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ヘタレ淫魔と青少年の孤独

ヘタレ淫魔と青少年の孤独(3)

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 チヒロにぶたれてからしばらく経って、おれはヒロネとは定期的に「おかあさんごっこ」をやっていた。
「バカだから喋らなくていいからね」
「おれがバカなのは重々、自覚済みなのに今さら何度も言わないで!」
 そうやってある意味、じゃれるのにもこちらも慣れてきた。
「おい」
 そのとき、低い声が聞こえた。
「いい加減、父さんも僕の部屋に鍵つけてくれないかなあ」
 ヒロネが心底、うんざりした風に言った。チヒロに「おかあさんごっこ」の現場を見つかってしまったのだ。

「おまえ、誰だよ。尋音と何をしてるんだよ? え、母さん……? 母さんがなんで……」

 唖然とするチヒロにおれがリアクションに困っていると、ヒロネが淡々と事実を説明した。

「俺の弟に何してくれてんだ!」
 チヒロはおれのチョコレート色の丸襟ワンピースの襟ぐりを掴んでどこかへ連れ去ろうとする。
「弟を心配する素振り? 大嘘つきだね」
 呟くヒロネの声が背中側から聞こえた。

 
 おれは千尋の私室に連れ去られた

 おれはチヒロのベッドに叩きつけられてAラインのワンピースの中の生成のフリルのショーツを剥ぎ取られた。
「あ! やめて! パンツ返して!」
 それはソノオに買ってもらったパンツだ。
「ふっ。女物じゃねえか。こんなもん履きやがって、着るもんからして男を誘ってんのかよ、小汚ねえ色魔がよ!」
 酷い!
「ブンブンと羽、生やして、俺や尋音みてえなゴミに蝿みてえに集って、良い根性してんな。顔だけは良いけどよ」
 無理やり指を挿れられて慣らされて、潤滑剤も何も、ローションどころか唾液さえ使ってくれなくて……痛い! そんな、嬉しくもないセックス、というか強姦で濡れないもん!
「や、やめてよォ……」
 強く拒みたいのに弱々しい声しか出せない。誰か……誰か助けて、ソノオ……。

 ……あ。ヒロネは、ヒロネはどうしてるだろう。
 多分、ヒロネは早熟だから、おれが今、何をされてるか勘づいてる。ヒロネにはさすがに助けを求められない。残酷すぎる。

 助けて、ソノオ……!
 チヒロに犯されたくない……!

 
 だって、おれがセックスしたいのは、
 好きなのは、
 ソノオだから。

 
  そうだ。今、気づいた。ずっともやもやしていた気持ちの正体。刺身と傘の関係性が羨ましく思えたのも、おれの話を書いてほしいのも、おれへの感情を問うたとき、はぐらかされて寂しかったのも、チヒロの告白に拒否感を覚えたのも、今、チヒロから無理矢理セックスされるのにはとても嫌悪感を覚えてるけどソノオとヤるときはいつも自分からずぶ濡れなのも、全部全部、ソノオが好きだから。

「チヒロ」
 おれは声を上げた。
「おれ、自分には好きな人がいることにやっぱり気づいたから、おまえと会うのはやめたい」
 おれが覚悟を決めて告げると、チヒロは俯いて、それから、チヒロはチヒロで……何か妙に決意したような顔をして、顔を上げた。
「え……? どうした? 黙りこくって」
 チヒロは暗い声で告げてきた。
「……君と一緒に死にたい」
「えぇーっ! やだやだ! 死ぬの怖い、やだ!」

 試しのようにしてチヒロはおれの首を絞めてくる。おれは非力だから上手く抵抗できない。

「ゔぅ……ッ! ぐぅッ!?」

 離して! 苦しい! 苦しい! 息できない! 本当に死んじゃう!

 しょろろろろろろろろ……!

