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ヘタレ淫魔と淡雪少年

ヘタレ淫魔と淡雪少年(2)

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 おれは寒空の下を飛んでいた。今日はアサユキから「次に会ったら頼みたいことがある」と言われている。頼み事ってなんだろう。何を頼まれるのか、なんだかハラハラする。

 
「よ、よぉ、アサユキ……っ! きょ、今日も寒ぃなっ!」
 病室に着いたおれは、頼まれ事への緊張をあからさまに表に出してしまっていた。
「そう硬くならずに座りなよ」
 笑いながら促されて、アサユキのベッドの隅にちょこんと胡座をかく。
「うん。リケは今日も可愛いね」
「え……?」
 アサユキからそんな風に口説くような物言いをされるのは初めてだった。なんのつもりだろうとつい警戒してしまっていると、アサユキがこちらに手を差し出してきた。

「僕の童貞、卒業させてくれないかな?」

「はぁあ!?」
 急に何ィ!? え! おれらってそういう関係じゃねえよな!?
 おれは混乱した。
 
「声が大きいよ。外にいる看護師さんたちに聞こえちゃう」
「だって、おま! それこそ看護師さんたちに声が聞こえちゃう!」
「リケが声を抑えればいい」
「そんにゃっ!」
 おれにそんな芸当はできない!
「そんなこともできないの? 淫乱だから?」
 こいつぅ! 酷い!
 アサユキは意地悪くくつくつ笑っている。
 しかし、消灯するような一瞬のスイッチの切り替えで笑顔を消すと、言った。

「だって僕、多分、そのうち、そう遠くないうちに死んじゃうんだよ。多分、童貞のまま。それは恥ではないかもだけど、寂しいじゃないか。だって……」
 アサユキはおれの目をじーっと見た。『だって……』の続きは、なんだよ……?

「でも、お、おおおおおれッ、好きな人、いるし! アサユキが童貞卒業したいなら、友達だし、力になりたい気持ちはあるけど、好きな人、いるからごめん!」
 おれは特定の誰を好きとまでは言わなかったが、恋をしているという事実を持ち出してお断りした。ごめん、アサユキ。

「好きな人……?」
 と、アサユキが途端に軽蔑の眼差しをおれに向けた。

「好きな人? 何言ってるの。リケはね、お人好しであっても結局は人間を食べ物としてしか見ていないんだよ。無自覚だろうけど。病に冒されて日に日に腐っていく僕はおいしくなさそうかなあ? 結局、君は食い意地の化身なんだよ。君のほうは友達のつもりでいても、僕からしたら、おいしいかおいしくなさそうか、食べ物を見る目で品定めされていると感じる」

 なんだ、おれのこと、天使だと信じたいなんて言いながら、結局、がっつり淫魔として見てるんじゃん……。

「酷いこと言わないでよ! おれはそんなんじゃない!」  
「みんながリケに甘すぎるんだよ。リケはこのくらい言われていいと思う」
「なんでだよ! おれだって……全部が全部、好きで選んで生まれてこれたわけでもねえし、全然、器用に上手くやれてるわけでもねえ。そんな、こ、攻撃されたって困る……」
 おれはアサユキの言葉が悲しくて震えた。おれ、アサユキから友達として見られてなかったんだ……。悲しい、悲しい……おれは次々に涙を滴らせ、アサユキはその様を冷たく眺めていた。
「ひ、酷い! アサユキ、酷すぎる! そこまで言わなくていいじゃん!」
 おれは耐えきれずに叫んだ。
「やめて。看護師さんたちに聞こえちゃうよ」
「だ、だってアサユキがひでぇこと言うからぁ……」
 アサユキはおれのベソを意に介さず、冷えた声で淡々と続けた。
「ねえ、また来てくれるよね? リケがいなくなった隙に僕、死んじゃうかもしれないよ?」
 そう言われてしまうと、断れないのがおれの性分だった。


