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契約だとしても side篤人
1契約だとしても
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初めて会ったのは、入社してすぐ。営業部に配属され、隣の部署である商品開発部に挨拶にいったときのことだった。
「藤原花音といいます。分からないことがあったらいつでも聞いてくださいね」
穏やかな笑顔、透き通るような綺麗な声。かわいらしいその人に目が釘付けになった。
藤原さんは、本当に優しい。顔も可愛いし、スタイルもいいし、仕事もできる。
商品のことについて質問すると、いつも的確な答えが返ってくる。
頼りになるきれいな先輩というポジションだったのが、「好きな人」に変わったのは、藤原さんが、商品開発部の人と付き合っていると知った頃だった。
恋をしたせいなのか藤原さんは可愛さだけではなく、色気が増してすごくきれいになった。
気がつくと彼女を目で追いかけて、用がなくても声をかけている自分。
彼女のことが好きだと自覚したのが遅すぎた。
このまま彼女が幸せになっていくのをただ見ているだけの自分が、情けなくて仕方なかったが、諦めの境地に至っていたのは確かだ。
そろそろ結婚するのかな。2人からそんな雰囲気が漂い始めていた頃、どうやら別れたらしいと噂で聞いた。
別れた理由は、相手が心変わりをしたからだと聞くと、イライラが募った。
真相を確かめたくて、彼女がひとり残業していたのを見て、わざと自分も残って作業した。
急ぎの案件じゃないけど、彼女と話がしたい一心だった。
リフレッシュルームで一緒にコーヒーを飲んでいると、彼女がぽつぽつと恋人と別れた話を始める。
うんうんと聞いていると、だんだん彼女もヒートアップしてきたのか、語気が上がって感情が揺れているのがわかった。
「絶対復讐して、ぎゃふんと言わせてやる!!」
いつもの穏やかな彼女からは想像もつかないような言葉に驚く。
ぼろぼろと涙を流しながらそう告げる彼女を見ていると、不穏な気持ちが湧いてきた。
失恋したばかりの彼女につけ入ろうなんて、ゲスすぎる。
その自覚はあったが、これ以上のチャンスはないように思えた。
「ギャフン……ね」
「だって、2回目だよ。いくらなんでもひどすぎる」
「へー」
平静を装うので精一杯。ブレーキをきちんと踏んでいなければ、彼女に思いを告げてしまいそうだ。そのくらいの焦りがあったと思う。
ぐいっとコーヒーを飲み干すと、彼女に目を遣る。床に目を落として、下唇を噛んでいる彼女。その姿すらかわいくて仕方ない。
今すぐ抱きしめて、恋人との記憶を上書きしてあげたい。めちゃくちゃにして、その悲しい気持ちを忘れさせたい。
そう思って頭をフル回転させ、どうしたら一緒になれるかを最大限考える。
真っ黒い感情そのままに、湧き出たことを口にした。
「……俺が協力しましょうか?」
「え?」
復讐の協力者をするという提案。もちろん裏がある。
「復讐、するんでしょ?」
わざとらしく彼女の顔を覗き込む。彼女にとっても、協力者がいたほうがいいだろう。これを断ることはしないと踏んで彼女に迫る。
「うん……復讐したい。永井くん、手を貸してくれる?」
「いいですよ。でも、ただじゃいやです」
ただの協力者じゃ、いまと何も変わらない。彼女にもっと近づきたい。それが恋人という関係でなくても。
「わかった。いくらほしいの?」
「金じゃなくて」
金なんかいらない、あなたが欲しいです。そのかわいい唇に、キスがしたくて顎をすくう。
いい匂いがしてくらっとし、この場で押し倒したくなる。
「藤原さんが欲しいです」
「わ、私……?」
「復讐が終わるまで、サブスクで」
よくここまでひどい提案ができたものだ。サブスクで欲しいってことは、ほぼセフレになってということに等しい。
「サブスクって何?」
藤原さんは、キョトンとして首を傾げる。時々天然なんだよな。そこがかわいいところでもあるけれど。
あんまりピンときていないのなら、分からせてあげようか。俺がどれだけあなたを抱きたいと思っているか。
藤原さんの喉元にとんっと指を当てて、その言葉を口にする。
「藤原さんの躰、復讐が終わるまで堪能させてください」
「躰?」
思わず口にした言葉に、余計な尾ひれをつけてしまった。でも契約にしたほうが、受け入れてもらえるんじゃないかという打算もあった。
今ここで、告白したところでうまくいきっこない。そんな気がして。
「はい、セックスするってことです」
「あー……」
