉄で鉄道技師をしている水島技師と出会った。
そこでおじいさんの電車のことを知った。
水島技師の話によれば、あの電車がどこの鉄道の車両かも不明で、国鉄が戦後の混乱期に発見し、その後は池上線のピンチヒッターとして導入されたとか。
東京大空襲、人だけでなく建物までも焼け、列車もかなりの数の車両が被災し、中には全焼してしまった車両もいるようだ。
おじいさんの電車は大正時代に造られた謎の電車で、止む無く車体とあり合わせの台車・モーター・電装機器などを組み合わせて、稼働できない電車の代打として導入された複雑な経緯があるようだ。
しかし元が木造の電車に金属の板を貼り付けた、『応急処置電車』で長期の使用を見越していなかったようだ。
水島技師によれば、あの車両はどこかで解体されるだろうとのことだった。
ついにか。
引退、そして解体、電車は役目を終えたら保存されるか解体されるかしかない。
おじいさんの電車は、もういなくなってしまうんだ。
水島技師の話は本当になり、冬を迎える日、ついに雪が谷大塚の車庫から電車が消えてしまった。
胸が締め付けられそうだ。
寂しさで景色が何もかも灰色になりそうだ。
残念な思いを抱いた僕は、その日はそのまま職場へと向かう。
おじいさんの電車がいなくなって2日後に、土方が面会したいとのことだったので、銀座のレストランで落ち合うことになった。
土方は家庭に恵まれ、あの敗戦の屈辱で涙した土方とは違う、優しい男性の印象へと変わった。
土方は僕を見て「相変わらずだな」と笑った。
安心した。
彼が元気でいて安心できた。
土方から奇妙なことを質問された。
「大日本帝国は、連合国軍に無条件降伏したが、そんな中でお前は何に出会った?」
突然だった。
僕は数秒迷った。
深くは考えていなかったので、「おじいさんの電車に出会った」と答えた。
「なんだそれは?」と彼は笑いながら質問する。
実家のある雪が谷を通る池上線の電車のことを話した。
土方は水島技師を頼ったのはその電車のことを知るためだったのかと驚いた。
土方との時間は楽しかった。
まだおじいさんの電車の別れは気がかりだが、土方のおかげで少し安心感を感じた。
この日は、新しい線路を歩もうとする自分たちを確認して別れた。
そこには池上線で運用される車両が多数停車していた。
多くの電車は旧型電車で、戦前生まれが大半の状態であった。
その中にはおじいさんの電車も混じっていた。
おじいさんの電車は改造されているようだが大正時代に生まれた、言ってしまえば、電車の長老のような存在だ。
1956年の暑い夏の日だった。
あの終戦の夏のような暑さだ。
おじいさんの電車は、パンタグラフを下げたまま動くことはなかった。
僕はどうしてか分からないが、雪が谷大塚から電車に乗ることが多くなり、車庫でずっと停車したままのおじいさんの電車をよく目にする。
おじいさんの電車は朝から晩までほとんど動かなかった。
別の日、おじいさんの電車は全然動かなかった。
おじいさんの電車は秋を迎える日も動くどころかパンタグラフも上昇させることなく、ただ車庫で停車していただけだった。
僕はたまたま、旧海軍の技術者で鉄道技師になった同期とコンタクトが取れた。
実はそのために海軍の連絡網を便りに土方に連絡し、土方を経由して、国鉄で鉄道技師をしている水島技師と出会った。
そこでおじいさんの電車のことを知った。
水島技師の話によれば、あの電車がどこの鉄道の車両かも不明で、国鉄が戦後の混乱期に発見し、その後は池上線のピンチヒッターとして導入されたとか。
東京大空襲、人だけでなく建物までも焼け、列車もかなりの数の車両が被災し、中には全焼してしまった車両もいるようだ。
おじいさんの電車は大正時代に造られた謎の電車で、止む無く車体とあり合わせの台車・モーター・電装機器などを組み合わせて、稼働できない電車の代打として導入された複雑な経緯があるようだ。
しかし元が木造の電車に金属の板を貼り付けた、『応急処置電車』で長期の使用を見越していなかったようだ。
水島技師によれば、あの車両はどこかで解体されるだろうとのことだった。
ついにか。
引退、そして解体、電車は役目を終えたら保存されるか解体されるかしかない。
おじいさんの電車は、もういなくなってしまうんだ。
水島技師の話は本当になり、冬を迎える日、ついに雪が谷大塚の車庫から電車が消えてしまった。
胸が締め付けられそうだ。
寂しさで景色が何もかも灰色になりそうだ。
残念な思いを抱いた僕は、その日はそのまま職場へと向かう。
おじいさんの電車がいなくなって2日後に、土方が面会したいとのことだったので、銀座のレストランで落ち合うことになった。
土方は家庭に恵まれ、あの敗戦の屈辱で涙した土方とは違う、優しい男性の印象へと変わった。
土方は僕を見て「相変わらずだな」と笑った。
安心した。
彼が元気でいて安心できた。
土方から奇妙なことを質問された。
「大日本帝国は、連合国軍に無条件降伏したが、そんな中でお前は何に出会った?」
突然だった。
僕は数秒迷った。
深くは考えていなかったので、「おじいさんの電車に出会った」と答えた。
「なんだそれは?」と彼は笑いながら質問する。
実家のある雪が谷を通る池上線の電車のことを話した。
土方は水島技師を頼ったのはその電車のことを知るためだったのかと驚いた。
土方との時間は楽しかった。
まだおじいさんの電車の別れは気がかりだが、土方のおかげで少し安心感を感じた。
この日は、新しい線路を歩もうとする自分たちを確認して別れた。
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