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シャイロック 2
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「ま、と、とにかく話を聞いてくれよ。そいつはひどい奴なんだぜ」
幸薄そうな少年は自分お名前も言わずにしゃべり始めた。よっぽどひどい目に合わされたらしい。腰履きのジーンズがボロボロで、おしゃれと言うよりは悲壮感があふれ出ている。こいつに言わせたら、どんな奴でもひどい奴になりそうだった。無視されるたびに卑屈になっていく小者タイプの人間だ。相手が弱ければどこまでもずうずうしくなり、相手が強ければ何よりも卑屈になる。
「福島正春って奴なんですが、俺らを使って詐欺をしてるんすよ。はじめは遊び半分でやってたんですけど、福島の野郎、どんどんエスカレートして言って抜ける奴は殺すっていうんですよ。ヤクザですよ。俺らはもうやりたくないって言ってるのに、俺の後ろにはヤクザがついてるんだ。今ごろやめるなんていう奴はヤクザが松ヶ浦湖に沈めるっておどすんすよ。俺ら、」
シュウジは和也を手招きする。とても優しく。猫やなんかを呼ぶときのようなとても穏やかな気持ちでだ。そうして、笑顔で近づいてきた和也をぶん殴る。力いっぱいだ。
川まではまだ大分あったが、和也は草むらの中を転げた。そして、素早く立ち上がると、非難の声を上げるのだった。泥と草まみれだ。
「何すんだよ!」
「お前の頭の中が空っぽなのかどうか確かめたんだよ。このウルトラマンアホウが」
「探して来いって言ったのは、シュウジじゃねえか!」
「俺は比較的優しくて親切な人間だからもう一度言ってやるよ。俺が連れて来いって言ったのはな、弱い人間で困ってる奴だ。頭の弱い人間を連れて来いなんて言ってねえぞ」
二人のやり取りを見ていた幸薄少年が恐ろしい勢いで声を上げる。
「あぁ?」
幸薄の反応はピカイチだった。このままのタイムが維持できればきっとオリンピックで金メダルを取れたに違いない。ただいまの記録0.03秒。世界新記録です。すばらしい「あぁ?」の反応でしたね。悪口振り向き競技、金メダルは幸薄い少年に決まりです。アナウンサーたちが無駄に喜びの声を上げる。だが、残念ながらそんな競技は百万年経っても正式競技にはならない。
シュウジは彼を無視した。彼の目には今、和也と河川敷の見慣れた風景が映っているだけだ。
「和也。俺たちの目標は何だよ」
「クズを失くすんだろ」
「そうだ」
今度は幸薄が視界に現れる。にらむ彼をシュウジがにらみ返す。
「俺がクズだって言うのか?」
「お前も詐欺をしてたんだろ」
「お前って気安く呼ぶな」
「じゃあ、お前は誰だ」
「あぁ?」
予想外だったのか、今度は反応が遅れた。アナウンサーが残念がる。彼はもう引退ですね。彼はもう引退なんだ。
「山本だよ。山本幸介」
「警察にでも相談しろよ。山本君」
「そ、そのつもりっすよ」
シュウジは山本を見る。目は泳いでいた。強気になったり弱きになったり、とても忙しい奴だ。
「頼みますよ。俺ら、このままじゃ殺されちまうんです。助けてくれたら警察でも何でも行きますから、助けてくださいよぉ」
助けてくださいよ。山本の声は値切り交渉のような響きを持っていた。安くしてくださいよぉ。俺、お金持ってないんですよ。
和也が近づいてきて山本に加勢する。
「わかった。終わったら自首しろよ」
山本は大げさに頭の上で手を合わせた。
「行きます行きます」
言葉の軽い奴は、中身も軽い。シュウジはため息をついた。また、穴は大きくなりそうだ。
「それで、何時やるんですか?」
山本は能天気な声を上げる。
シュウジは和也を優しく呼んだ。そして和也は宙を飛んだ。
