ウォールマン

大秦頼太

文字の大きさ
上 下
5 / 5

第五話

しおりを挟む
 この世界に王は必要なのか俺にはよくわからない。だが、友だちがいま壁の内側で殺されようとしている。直接言葉をかわしたわけでもないが心は通い合った気がするから彼は俺のかけがえのない友だちだ。ハリヤは俺が見捨ててもきっと恨みを抱くことはないだろう。当然だ。相手は壁だし、友達関係など無いと思っているだろう。でも俺は、この先ずっとこのことを悩み続け、ここに来たことを後悔する。向こうにいたときと同じだ。俺はまた何もしない。壁のくせに傷つけられることが怖いのだ。死ぬことが怖いのだ。
 王を倒せるのか。壁が? 壁が王を倒す? 何だそれは? 聞いたこともない。だが、この世界はあっちの世界じゃないし、ましてや人間が壁になるなんてこともない。何でも起こり得る。なんでも。そうだ。なんでも起こりうるんだ。ここで俺が山城と戦いハリヤを助けることだって。でも、無理かもしれない。ハリヤは殺され、俺も山城に崩されるかもしれない。グルグルグルグル同じところばかりだ。あっちの世界の教室と同じようにいつもあいつに背中を向けて生きていて、俺は生きていると言えるのか? 壁として生まれ変わったのなら壁らしく何もしないのが一番なのか? 違うだろ? 何もしないんだったら、俺はいままで何のために町を守り戦ってきたんだ!
 処刑は広場で行われるというので高い塔を広場が見える位置に何箇所か作り、それぞれに長距離射撃用の弩を装備した。精密射撃は一つに集中する必要があったが狙えないかもしれないので複数箇所必要なのだ。処刑人を撃ち、場が騒然となり混乱したところで次の作戦を発動させる予定だ。
 広場に処刑台が設置される。王が座る位置が塔からは見えなかった。黒い幕がこちらの視界を遮る。壁の近くに多数の兵が配置され破城槌の姿も見える。もしかしたら山城はハリヤの救出作戦に気がついているのかもしれない。だが、ハリヤの命を救うために俺はやらなければならない。

「真壁、俺は悲しいよ。同じ世界から来た仲間同士仲良く出来ると思ったのにな。お前が俺の命を狙うなんてよ。他の奴らと全く一緒で嫌になるぜ」
 山城の声が聞こえる。こちらから姿は見えない。おそらくは処刑台の前の黒幕の中。あそこに魔力カノンを撃ち込めればあっという間に片がつく。だが、魔力を込めるのは魔術師たちの仕事だ。俺には撃つことは出来ない。
 鋭い笛のような音がして人々が歓声を上げた。悲鳴も混じっていたかもしれない。覆面をした男二人が処刑台にハリヤを引きずってくる。
 斬首刑。首を刈るために鉄板板のような大きな刀を担いでくる覆面の大男。処刑台の上に丸めた紙を持った小男が駆け上がってくる。群衆の注目を集める中、小男は紙を広げて読み上げる。
「警備隊長ハリヤは、この都市の壁が魔物と知りつつ国王陛下をこの地へと呼び込み、国王陛下を暗殺しようと試みた。その罪は重大である。よってここに斬首刑とし、処罰する。なお、壁は反逆者の斬首後、国軍を以て取り壊すものとする」
 山城は最初から俺を壊すことが目的だったのかもしれない。この世界のルールはわからないが、山城は他の奴らと全く一緒と言った。ということは他のクラスメイトか何か、つまり向こうの人間が来ているということだ。魔物や山賊に姿を変えた奴がいたかもしれない。そうやって俺たちはこの世界で戦わされている。そんな可能性が考えられた。山城はその中で王になった。王になるということはそれだけのことをしたからだ。他の人間をたくさん殺したのかもしれない。だから、他の勢力から大きく憎まれている。
 角笛の合図。引き出されるハリヤ。鉄板を振り上げる大男。塔から精密射撃を試みる。当たるがひるまない大男。動き出す兵たち。城壁に攻撃が始まり、集中力が分散される。塔を変えて別角度から精密射撃を試みる。乱される集中力。大男の手首に当たらない。焦りは更に焦りを呼ぶ。脇腹に激痛。肩や腰にも激痛。前身に痛みが走る。振り下ろされる鉄板。刮目せよ。処刑場にそそり立つ壁。ハリヤを囲み、処刑人共を吹き飛ばせ。その高さは塔より高く。内側から外側へ分厚く広がれ。そして、この日のために溜め込んだポイントをすべて使ってハリヤを地下へ落とし、地下水路へ流す。

 お別れだ。この意味不明な世界とも。ハリヤ、頼む。お前だけは生きてくれ。生き抜いてくれ。お前が生きている限り、俺は、俺がいた事は無駄じゃなかったことになるから。

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

彼女は戦いに赴き、僕はひとりゴーレムを造る

白河マナ
ファンタジー
僕<シュルト=ローレンツ>は、300年前の過去からやってきた。過去では父親を暗殺され、母には絶縁され、大好きだった兄とも生き別れた。そんな僕を救ってくれたのは未来からやってきた魔法士の<リリアナ=ソレル>と、剣士の<ジークハルト=フィーニ>だった。 未来でまったく新しい生活を開始した僕は、リリアナからの願いで、世界の平和を脅かす災禍『ネジマキ』を倒すためのゴーレムを造ることになった。 それとほぼ同時に、リリアナは「私はこれから366日をかけてひとつの魔法を完成させます」そう言い残し、一切の言葉を喋らなくなった。『ネジマキ』を倒すための大魔法だと彼女は教えてくれたけど、それ以上の話はしてくれない。 今日も彼女は僕にキスをしてから戦いに赴き、僕はひとり工房でゴーレムを造りはじめる。 魔力を帯びた粘土をこねて固めて、術石を埋め込み、仕上げに呪文を唱えてできあがり。できたゴーレムを鑑定院に持ち込み、闘技場のバトルに参加させる。僕のゴーレムはスライムの体当たりですら簡単に砕けてしまう。レベル1の壁すら超えられないこの僕に世界を救うことなんて本当にできるのだろうか。 僕が最強のゴーレムを造るのが先か、『ネジマキ』によってこの世界が滅ぼされるのが先か。これは僕の造ったゴーレムが、世界を滅ぼすために生まれた災禍『ネジマキ』を倒すまでの物語―― ※小説家になろう様にも掲載しています。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

処理中です...