 
 おれはおしっこを漏らした。おれの失禁にびっくりしたチヒロはおれの首から手を話した。
 た、助かったぁ……。おしっこが出てくれて助かった……。

 そのとき、豪邸ぎみの千尋と尋音の家――秋草〈あきくさ〉家――の三階の窓を外からノックするものがある。
 ソノオ……!?
 おれが大急ぎで開けると予想したとおり、ソノオだった。三階の窓からとか、さすがフィジカル強いな……。

「へえ。リケがくれた血の結晶、本当に君の居場所が瞬時にわかるんだねえ」
「ソノオ♡ ソノオ♡ 来てほしかった♡ 来てくれると思ってた♡♡ ソノオ♡♡」
 おれは今すぐにでも雌落ちしそうな勢いで喜んだ。一方、ソノオはというと、怒りに満ちた鋭い眼光に口許は不敵に笑っている。
「少年。そんなに死にたいなら、僕がブチ殺してあげるよ。死後の世界がどんな場所か、知れたものではない。酷くおっかない場所かもしれないのに、合意を取らずに他人を巻き込むのかね? そこまで死にたいのなら、まずは潔く一人で逝ける度胸を示したまえ。死は救済でもなんでもないし、おすすめはしないがね」
 ソノオの手にはなんと、刃渡りの長いナイフが握られている。

「ひいぃーっ!」
 ナイフを見て悲鳴を上げたのはおれだ。 
 とうの千尋は魅入られたように大人しく黙りこくっていた。

 チヒロは、凄い目力で睨みつけるソノオからふっと視線を外すと、ようやく口を開いて、
「死ぬの、やめた」
と掠れた声で言う。

 そうして、千尋は静かに床に崩れ落ちた。 

 しばらくの間、カタカタと震えていた千尋がようやく平静を取り戻して言う。

「なんか、気が済んじゃったな。萎えたってか。親友ともう一度、話し合ってみる。恋人になれなくても友達としてこれからも一緒にいられないか、って」

 千尋は憑き物が落ちたような晴れやかな笑顔を見せた。短い間しか一緒にいなかったけど、初めて、チヒロの笑顔を見た。


 ドンドンドンドン!

 やっと空気が落ち着いたかと思えば、今度はヒロネだった。

「リケ、好きだ、駆け落ちしよう。僕はママに見捨られたし、パパと兄ちゃんのことは僕が心の中で見捨ててる。僕にはもうリケしかいない!」
 切羽詰まった様子だった。初めて、ヒロネの子どもらしい声を聞いた。

 そ、そんなこと言われても、おれはどうしたら……。
 すると、ソノオが部屋の中のチヒロと部屋の外のヒロネとに同時に柔らかい声で語りかけた。

「小さいほうの少年。君には孤独とトラウマから救われる権利がある。その権利を存分に行使しなさい。それから、そっちの大きいほうの少年も他人に依存するのではなく、破滅するならするで、這い上がるなら這い上がるで、自分の意思をしっかり持ってやるべきだ。僕は後者を強くおすすめするがね。世の中には君たちのような親との関係性や人生そのものに悩める青少年の話を聞いて然るべきアドバイスや支援をくれる仕事の大人がいるから……君が彼らと繋がれるよう、僕も手を貸すのに吝〈やぶさ〉かでない」

 はい、と二人は声を揃えて静かに答えた。

 
 手を貸すとソノオは言ったから、おれたちと秋草兄弟との縁が切れることはないだろう。
 おれは、とりあえずの別れ際に二人に言った。
「オレみてえなヘタレな大人になっちまったらダメだぞ? 強く生きろよ。尋音と千尋ならそれができるから」
「リケは子どもだよ。まだまだ子どもだよ。だから、リケも今からでも強い大人になりなよ」
 そう、ヒロネは言い、チヒロはおれに深々と謝罪し、ソノオには繰り返し、礼を言っていた。弟共々世話になります、と。
 そうして、おれたちはその場を別れた。

