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シャイロック 23
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人は死んだらどこに行くのだろう。天国とか地獄があって、そこまで歩いていくのだろうか。それともタクシーで行くのか。きっと、循環バスがあって、バス停で死人がボーっと突っ立って自分の乗るバスを待っているんだ。バスの運転手はどんな奴だろうか。骨男かな。それともキュートな天使か。でも、バスの運転は大人がやるもんだろうから、天使は大人で、大人になるとヒゲも生えてくるだろうから、それでもやっぱり客商売と言うことで、剃って来いと言われて、青髭をしこたまこさえながら、天使は営業スマイルを振りまいているんだ。バスに乗るときにお金はいるのかな。いくらくらい持っていけばいいんだろう。日本のお金でいいのかな。一応、死ぬときは財布を持っておこう。二十万くらい持ってれば、とりあえず何が起こっても大丈夫だ。ドライブインでお土産を買ってみよう。あぁ、片道か。片道ならお土産は必要ないから、おやつを買おう。死んだらお腹は減るのかな。死んでみればわかるか。
「死人だな」
後藤田がシャツに腕を通している。
「死人?」
「お前だよ」
「僕?」
気のない返事を続けるテルハとは違う時間軸で後藤田はすっかり着替えを終える。
「男でも出来たのか?」
その言葉の響きには、揺らぎがあった。
お前は俺の道具だ。俺以外の男と一緒になることは許さない。その男を殺してやるからな。
なんだ。後藤田も案外つまんない男だったんだ。
「僕に男?」
テルハがくすくすと笑った。どんな男なら自分と似合うだろうか。心を完全に読ませない男ならいい。その方が面白い。何を考えてるのかわからない相手のことを読んでいく方がきっと面白い。何もかもわかってしまったら、先なんて無いのだ。自分が愛されていないことを知ってしまったら、そこで何もかも終わりになってしまう。
携帯電話がテルハの体に当たる。テルハは顔をゆがめて左肩を押さえる。
「俺の前で、他の男のことを考えるな」
テルハは痛みに顔を伏せる。後藤田の携帯をつかみ、握り締める。
「悪いな。そんなつもりじゃなかったんだ」
渡すものか。お前は俺のモノだ。渡すものか。お前は俺のモノだ。渡すものか。お前は俺だけのモノだ。
本当に気持ちが悪い男だ。そんなごまかしが僕に通用するなんて、思ってるんじゃないだろうな? お前みたいな奴は、永遠に天国までの道のりを行くバスのタイヤに使われてればいいんだ。
テルハは、ゆっくりと後藤田に携帯電話を差し出す。
「今度、久しぶりに食事でもするかい? もうじき僕の誕生日だろ?」
後藤田は、携帯電話とテルハを交互に見つめる。上手く誤魔化せたのか気にしてるのだろう。それはテルハも同じだ。誘いの奥に殺意を見せてはいけない。憎しみの片鱗すら見せたら、後藤田にばれてしまうだろう。
後藤田は携帯電話を受け取った。
どうやら気にしてないようだな。化け物の頭の中は理解出来無いな。
「プレゼントは何がいい?」
テルハは笑顔で答える。
「お金でいい」
一人きりの時間を過ごし、街の中に出て行く。タクシーを拾い、いつもと違うルートで家に帰る。今日は寄り道をしたい気分だった。
「止めて」
タクシーを止めると、運転手が清算の準備を始める。テルハはあわててそれを止めた。窓の中からテルハはその園を眺めた。小さな幼稚園のような建物。木製の手作りのプレートには手書きで「ぼくらのいえ」と書いてある。今は明かりはついていないが、きっと数時間前まではにぎやかな声も聞こえていたのだろう。
テルハの目から涙がこぼれた。
あの子の卒業した施設なんだな。
テルハは、顔を前に向ける。運転手があわてて前を見る。
「……ごめんなさい。出してください」
タクシーは再び夜の中を走り出す。
例えばもし、僕が普通の子供で、事故とかで親を失っていたら君にもっと早く会えてたのかも知れない。違うか。君にもっと早く会えていたら、僕の人生はきっともっとましだったに違いない。
でも、もう遅い。
僕の心は真っ黒になってしまった。もう何をしても、この汚れを拭い去ることは出来無い。