 家に帰って炬燵で考え込んでいるとソノオが寄ってきておれの肩を抱いた。好きな人から肩をだかれていると意識するとびくっと跳ねてしまう。

「どうしたの? そんなに思いつめた顔をして」
 大きく温かい手のひらがおれの二の腕らへんに触れている。さっきのアサユキとのこと、話して、いいのかな……?
 おれは迷って口を閉ざしていた。話すことはアサユキへの裏切りに当たらないだろうか。

「ふぅん……。誰にも言いつけず抱え込むのがある意味、君の正義なのかもしれないねえ。でも、水を差すようだけれど、それをするには君はあまりに繊細だ。壊れてしまうよ?」

 おれのことを繊細と評するソノオの優しい声に涙腺が決壊したおれは泣きじゃくりながら本当のことを話した。好きな人イコールソノオであることだけ伏せて、他は洗いざらい喋った。
 ソノオは暫く黙って飄々と考え事をしていたが、ふっ、と口を開いて大胆なことを言い出した。
 
「その子のところに一緒に行こうか」
「へぇぇ!? ソノオが?」
「大丈夫。暴力は絶対に振るわない」
「ほ、ほんとだな……?」
「僕は冗談は言っても嘘はつかないよ」
「よ、よかったぁ……」
「君。僕をゴリラか何かだと思っている節があるだろう。まあ、それは常田さんからも君から以上にそう思われているし、君相手に限った話じゃないがね」
 ソノオのイメージがゴリラ……。ごめんけど、その通りすぎて、口が塞がってしまった。インテリ優男ゴリラだと思ってる、ごめん。

 と、突如、唇を奪われる。力技で醸し出された湿っぽく熱い雰囲気に呑まれてキスをし、スカートの中のパンツの中に手を入れられて、手マンされる。

「ん゙ぶっ♡♡ ぉ゙ほ♡♡♡」
 喘ぎながらもおれは突然の状況に(何!?)と思っている。だが、その困惑はすぐ快楽に押し流されてなくなる。
「よしよし。可愛いねえ」
「ぅ♡♡♡ うぅん゙~っ♡♡」
 ソノオに可愛いと言われておなかの奥が蕩け、おれは愚図りながら腰をよじった。

 くちゅくちゅぐちゅ♡♡

「ん゙お゙っほ♡♡ ンン゙~~ッ♡♡♡」

 爪先が丸まって呆気なくイってしまった。
「ハァ、ぁ♡♡ あァァ……♡♡♡」


 余韻が落ち着いてから、
「心とカラダ、少しはすっきりした?」
 とソノオに聞かれる。
「すっきり、した、けど……ソノオは挿れたり、出さなくていいのか?」
「僕は、もう。今、君を抱くと妙に荒ぶってしまいそうだから」

 ええ? なんのことやら……?
 ソノオの言うことは時々、ガキんちょのおれにはよく意味がわからない。

 アサユキのところに出かけようとしていると、傘が相変わらずのぬらっとした風体で遊びに来た。
「ごめんけど、これから出かけるんだよ。またにしてくれたまえ」
「デートか?」
「ちっ、ちがっ!」

 狼狽えるおれと対照的にソノオが冷静に事情を説明した。
「ああ、朝雪のことか。なら、俺も一緒、行くわ」
「えっ、なんで傘がアサユキを知ってるの!?」
 おれは心底、びっくりする。
「あいつこそが俺の病弱な従弟」
「えぇ!」
「あいつのフルネーム、梨本朝雪だろ? 俺の本名も梨本」
「えぇぇー!」

 たしかに、ヒントは今までたくさんあった。おれがアホで答えに辿り着けなかっただけで。
 今、ぼやけていた点と点が線で結びついた。

 おれたちは奇妙な取り合わせで三人でアサユキのところに向かった。
 それにしても。
 アサユキがオーバーキルされねえかな、この面子。おれはにわかに心配になる。

  
(つづく)
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