ヘタレ淫魔は変態小説家に偏愛される

須藤うどん

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ヘタレ淫魔、ヤンデレ吸血鬼に粘着される

ヘタレ淫魔はヤンデレ吸血鬼に粘着される(1)

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 春の某日、おれは縁側でソノオといちゃついていた。
 いい天気だなあ。平和で何よりだ。今日もミックスジュースはおいしいな。明日はサイダーを飲もう。平和で何よりだ。 

 と、突然現れた蝙蝠がおればかりを狙って顔の周りをバサバサと執拗に飛び回る。ソノオは無謀にも素手で追い払おうとする。いや、無謀すぎるでしょ!

「蝙蝠〈こうもり〉? 珍しいねえ。ほら、あっちへお行き」
「ソノオ、危ない! その蝙蝠は……!」

 おれにとって嫌な意味で見覚えのある紫色の蝙蝠はスゥーと縦に長く影を伸ばしたかと思うと鋭い牙の生えた長身の青年の姿になった。

「よぉ。アホ淫魔。あんなに貧相だったのに、ちょっと見ねえ間に美味そうに太ったじゃねえか」
「カシマ……!」
 カシマは魔界での知り合いである吸血鬼だ。子どもの頃からおれをしつこくいじめて怖がらせて来た。
 今もおれに不気味に笑いかけ、怖がって逃げるおれをニタニタしながらおいまわしてくる。怖いよぉー!
 
「何をしているんだい? 許さないよ!」

 なんと、ソノオがカシマを投げ飛ばす。ソノオはただの物理攻撃でなぜか吸血鬼に勝ってしまった。
 おれは思わずぱちぱちと拍手した。人間界最強はソノオ確定だ。
「畜生。覚えてろよ……」
「綺麗さっぱり忘れたまえ。そのほうが君の身のためだ。もう二度とリケのところに来るんじゃないよ!?」
「畜生がよ……」
「なんだい? ぶん殴るよ」

 ソノオは実際に殴った。 




  
 そんなやりとりを交わしておいて、その後もカシマはやたらとおれに付き纏って嫌な態度をとってきた。

 そろそろおれも思い知ってはいたけど、ソノオはめちゃくちゃ雑で強引な性格なので、カシマが庭にやってきてもニンニクチューブで脅しておれの前から追い払い、ついでに風呂掃除をさせたりゴミ出しをさせたりと使いっ走りにまでしている。
 すげー。強すぎ。この世の生き物の中で一番強いんじゃねーか? いや、マジで……。

 
「彼……あのカス吸血鬼とはどんな関係性なのかね?」

 カス吸血鬼……! 口まで悪い……!  おれは子ども時代からの苦労を説明した。

 かくかくしかじか……。

「あいつ、おれをいじめるとおれのお姉ちゃんたち――あ、双子でめちゃくちゃ美人なんだけどが、おれを守りにくるから、おねーちゃんたちに会いたくてやるんだと思う」

 ソノオは閉口していた。なんで?

「え? 何……?」
「いや……リケはあんまり無邪気だなあと、さすがの僕も、ね……」
「……?」

 


 
 次の日、おれは公園で尋音と遊んでいた。
 
「リケさぁ……ブランコって幼稚園児じゃないんだから」
「でも、同じサイダーでもブランコに座って飲んだほうがおいしいぞ」
「そう感じるのはリケが子どもだからだよ。大体、僕はブランコに座ってるだけなのに、リケは全力で漕いでるし」
「こ、子どもじゃねえもん!」

 
 ……! カシマがやってきた……!

「よぉ、チビ」
「ぎゃっ! カシマ!」
「チビ、って、小学生かよ」
 尋音が立ち向かう。小学生はおまえだろ……。
「はあ? なンだア? 小憎ったらしいガキだな。乾涸びるまで血を啜ってやろうか?」
 カシマの目が本気の怒りを宿した。こいつは怒ると加減を知らない。 
「尋音……! 逃げっ」

 しかし、吸血鬼のカシマに人間でそれも子どもの尋音が対抗できるはずがないだろう。

「つか、こんなちっせェ子まで誑かして。リケきゅんは魔界にいた頃から無自覚タラシのサークルクラッシャーでちたねぇー?」
「おれ、そんなんじゃねえもん!」
「でも、こっちでも何人もお前としては好きでもねえ男から執着されてただろが!?」

 おれは傘と千尋を思い出してびくっとする。
 ん……? てか、なんでカシマがそのこと知ってんの?

「それはリケが悪いわけじゃねえだろ」
 尋音が怒りと冷たさを含んだ声で言う。

「ンだア!? クソ生意気なマセガキがよ!」
 カシマが尋音を背後から捕まえて羽交い締めにした。
「ひィッ……!?」
 尋音が引き攣った悲鳴を上げる。
「子どもから真っ先に狙うなんて卑怯だぞ!」
 おれは尋音を庇っておれなりにカシマに立ち向かう。しかし、腕力でも魔力でも分が悪いのは最初からわかりきっている。おれは負けない、勝てると自分に言い聞かせて自分を奮い立たせる。
 
「おれだって魔族の端くれだ! そう簡単に負けねえもん!」
「なんなんだよ、『もん』って。何歳児だよ、その喋り方。イライラすんだよ。相変わらずブランコも好きなんだなあ? つか、何その服装? なんでひらひら? なんでスカート?」

「なに!? 質問が多くて頭追いつかねえんだけど!」
「相変わらず頭も悪そうで何よりだ。ギャハハ!」
「ひ、ひどい……!」
「ケッ。おつむ五歳児がよ。あーあ、つまんね。このガキの血、吸っちまおうかなあ~?」

 まずい! こいつ、本気でやりかねない!

「尋音! 逃げろ!」

(うぅ……! おれ、馬鹿でヘタレだけど、おれがなんとかしねえと……!)
 
(腹括らねえと……)  
 おれ――淫魔のおれにしか使えない技を使うしかない……!

 おれは意図的にカシマを睨みつけ、フェロモンの蛇口を最大限にまで開けた。おれは蛇口を閉めることができないけど、上限まで開けっ放しにすることはできるんだ。
 でも、この必殺技は、おれ自身も発情することと引き換えだ。

「!?!?」

 効果はすぐにカシマに現れた。一瞬にしてビンと勃起する。
「ぐ、ぅッ……!? チンコ痛ッつ! チビ、テメェ……やりやがったな!?」
「お゙ッ♡♡ ぼ♡♡ ォ゙っ、ん♡♡♡」
 おれは自分の身体を抱きしめて悶えた。おれにも盛大に効果現れてるけど……。
「クソッ……テメ……! ふざけんなッ、ふざけんなよッ!?」
 カシマは快感で膝が笑っている状態になり、上体を丸めて強ばらせ、やがて、小さく「ウッ」と唸った。
「フゥーッ……フゥーーッ…………」
 カシマは絶頂を迎えたのだ。黒いスラックスの下の股間は粘って濡れているはずだ。おれのスカートの中も同じ状態だけど。

 何はともあれ、おれはカシマを絶頂状態にさせ、その隙に尋音を逃がすことに成功した。

 あれ……? おれ、ポンコツ淫魔なばかりでもねえかも? やれば案外できるかも……?
 おれは初めて芽生えたポカポカした自信を胸に抱きしめた。
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