後藤田を殺さない限り、僕は死ねない。後藤田が生きている限り、僕は生きられない。
人は死んだらどこに行くのだろう。天国とか地獄があって、そこまで歩いていくのだろうか。それともタクシーで行くのか。きっと、循環バスがあって、バス停で死人がボーっと突っ立って自分の乗るバスを待っているんだ。バスの運転手はどんな奴だろうか。骨男かな。それともキュートな天使か。でも、バスの運転は大人がやるもんだろうから、天使は大人で、大人になるとヒゲも生えてくるだろうから、それでもやっぱり客商売と言うことで、剃って来いと言われて、青髭をしこたまこさえながら、天使は営業スマイルを振りまいているんだ。バスに乗るときにお金はいるのかな。いくらくらい持っていけばいいんだろう。日本のお金でいいのかな。一応、死ぬときは財布を持っておこう。二十万くらい持ってれば、とりあえず何が起こっても大丈夫だ。ドライブインでお土産を買ってみよう。あぁ、片道か。片道ならお土産は必要ないから、おやつを買おう。死んだらお腹は減るのかな。死んでみればわかるか。
「死人だな」
後藤田がシャツに腕を通している。
「死人?」
「お前だよ」
「僕?」
気のない返事を続けるテルハとは違う時間軸で後藤田はすっかり着替えを終える。
「男でも出来たのか?」
その言葉の響きには、揺らぎがあった。
お前は俺の道具だ。俺以外の男と一緒になることは許さない。その男を殺してやるからな。
なんだ。後藤田も案外つまんない男だったんだ。
「僕に男?」
テルハがくすくすと笑った。どんな男なら自分と似合うだろうか。心を完全に読ませない男ならいい。その方が面白い。何を考えてるのかわからない相手のことを読んでいく方がきっと面白い。何もかもわかってしまったら、先なんて無いのだ。自分が愛されていないことを知ってしまったら、そこで何もかも終わりになってしまう。
携帯電話がテルハの体に当たる。テルハは顔をゆがめて左肩を押さえる。
「俺の前で、他の男のことを考えるな」
テルハは痛みに顔を伏せる。後藤田の携帯をつかみ、握り締める。
「悪いな。そんなつもりじゃなかったんだ」
渡すものか。お前は俺のモノだ。渡すものか。お前は俺のモノだ。渡すものか。お前は俺だけのモノだ。
本当に気持ちが悪い男だ。そんなごまかしが僕に通用するなんて、思ってるんじゃないだろうな? お前みたいな奴は、永遠に天国までの道のりを行くバスのタイヤに使われてればいいんだ。
テルハは、ゆっくりと後藤田に携帯電話を差し出す。
「今度、久しぶりに食事でもするかい? もうじき僕の誕生日だろ?」
後藤田は、携帯電話とテルハを交互に見つめる。上手く誤魔化せたのか気にしてるのだろう。それはテルハも同じだ。誘いの奥に殺意を見せてはいけない。憎しみの片鱗すら見せたら、後藤田にばれてしまうだろう。
後藤田は携帯電話を受け取った。
どうやら気にしてないようだな。化け物の頭の中は理解出来無いな。
「プレゼントは何がいい?」
テルハは笑顔で答える。
「お金でいい」
一人きりの時間を過ごし、街の中に出て行く。タクシーを拾い、いつもと違うルートで家に帰る。今日は寄り道をしたい気分だった。
「止めて」
タクシーを止めると、運転手が清算の準備を始める。テルハはあわててそれを止めた。窓の中からテルハはその園を眺めた。小さな幼稚園のような建物。木製の手作りのプレートには手書きで「ぼくらのいえ」と書いてある。今は明かりはついていないが、きっと数時間前まではにぎやかな声も聞こえていたのだろう。
テルハの目から涙がこぼれた。
あの子の卒業した施設なんだな。
テルハは、顔を前に向ける。運転手があわてて前を見る。
「……ごめんなさい。出してください」
タクシーは再び夜の中を走り出す。
例えばもし、僕が普通の子供で、事故とかで親を失っていたら君にもっと早く会えてたのかも知れない。違うか。君にもっと早く会えていたら、僕の人生はきっともっとましだったに違いない。
でも、もう遅い。
僕の心は真っ黒になってしまった。もう何をしても、この汚れを拭い去ることは出来無い。
後藤田を殺さない限り、僕は死ねない。後藤田が生きている限り、僕は生きられない。
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