福島は紺の縞の背広に身を包み、いかにもな格好をしていた。イタリア製の高級車を事務所の前に止め事務所の中に入っていく。学生時代にイタリアブランドにはまり、仲間内ではイタリアンマフィアならぬイタリアンマニアと呼んで笑い合っていた。福島は、このイタリアンマニアと言う言葉が好きだった。
貸ビルの狭いエレベーターに乗り込む。ボタンを二つ三つ手早く押す。ドアが閉まりエレベーターが動き出す。
イタリア製のブランドに身を包んだ彼は常に心がけている。何事も形から入らなければ飲み込まれてしまう。チンピラの格好をしていたら、一生をチンピラのままで終えることになる。服にはその力があり、ブランドにはそれだけの魔力が秘められている。それが福島の生き方だった。黒い狼の群れを率いるのは人一倍毛並みのよい狼に限るのだ。
だが、最近この狼の群れに駄犬が混じっているようであった。引き締めもあまり効果がないように思われた。そろそろやらなければならない。やらなければならないのだ。犬と狼が混じってしまえば、それはもう狼の群れではなくなってしまう。そうなってしまったら、しばらくの間、現世でのお楽しみが出来なくなってしまう。
「生贄がいるな」
低い声だった。それでいて大きな声を出さなくても相手に届く響く声だった。幸いなことにエレベーターの中には彼一人だけだったが、側に誰かがいたのなら、間違いなく絶望的な緊張を強いられたであろう。
見せしめが必要だった。エレベーターのドアが五階で止まり、外に出て行く。目の前が事務所の扉だった。薄いブルーの金属扉。ネームプレートなどない。中では電話がなっている。
おい。冗談じゃねぇ。お客様を待たせるんじゃねぇ。お客様は神様だ。お金が余って仕方がないから、俺たちが使って差し上げるんだ。そんなことを何度も言わせるんじゃねえ、このタコ野郎共が。お前らはどうしようもないクズだ。だが、一つだけいいところがある。それは、金を気持ちよく、それこそ湯水のように使えるところだ。そこだけはお前たちは誰にも負けてねぇ。政治家にも官僚にも引けをとらねえ位に優秀な害虫野郎共だぜぇ。
福島は扉を開けると、入り口付近で雑誌を読んでいた若林の頭を側にあった靴べらで鞭打つ。若林の唇が切れて、粘りのある血液が飛ぶ。
「お客様が呼んでるぞ」
優しい低い声が若林の耳に届く。その中に「二秒以内に出ないとお前は永久に電話に出ることも、電話をかけることも出来なくなるぞ」という響きがあった。若林は、唇を押さえながらウサギのような身のこなしで電話に出る。
「もひもひ」
福島が事務所を見回した。眉間にしわが寄る。若林の他に三人いて、四台ある電話は今や全て埋まっている。
「今日はなんだ?」
電話に出ながら若林たちは怯えていた。電話口の声よりも福島の声に集中した。
俺は今、舐められている。これだけは確実にわかる。犬は人を舐める。それとは違うが、舐めた奴にはお仕置きが必要だ。それも飛び切りきついのが必要になる。粛清、懲罰、生贄、見せしめ。呼び方は何でもいい。士気が落ちているのだ。あまりにも簡単に金が転がり込んでくるものだから、どいつもこいつも怠け始めやがった。簡単な仕事と楽な仕事は紙一重だ。楽な仕事では金は稼げない。簡単な仕事を楽な仕事にしてしまうのはもっと簡単だ。手を抜けばいいのだ。だが、手を抜いてしまえば儲けはゴミみたいなものになる。
「今いない奴はどこだ?」
平松が電話を切った。切った後にすぐに鳴り出すが、平松はそれには出ない。優先順位がある。福島の言葉に答えなければ、この群れを追い出される。追い出されるくらいならまだましだが、永遠にさよならも十分に考えられる。
「山本が弁当を買いに、鈴木は風邪だそうです」
「風邪だって?」
