迷宮の主

大秦頼太

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冬のあほうつかい

冬のあほうつかい 32

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 骸骨兵たちが立坑を削り横幅を広げる。完成後は氷の板を角度をつけて何層も配置する。普段はその氷の板で封じておき、採光と守りを兼ねさせて、敵を襲う時は氷の板を解かして骸骨兵を繰り出す計画である。立坑を広げる際に出た石などは九階を作る時の材料にする。
 立坑は迷宮に地下で通じている。一階とニ階はいくつかの部屋で分けられており廊下や室内を骸骨兵が彷徨く。広い空間にして野戦のように冒険者を数で押しつぶせないのは冒険者の数が少ないために骸骨兵同士が命令を忠実に守ろうとした結果、味方同士で絡み合うからだった。
 冒険者のレベルが低ければ骸骨兵で体力などを削ることも可能だが、一撃で屠ってくるような者が相手に出てきた場合、魔素の無駄になる。そのため、相手の力量を測った後は罠と謎掛けが時間稼ぎの重点に置かれる。意味のない砂時計や考えている最中に骸骨兵を投入することで侵入者を焦らせてミスを誘うことも出来た。
 地下三階も大体似たようなものだが、中央にある部屋でテーブルゲームに勝たなければ四階への扉の鍵が開かない事になっている。氷の魔術師ロスが得意だったテーブルゲームでここ十数年前はルールを知らない冒険者も増えていたが、近年は攻略本なるもののせいであっという間に勝敗が決することも珍しくない。
 地下四階は蟻の巣。地下五階は五両の戦車が走り回る楕円形の地下闘技場である。戦車というのは鉄製の荷車を魔物が引くという簡単な形式だが、荷車の上には弓を撃つ骸骨兵、斧槍を振るう骸骨兵、御者の骸骨兵の三体がセットになっている。荷車を引く魔物は大狼、大鹿、大猪、象鳥、巨大馬の五種である。シミュラをシムラと呼んだ阿呆使いチャロの案と亜法が使われている。冒険者が闘技場に入ると、競技が開始されて戦車は闘技場を数周する。どの戦車が一番になるかを当てることができれば次の階に進むことが出来るが、ただ待つだけだと戦車に轢かれるし、骸骨の弓兵も冒険者を狙って矢を射かけてくる。
 地下六階は水面に明かりが浮かぶ。水面の下はすぐに床になっているが、人一人が歩くだけの幅しか無い。更にその床は迷路のようになっている。反射して明かりがたくさん見えるので水中にある道を踏み外すことになる仕掛けである。道を踏み外したり水面を激しく叩くとそこから水が凍り始めて冒険者を凍らせる。阿呆使いテリエラによる発案と協力のフロアだった。彼女はシミュラをシーラと読んだ。
 地下七階は長い廊下の果に二つの扉が有り、一つは次の階、一つは城の外に繋がっている。入り口の扉で出される謎掛けに二択で答えるのだが、問題が出題されたときに扉に触れた手が制限時間内に正解の扉に触れなければ回答者として扱われない。体力と知識が試されるところなのだが、出題のいくつかは古くなっており答えがその当時の答えであることは注意しておかなければならない。シンラとシミュラを呼ぶルールという亜法使いが居眠りしながら考えた階である。
 地下八階は円形闘技場で二十体の骸骨兵(弓兵含む)との集団戦、骸骨騎士との個人戦、魔物になったハイイログマとの戦闘、二つの頭を持つ獅子の魔物との戦闘、氷の巨人二体を引き連れた鋼鉄の鎧を着た巨人の組み合わせがおり、これらすべてに勝てば次の階に進めた。シミュラのことをシミリャと呼ぶ亜法使いの名はサース。戻ってきたサースが亜法使いだった頃考えてシミュラと共に作り上げたのがこの階層だった。ここを制覇したものはまだいない。
 新たに誕生した地下九階は田園風景だった。大きな道が一本奥まで伸びていて一番奥には三階建ての屋敷があった。ずっと天井にある氷の結晶たちが立坑から差し込んだ光を反射、増幅させて迷宮の外の明かりと連動し昼夜を分ける。迷宮の端々から滝のように水が落ち小川を作り、緩やかに風がフロアの中を流れる。この階は冒険者たちの望郷の念を誘うことだろう。この階に寄らなくても下の階へ行ける。そうしたのはここが荒らされてしまうことが嫌だったからに他ならない。また魔物を引き入れてしまえば畑が汚れてしまうことも心配だった。

 ただ、このことが大きな亀裂を生むことになることをシミュラはまだ知らなかった。
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