 
「帰るよ」
「うん」

 帰ったらソノオに何をされるのか、大体だけど想像はついた。

「ふ♡ ん゙ふ♡ ほぉ゙♡」

 そう刺激的な快感ではないはずなのだが、精神的快楽の強さから、おれは溺れて藻掻くように喘いでいた。
 おれはチヒロに犯〈や〉られたのの上書きとしてソノオから全身にキスを落とされ、吸いつかれて舐められて、身震いして、もぞもぞと膝を擦り合わせていた。
「良い太ももになったね。前は痩せすぎて心配だったから」
「そんなに肉ついたかな、おれ」
「元が精液〈栄養〉不足であまりに細かったからね。あばらも浮いてたし。今は程よい華奢さ加減で、上半身はスレンダーだが、脱がすと筋肉と脂肪で下半身が丸みを帯びている。特にお尻や、この太ももで顕著だ」
 い、言われるとなんだか恥ずかしい……ッ。
「よ、よく見てるな」
「そりゃ、官能小説家だからね。美しくエロティックな肉体には目ざといし、描写力にはそれなりの自信があるよ」
 美しく、エロティック……。うぅ……面と向かって言われると恥ずかしいよぉ……。
「本当に、むちむちとして愛らしい」
 ソノオがおれの内ももに手を差し入れて、まさぐった。
「ん゙んっ♡♡ ぉッほ♡♡」
「おや、これだけで感じてしまうの?」
「ふゔ♡♡ うぅ……♡♡」
 おれは小刻みに震えながら熱い息を吐いた。美しくてエロティックと呼ばれた場所にやや強引に触れられるのが、恥ずかしいけど嬉しかった。
「おや、えっちだねえ。もうこんなにおつゆが溢れ出しているけれど……?」
 ソノオの手がスカートの中で、おれの履いているフリルのショーツに太もも側から潜り込む。
「ひわにゃいでへぇっ!〈言わないでぇっ!〉」
 羞恥に身悶えて脚を閉じれば、濡れた股でソノオの手を締めつけてしまう。
「こら。そんなに閉められては中に入れないよ?」
 ソノオに叱られてしまう。
「ゆ、ゆびで慣らさなくても入るもん♡ おれ、いっぱい濡れてるから。なあ、はやく♡ いれて♡ いれて♡」
 ソノオはがっつくおれに優しく苦笑した。
「大事にしたいけれど、それもそうか。君の体は頼もしいものね」
「誰にでもはこんなに濡れない、ソノオだけ♡♡」
 本当だ。その証拠にチヒロには全然、ダメだった。
「それは、嬉しいねえ」
 おれが自分から仰向けに寝て脚を開くと、その脚をソノオがもう一段、大きく広げた。ソノオの普段の優男系の雰囲気に似合わず、セックスになると雄で意外と獣っぽいところ、嫌いじゃないけど恥ずかしいよぉ……。
「もう、挿れていいのかな?」
「うん♡ うん♡」

 ずちゅ……♡♡ ズパンッッッ♡♡♡

「あ゙ァ゙~~~~~~♡♡♡」
「ふっ……!」

 一気に奥まで貫かれてぎちぎち♡ に締めつけるおれにソノオも少し息を詰めていた。

「あ゙ッッ♡♡ んお゙ッっ゙♡♡♡」

「可愛い、リケ、可愛い……」
「ソノオぉぉ♡♡ いっぱいおく、ついてぇぇ♡♡♡」
「もちろん、そのつもりさ……ッ♡」

 どぢゅっ♡♡♡ ぐぢゅっ♡♡♡

「ぉッほぉぉぉ♡♡♡ ぎも゙ぢ♡♡ きも゙ぢいぃぃいぃぃ♡♡♡」
「それはっ、ハァ……ァ、よかった♡」
 あれ? いつも冷静なソノオが余裕なさそうだ。
「君があの大きいほうの少年に犯されていることを君の心臓の血の結晶で感じ取ったとき、怒りと心配で息が止まるかってくらい呼吸が浅くなったよ。だから、僕でこんなに濡れて、サカって、感じてくれる君が嬉しい」

 そうか、ソノオはソノオで、チヒロを最終的は許して手を差し伸べつつも、おれを巡って怒り、妬いてはいたのか。

「好きだよ、リケ……」
「あ♡ あぅ♡♡ おれもぉ♡♡ 前も今もこれからもずっとソノオがだいすき♡♡♡」
「可愛いこと言ってくれるじゃあないか。君のお口は本当に可愛いことしか言わないねッッ……!」

「あ゙♡♡ ん゙ぉお♡♡ ほぉおおおぉぉぉ♡♡♡」

 仰向けのままお腹を上に突き出す形で仰け反っソノオに手を握ってもらってしがみつきながら、おれはイった。

 
 淫魔人生最高の絶頂だった。
 

(つづく)
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