福島は手に持った靴べらを平松に向かって投げつけた。だが、それは平松の前の電話に跳ね返って若林の額を浅く切り裂いた。今日は若林にとって災難の日であった。
「風邪だって」
福島が大きな声で笑った。事務所がびりびりと震える。
夏はクーラーでひたすら涼しく、冬は暖房で南の島よりも暖かいこの快適な事務所に暮らしていて、「風邪だって?」どんだけおめでたく出来ているんだ? おめえたちは……。
口を開きかけた福島の後ろから山本がコンビニ袋を抱えて入ってきた。目の前のイタリアンマニアを見て、山本は心の底から震え上がった。彼の心にあったのは「まだ生きてる」と言う驚きだった。福島にもし後ろに目があったなら、山本は今の動揺で殺されていたかもしれない。だが、福島の後頭部にはつむじが三つあるだけだった。つむじでは人の感情は読み取ることは出来無い。それは中学生ならまず間違いなく知っている。
「す、すぐお茶を入れます」
脇をすり抜ける山本を福島が呼び止める。
「いい。すぐ帰る」
安堵の空気が事務所の中に漂う。だが、それすら福島の支配の中にあった。
「そうだ山本。鈴木を殺せ」
コンビニ袋がどさりと落ちた。誰かが「あっ」と声を出した。山本は震えながら振り返った。福島が冷たい目で山本を見ている。
ワタシノキキマチガイカシラ?
山本の顔にそう書いてあったので、福島はもう一度言った。より詳しく。
「鈴木を今日中に始末して、死体を川に流せ。重りは五キロ程度でいい。沈めるなよ。海まで流させるんだ」
返事の遅い山本の代わりに若林が殴られた。
「心配するな。こいつも手伝う」
そう言うと、福島は事務所から出て行く。
福島が出て行くと、空気が少し和らいだ感じがした。山本がコンビニ袋を拾い上げて中身を確認する。大丈夫だ。思ったより潰れていない。
全員が笑いかけた瞬間、事務所の扉が開いた。福島だ。
「山本ぉ。忘れるなよ」
悪魔のような福島の微笑みに山本は小刻みにうなづくことしか出来なかった。
「ま、と、とにかく話を聞いてくれよ。そいつはひどい奴なんだぜ」
幸薄そうな少年は自分お名前も言わずにしゃべり始めた。よっぽどひどい目に合わされたらしい。腰履きのジーンズがボロボロで、おしゃれと言うよりは悲壮感があふれ出ている。こいつに言わせたら、どんな奴でもひどい奴になりそうだった。無視されるたびに卑屈になっていく小者タイプの人間だ。相手が弱ければどこまでもずうずうしくなり、相手が強ければ何よりも卑屈になる。
「福島正春って奴なんですが、俺らを使って詐欺をしてるんすよ。はじめは遊び半分でやってたんですけど、福島の野郎、どんどんエスカレートして言って抜ける奴は殺すっていうんですよ。ヤクザですよ。俺らはもうやりたくないって言ってるのに、俺の後ろにはヤクザがついてるんだ。今ごろやめるなんていう奴はヤクザが松ヶ浦湖に沈めるっておどすんすよ。俺ら、」
シュウジは和也を手招きする。とても優しく。猫やなんかを呼ぶときのようなとても穏やかな気持ちでだ。そうして、笑顔で近づいてきた和也をぶん殴る。力いっぱいだ。
川まではまだ大分あったが、和也は草むらの中を転げた。そして、素早く立ち上がると、非難の声を上げるのだった。泥と草まみれだ。
「何すんだよ!」
「お前の頭の中が空っぽなのかどうか確かめたんだよ。このウルトラマンアホウが」
「探して来いって言ったのは、シュウジじゃねえか!」
「俺は比較的優しくて親切な人間だからもう一度言ってやるよ。俺が連れて来いって言ったのはな、弱い人間で困ってる奴だ。頭の弱い人間を連れて来いなんて言ってねえぞ」
二人のやり取りを見ていた幸薄少年が恐ろしい勢いで声を上げる。
「あぁ?」
幸薄の反応はピカイチだった。このままのタイムが維持できればきっとオリンピックで金メダルを取れたに違いない。ただいまの記録0.03秒。世界新記録です。すばらしい「あぁ?」の反応でしたね。悪口振り向き競技、金メダルは幸薄い少年に決まりです。アナウンサーたちが無駄に喜びの声を上げる。だが、残念ながらそんな競技は百万年経っても正式競技にはならない。
シュウジは彼を無視した。彼の目には今、和也と河川敷の見慣れた風景が映っているだけだ。
「和也。俺たちの目標は何だよ」
「クズを失くすんだろ」
「そうだ」
今度は幸薄が視界に現れる。にらむ彼をシュウジがにらみ返す。
「俺がクズだって言うのか?」
「お前も詐欺をしてたんだろ」
「お前って気安く呼ぶな」
「じゃあ、お前は誰だ」
「あぁ?」
予想外だったのか、今度は反応が遅れた。アナウンサーが残念がる。彼はもう引退ですね。彼はもう引退なんだ。
「山本だよ。山本幸介」
「警察にでも相談しろよ。山本君」
「そ、そのつもりっすよ」
シュウジは山本を見る。目は泳いでいた。強気になったり弱きになったり、とても忙しい奴だ。
「頼みますよ。俺ら、このままじゃ殺されちまうんです。助けてくれたら警察でも何でも行きますから、助けてくださいよぉ」
助けてくださいよ。山本の声は値切り交渉のような響きを持っていた。安くしてくださいよぉ。俺、お金持ってないんですよ。
和也が近づいてきて山本に加勢する。
「わかった。終わったら自首しろよ」
山本は大げさに頭の上で手を合わせた。
「行きます行きます」
言葉の軽い奴は、中身も軽い。シュウジはため息をついた。また、穴は大きくなりそうだ。
「それで、何時やるんですか?」
山本は能天気な声を上げる。
シュウジは和也を優しく呼んだ。そして和也は宙を飛んだ。
福島は紺の縞の背広に身を包み、いかにもな格好をしていた。イタリア製の高級車を事務所の前に止め事務所の中に入っていく。学生時代にイタリアブランドにはまり、仲間内ではイタリアンマフィアならぬイタリアンマニアと呼んで笑い合っていた。福島は、このイタリアンマニアと言う言葉が好きだった。
貸ビルの狭いエレベーターに乗り込む。ボタンを二つ三つ手早く押す。ドアが閉まりエレベーターが動き出す。
イタリア製のブランドに身を包んだ彼は常に心がけている。何事も形から入らなければ飲み込まれてしまう。チンピラの格好をしていたら、一生をチンピラのままで終えることになる。服にはその力があり、ブランドにはそれだけの魔力が秘められている。それが福島の生き方だった。黒い狼の群れを率いるのは人一倍毛並みのよい狼に限るのだ。
だが、最近この狼の群れに駄犬が混じっているようであった。引き締めもあまり効果がないように思われた。そろそろやらなければならない。やらなければならないのだ。犬と狼が混じってしまえば、それはもう狼の群れではなくなってしまう。そうなってしまったら、しばらくの間、現世でのお楽しみが出来なくなってしまう。
「生贄がいるな」
低い声だった。それでいて大きな声を出さなくても相手に届く響く声だった。幸いなことにエレベーターの中には彼一人だけだったが、側に誰かがいたのなら、間違いなく絶望的な緊張を強いられたであろう。
見せしめが必要だった。エレベーターのドアが五階で止まり、外に出て行く。目の前が事務所の扉だった。薄いブルーの金属扉。ネームプレートなどない。中では電話がなっている。
おい。冗談じゃねぇ。お客様を待たせるんじゃねぇ。お客様は神様だ。お金が余って仕方がないから、俺たちが使って差し上げるんだ。そんなことを何度も言わせるんじゃねえ、このタコ野郎共が。お前らはどうしようもないクズだ。だが、一つだけいいところがある。それは、金を気持ちよく、それこそ湯水のように使えるところだ。そこだけはお前たちは誰にも負けてねぇ。政治家にも官僚にも引けをとらねえ位に優秀な害虫野郎共だぜぇ。
福島は扉を開けると、入り口付近で雑誌を読んでいた若林の頭を側にあった靴べらで鞭打つ。若林の唇が切れて、粘りのある血液が飛ぶ。
「お客様が呼んでるぞ」
優しい低い声が若林の耳に届く。その中に「二秒以内に出ないとお前は永久に電話に出ることも、電話をかけることも出来なくなるぞ」という響きがあった。若林は、唇を押さえながらウサギのような身のこなしで電話に出る。
「もひもひ」
福島が事務所を見回した。眉間にしわが寄る。若林の他に三人いて、四台ある電話は今や全て埋まっている。
「今日はなんだ?」
電話に出ながら若林たちは怯えていた。電話口の声よりも福島の声に集中した。
俺は今、舐められている。これだけは確実にわかる。犬は人を舐める。それとは違うが、舐めた奴にはお仕置きが必要だ。それも飛び切りきついのが必要になる。粛清、懲罰、生贄、見せしめ。呼び方は何でもいい。士気が落ちているのだ。あまりにも簡単に金が転がり込んでくるものだから、どいつもこいつも怠け始めやがった。簡単な仕事と楽な仕事は紙一重だ。楽な仕事では金は稼げない。簡単な仕事を楽な仕事にしてしまうのはもっと簡単だ。手を抜けばいいのだ。だが、手を抜いてしまえば儲けはゴミみたいなものになる。
「今いない奴はどこだ?」
平松が電話を切った。切った後にすぐに鳴り出すが、平松はそれには出ない。優先順位がある。福島の言葉に答えなければ、この群れを追い出される。追い出されるくらいならまだましだが、永遠にさよならも十分に考えられる。
「山本が弁当を買いに、鈴木は風邪だそうです」
「風邪だって?」
福島は手に持った靴べらを平松に向かって投げつけた。だが、それは平松の前の電話に跳ね返って若林の額を浅く切り裂いた。今日は若林にとって災難の日であった。
「風邪だって」
福島が大きな声で笑った。事務所がびりびりと震える。
夏はクーラーでひたすら涼しく、冬は暖房で南の島よりも暖かいこの快適な事務所に暮らしていて、「風邪だって?」どんだけおめでたく出来ているんだ? おめえたちは……。
口を開きかけた福島の後ろから山本がコンビニ袋を抱えて入ってきた。目の前のイタリアンマニアを見て、山本は心の底から震え上がった。彼の心にあったのは「まだ生きてる」と言う驚きだった。福島にもし後ろに目があったなら、山本は今の動揺で殺されていたかもしれない。だが、福島の後頭部にはつむじが三つあるだけだった。つむじでは人の感情は読み取ることは出来無い。それは中学生ならまず間違いなく知っている。
「す、すぐお茶を入れます」
脇をすり抜ける山本を福島が呼び止める。
「いい。すぐ帰る」
安堵の空気が事務所の中に漂う。だが、それすら福島の支配の中にあった。
「そうだ山本。鈴木を殺せ」
コンビニ袋がどさりと落ちた。誰かが「あっ」と声を出した。山本は震えながら振り返った。福島が冷たい目で山本を見ている。
ワタシノキキマチガイカシラ?
山本の顔にそう書いてあったので、福島はもう一度言った。より詳しく。
「鈴木を今日中に始末して、死体を川に流せ。重りは五キロ程度でいい。沈めるなよ。海まで流させるんだ」
返事の遅い山本の代わりに若林が殴られた。
「心配するな。こいつも手伝う」
そう言うと、福島は事務所から出て行く。
福島が出て行くと、空気が少し和らいだ感じがした。山本がコンビニ袋を拾い上げて中身を確認する。大丈夫だ。思ったより潰れていない。
全員が笑いかけた瞬間、事務所の扉が開いた。福島だ。
「山本ぉ。忘れるなよ」
悪魔のような福島の微笑みに山本は小刻みにうなづくことしか出来なかった。
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