この勢いなら、それも受け入れてくれそう。そんな気がしていた。
じっと藤原さんを見つめると、何だかぐるぐると考えている様子。ややあって、彼女が口を開いた。
「藤原花音といいます。分からないことがあったらいつでも聞いてくださいね」
穏やかな笑顔、透き通るような綺麗な声。かわいらしいその人に目が釘付けになった。
藤原さんは、本当に優しい。顔も可愛いし、スタイルもいいし、仕事もできる。
商品のことについて質問すると、いつも的確な答えが返ってくる。
頼りになるきれいな先輩というポジションだったのが、「好きな人」に変わったのは、藤原さんが、商品開発部の人と付き合っていると知った頃だった。
恋をしたせいなのか藤原さんは可愛さだけではなく、色気が増してすごくきれいになった。
気がつくと彼女を目で追いかけて、用がなくても声をかけている自分。
彼女のことが好きだと自覚したのが遅すぎた。
このまま彼女が幸せになっていくのをただ見ているだけの自分が、情けなくて仕方なかったが、諦めの境地に至っていたのは確かだ。
そろそろ結婚するのかな。2人からそんな雰囲気が漂い始めていた頃、どうやら別れたらしいと噂で聞いた。
別れた理由は、相手が心変わりをしたからだと聞くと、イライラが募った。
真相を確かめたくて、彼女がひとり残業していたのを見て、わざと自分も残って作業した。
急ぎの案件じゃないけど、彼女と話がしたい一心だった。
リフレッシュルームで一緒にコーヒーを飲んでいると、彼女がぽつぽつと恋人と別れた話を始める。
うんうんと聞いていると、だんだん彼女もヒートアップしてきたのか、語気が上がって感情が揺れているのがわかった。
「絶対復讐して、ぎゃふんと言わせてやる!!」
いつもの穏やかな彼女からは想像もつかないような言葉に驚く。
ぼろぼろと涙を流しながらそう告げる彼女を見ていると、不穏な気持ちが湧いてきた。
失恋したばかりの彼女につけ入ろうなんて、ゲスすぎる。
その自覚はあったが、これ以上のチャンスはないように思えた。
「ギャフン……ね」
「だって、2回目だよ。いくらなんでもひどすぎる」
「へー」
平静を装うので精一杯。ブレーキをきちんと踏んでいなければ、彼女に思いを告げてしまいそうだ。そのくらいの焦りがあったと思う。
ぐいっとコーヒーを飲み干すと、彼女に目を遣る。床に目を落として、下唇を噛んでいる彼女。その姿すらかわいくて仕方ない。
今すぐ抱きしめて、恋人との記憶を上書きしてあげたい。めちゃくちゃにして、その悲しい気持ちを忘れさせたい。
そう思って頭をフル回転させ、どうしたら一緒になれるかを最大限考える。
真っ黒い感情そのままに、湧き出たことを口にした。
「……俺が協力しましょうか?」
「え?」
復讐の協力者をするという提案。もちろん裏がある。
「復讐、するんでしょ?」
わざとらしく彼女の顔を覗き込む。彼女にとっても、協力者がいたほうがいいだろう。これを断ることはしないと踏んで彼女に迫る。
「うん……復讐したい。永井くん、手を貸してくれる?」
「いいですよ。でも、ただじゃいやです」
ただの協力者じゃ、いまと何も変わらない。彼女にもっと近づきたい。それが恋人という関係でなくても。
「わかった。いくらほしいの?」
「金じゃなくて」
金なんかいらない、あなたが欲しいです。そのかわいい唇に、キスがしたくて顎をすくう。
いい匂いがしてくらっとし、この場で押し倒したくなる。
「藤原さんが欲しいです」
「わ、私……?」
「復讐が終わるまで、サブスクで」
よくここまでひどい提案ができたものだ。サブスクで欲しいってことは、ほぼセフレになってということに等しい。
「サブスクって何?」
藤原さんは、キョトンとして首を傾げる。時々天然なんだよな。そこがかわいいところでもあるけれど。
あんまりピンときていないのなら、分からせてあげようか。俺がどれだけあなたを抱きたいと思っているか。
藤原さんの喉元にとんっと指を当てて、その言葉を口にする。
「藤原さんの躰、復讐が終わるまで堪能させてください」
「躰?」
思わず口にした言葉に、余計な尾ひれをつけてしまった。でも契約にしたほうが、受け入れてもらえるんじゃないかという打算もあった。
今ここで、告白したところでうまくいきっこない。そんな気がして。
「はい、セックスするってことです」
「あー……」
この勢いなら、それも受け入れてくれそう。そんな気がしていた。
じっと藤原さんを見つめると、何だかぐるぐると考えている様子。ややあって、彼女が口を開いた。
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