41 / 96
冬のあほうつかい
冬のあほうつかい 40
しおりを挟む
40
シミュラさまと私たちは違う。シミュラさまはこれからもずっとこの地を守り続ける。私たちは大人になって歳を重ねてやがて死ぬ。亜法使いの私がここにいられるのは亜法使いだから。もうじき私は亜法使いでなくなってしまう。大人になんてなりたくない。マイラもアイニも私と同じで村が無くなってここで暮らし始めた。彼女らは今はもう大人の女だけど亜法使いだったわけじゃない。亜法使いだった名残があるのは迷宮のフロアだけだ。誰もが皆忘れられたくなくて必死で自分というものをそこに刻みつけた。そんな中、サースは戻ってきた。それはどうしてだろう。もしかしたらサースは私を迎えに来たのかもしれない。思えばサースが来てからというもの私の心配が減った。怖さが減った。亜法の力が以前より格段に強くなった。シミュラさまではなくサースに出会うために私は亜法使いになったのかもしれない。サースは私に砂浜を見せたいと言ってくれた。寒いところが嫌いな私の心を知っていてくれるのはサースだけなのだ。畑を作りたかったのは、外がとても寒かったからだし、とてもひもじかったからだ。冬の中頃になると魚の干物は尽きてアザラシの脂肪もほとんどなく父についてウザギを狩りに行ってもテンに罠を壊されてしまったり散々だった。お腹が減った毎日が続いて木の枝をかじって飢えを凌ぐこともあった。異国の兵士たちが来て父や母を殴り殺した。ここが寒いところだから。もし、いっぱいの食べ物があれば異国の兵士を椅子に座らせて一緒になって笑顔で食事ができたかもしれない。いや、わざわざ兵士は家にやって来ないだろう。ここが暖かければ畑だって一年中出来るのだから。
「敵襲! 敵だよ! 敵が来たよ! 早いところ地下農場に避難するんだよ!」
マイラが子供たちの部屋を回って声をかけた。
ゴォーン。
城が揺れて鈍い音が響く。外はまだ暗い。氷の壁や雪が光を反射しても昼間のような明るさはない。それでも真っ暗ではない。
ゴォーン。
再びの揺れと低音。窓の方で城壁の二段目に立つシュミラさまの姿が見えた。他の子供たちが怯えないように私が守ってあげなきゃいけない。私の亜法を強くしてくれる魔法の杖を手にとって廊下に出る。何人か光る杖を持って出てきていた。暗い廊下を歩くにはそれはすごく便利だった。みんなに声をかけて食堂の脇から外に出て畑への転移魔法陣を目指す。城の城壁が崩れているところがあった。そこから外が見えるのがすごく怖かった。もしかしたらあそこから敵が現れるかもしれなかった。
「無事か?」
暗闇から声がして一瞬ビックリしたが、それはすぐにサースの声だとわかった。嬉しくなって飛びつくとサースは頭を撫でてくれた。
「転移魔法陣はまだ生きてるか?」
「今みんなで行くところ」
「よし、行こう。後ろは俺が守る」
サースの言葉は何よりも頼もしかった。転移魔法陣でみんなを先に送る。サースを待っていると村人を数人引き連れてサースがやってきた。
「よし、行こう。最深部の部屋からシミュラ様を援護できるかもしれない」
シミュラさまと私たちは違う。シミュラさまはこれからもずっとこの地を守り続ける。私たちは大人になって歳を重ねてやがて死ぬ。亜法使いの私がここにいられるのは亜法使いだから。もうじき私は亜法使いでなくなってしまう。大人になんてなりたくない。マイラもアイニも私と同じで村が無くなってここで暮らし始めた。彼女らは今はもう大人の女だけど亜法使いだったわけじゃない。亜法使いだった名残があるのは迷宮のフロアだけだ。誰もが皆忘れられたくなくて必死で自分というものをそこに刻みつけた。そんな中、サースは戻ってきた。それはどうしてだろう。もしかしたらサースは私を迎えに来たのかもしれない。思えばサースが来てからというもの私の心配が減った。怖さが減った。亜法の力が以前より格段に強くなった。シミュラさまではなくサースに出会うために私は亜法使いになったのかもしれない。サースは私に砂浜を見せたいと言ってくれた。寒いところが嫌いな私の心を知っていてくれるのはサースだけなのだ。畑を作りたかったのは、外がとても寒かったからだし、とてもひもじかったからだ。冬の中頃になると魚の干物は尽きてアザラシの脂肪もほとんどなく父についてウザギを狩りに行ってもテンに罠を壊されてしまったり散々だった。お腹が減った毎日が続いて木の枝をかじって飢えを凌ぐこともあった。異国の兵士たちが来て父や母を殴り殺した。ここが寒いところだから。もし、いっぱいの食べ物があれば異国の兵士を椅子に座らせて一緒になって笑顔で食事ができたかもしれない。いや、わざわざ兵士は家にやって来ないだろう。ここが暖かければ畑だって一年中出来るのだから。
「敵襲! 敵だよ! 敵が来たよ! 早いところ地下農場に避難するんだよ!」
マイラが子供たちの部屋を回って声をかけた。
ゴォーン。
城が揺れて鈍い音が響く。外はまだ暗い。氷の壁や雪が光を反射しても昼間のような明るさはない。それでも真っ暗ではない。
ゴォーン。
再びの揺れと低音。窓の方で城壁の二段目に立つシュミラさまの姿が見えた。他の子供たちが怯えないように私が守ってあげなきゃいけない。私の亜法を強くしてくれる魔法の杖を手にとって廊下に出る。何人か光る杖を持って出てきていた。暗い廊下を歩くにはそれはすごく便利だった。みんなに声をかけて食堂の脇から外に出て畑への転移魔法陣を目指す。城の城壁が崩れているところがあった。そこから外が見えるのがすごく怖かった。もしかしたらあそこから敵が現れるかもしれなかった。
「無事か?」
暗闇から声がして一瞬ビックリしたが、それはすぐにサースの声だとわかった。嬉しくなって飛びつくとサースは頭を撫でてくれた。
「転移魔法陣はまだ生きてるか?」
「今みんなで行くところ」
「よし、行こう。後ろは俺が守る」
サースの言葉は何よりも頼もしかった。転移魔法陣でみんなを先に送る。サースを待っていると村人を数人引き連れてサースがやってきた。
「よし、行こう。最深部の部屋からシミュラ様を援護できるかもしれない」
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。


(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います
登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」
「え? いいんですか?」
聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。
聖女となった者が皇太子の妻となる。
そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。
皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。
私の一番嫌いなタイプだった。
ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。
そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。
やった!
これで最悪な責務から解放された!
隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。
そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる