迷宮の主

大秦頼太

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冬のあほうつかい

冬のあほうつかい 39

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39

 河原は石だらけで地面も空も灰色な上に気温までぐっと下がってきて誰もが憂鬱になっていた。さらにそこへ追い打ちをかけるように少し前から雪が降ってきた。サース軍のキャンプはテントを畳み始めている。本格的に雪が降ってくればテントも埋もれてしまう。フローズンリバーまで撤退をするという命令が出されていた。ただ計量担当のオスモのテントだけは今も日常のままだった。中ではサースとオスモが話していた。
「シミュラの杖を封じなければ勝ち目がないな」
「しまってあるところがところが分かれば取ってこさせるぜ? どうする大将?」
「いや、あれは多分そういうものじゃない。一応、アテはあるんだけどね」
「そうか。で、本当に半分を町に帰すのか?」
「まさか、夜に戻ってきてくれ。春が来るまで冬眠だな」
「帰ったと見せかけるのか」
「ノースフロストの酒場の話だとそろそろ攻め込んでくるはずだ」
「冬だぞ? あいつら頭がおかしいのか?」
「だから教団なんかに入っているんだろ? 幹部連中が贅沢してるとも知らずに下っ端は貧しさを喜び合って教主を崇拝してるんだからさ。まったく気持ち悪い連中さ」
「言いますね。大将」
「ここの連中もおんなじだ。シミュラ、シミュラってどいつもこいつも吐き気がする」
「わしらも似たようなもんですがね。カネカネカネって」
 オスモがニヤリと笑うとサースもつられて笑った。
「確かにそうだが、一番ありがたみがある。力もね」
「ちげえねえや」
 声を出して笑い合う二人のテントに兵士が入ってくる。
「オスモ隊長、サース様に面会です」
 オスモが笑うのをやめる。
「面会? 誰だ?」
「女の子であります」
「女の子だあ?」
 サースが手を上げた。
「行くよ。我軍の勝利の女神様だ」
「大将、大将も若いからあれですが、子供はダメですぜ」
「大丈夫さ。これでも分別はある方だからね。大人になるまで待つさ」
 サースはテントから出ていく。すぐ近くでカペラが待っていた。手をこすりながら息をあてている。サースは近くにいた兵隊に命じて防寒具を持ってこさせる。
「ここに来て大丈夫なのかい? 寒いし、城まで送るよ」
 防寒具を肩にかけられてカペラは袖を通す。
「急いできたから」
 サースとカペラは城に向かって歩いていく。雪が二人の足跡を消す。
「カペラっていくつなんだい?」
「十二。もっと小さいと思ったでしょ?」
「うん。五歳くらいかと思った」
「あははは。でも、気持ちはそうかも」
「亜法使いだもんね。もしかして」
「え?」
 カペラはサースの顔をのぞき込んだ。
「急にが伸びたのは亜法で伸ばしてたり?」
「違うよ。勝手に伸びたんだよ」
「秋から冬にかけて頭一つくらい急に伸びるなんて珍しいんじゃないか?」
 笑顔で話しかけるサースに対しカペラは真面目な表情だった。
「ここを出ていくの?」
 サースは肩をすくめる。
「シミュラ様に嫌われてしまったからね」
「私もシミュラ様にお願いするからここにいて」
「カペラ……。俺はここを守りたいけどシミュラ様がそれを許してくれないんだ。みんなとは争いたくない」
「そんなのヤダ。間違ってる」
 カペラは涙をこぼす。
「シミュラ様は正しいんだよ。俺の代わりに守ってあげてくれ」
「サースがいなくなるなんて嫌だよ」
「おれもカペラと離れるのは辛いな」
「え?」
「でも、ここに残ればシミュラ様は俺を生かしておかないだろうな」
「そんなこと……」
「俺はもう敵認定されてしまってるはずだ」
「ヤダよ。そんなの」
「俺と、来ないか?」
「……どこに行くの?」
「温かいところで、砂浜があるところなんてどうだ?」
「私が、亜法使いだから?」
 サースは首を横に振った。
「君が君だから。もうじき亜法使いじゃなくなっちゃうって気づいてるんだろ?」
「うん。そうしたら、ここを出ていかなきゃいけない」
「そうじゃないとシミュラ様に嫌われてしまうから」
 カペラはサースを見る。
「どうして?」
「俺も亜法使いだったからね。君と同じさ」
 カペラはサースの懐に入り込んだ。サースはカペラな頭を両手で抱えてやる。カペラを見下ろすその瞳は残酷なほど冷たかった。
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