迷宮の主

大秦頼太

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冬のあほうつかい

冬のあほうつかい 36

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 棒を拾った。ぼんやりと輝く棒切れだ。それはみんなで集めた金属の中にひっそりと転がっていた。ひと目見てこれを魔法の杖にしようと思った。
 私が魔法の杖を持つとみんなも魔法の杖を欲しがった。魔法の杖は輝いている方がかっこういい。だから、みんなの棒を輝かせてあげた。すると私の魔法の杖はみんなの杖より輝きが鈍かった。でも、それで良いんだ。だって、これは本物の魔法の杖だから。
 この杖があれば、私が大人になって亜法使いじゃなくなっても大丈夫だと思えた。そう思うとなんかとても安心して亜法も上手く使えるようになった。畑にいろんなものを植えてみた。パンがなる木を作ったけどすぐ虫が来ちゃうからすぐにやめることにした。ケーキの木も同じだった。虫を消しても良かったけどマイラが虫はいなきゃ美味しいものは作れないと言ったから許してあげた。新しい植物はむずかしいので早く育つように亜法を使った。種はヘンミンキが村からもらってきたり山で集めた。サースが遠くの町で買ってきてくれた種もあった。
 甘い果物もいっぱい作った。小麦も作った。苦い野菜も出来た。ゴマフとアイニは朝から晩までずっとパンを焼いている。みんなが汗だくで笑っていて畑を作って本当に良かったなって思った。
 もうすぐ冬が来る。サースが言うには春にはまた敵が攻めてくるという。食料をたくさん作って兵隊さんをいっぱいにしてここを守ってもらう必要があるって言っていた。兵隊さんは怖い。優しい顔をして笑いかけてくることもあったけど、目の奥が笑っているように見えなかった。
 いろんな物が沢山育つので、それだったら牛や豚も育てようという話になってそれをサースに話したら町に行ったついでに買ってきてくれた。
「カペラは天才だね。俺は最初、戦う場所に畑が出来るなんて信じられなかったんだけどカペラはもっとずっとずっと先のことがわかっているのかもしれないね」
 サースが褒めてくるのがうれしかった。シュミラさまに褒められるのが一番うれしいけどサースは二番目かもしれない。だから、二人の仲がちょっと悪いことが嫌だった。私がハッリを苦手だなって思ってるのと同じだから、私がハッリと仲良くやっていければ二人もきっと気がついてくれると思う。
 サースも畑仕事を手伝ってくれた。シュミラさまもうれしそうだった。
「シミュラ様にさ、ここに村人を住まわせたらどうだろうって言ってみたらどうかな?」
 自分で言わないの?
「俺はシミュラ様に嫌われてしまったからね」
 そんなことないよ。
「大人って難しいんだよ。村の人がここに住めば収穫も増えるはずだし、野盗や兵隊に襲われることもないだろうしね。平和で安全に暮らせる場所があったら、俺たちみたいな子供は嬉しいだろ?」
 うん。でも、サースが言ってたっていうよ。その方が良いもん。
「そうだね。カペラは本当に天才なんだな」
 亜法で人の心を変えることはむずかしい。亜法を使えば何でもできると言われてるけど自分の気持ちを超えたことは出来ないと感じる。子供の部分の私が望むことと大人になっている自分が望むことはズレがある。私は知っている。もうじき私の中の亜法が消えてなくなることを。
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