迷宮の主

大秦頼太

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冬のあほうつかい

冬のあほうつかい 29

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 ノースフロストの町の設計し建設を仕切っているのは、教団と呼ばれる組織だった。信徒は建築もするが兵士としても優秀だという。ここを拠点にして本格的に氷の城を攻め落とそうとしているようだった。
 作業員たちは寡黙で仕事中に話はほとんどしない。酒を飲むにしても黒い道衣を着ている仲間同士でしか飲まず、女を買うことがなかった。酒場や女たちのテントはあてが外れたとがっかりしているようだった。
「教団の連中がここに本格的な町を作ろうとしたのには秘密がある」
 そんな噂を聞いたが、それを知るのには至難の業だった。話しかけてもあいさつ一つ返さないし、すぐに教団の仲間同士で固まり合って疑いの目を向けてくる。
「こんなに打ち解けない連中は初めて見た」
 サースが町外れのテント酒場で酒を飲んでいると、商売女たちが盛り上がっていた。小さな石を手に盛り上がっている風に見えた。小指の先程の小石。酒場の光のせいなのか一瞬それは金色に輝いて見えた。
「じゃあさぁ、川で石を拾ったほうが儲かるっていうのかい?」
「たまたまよ。春の洪水の後に来た連中がめぼしいのは拾って行っちゃったんだから、こんなのまぐれに決まってるわ」
「でもさぁ、こんなんじゃ秋までいられないよ」
「あの連中がここを支配したらさ、川で拾うこともできなくなるんじゃない?」
「そうなったらここはおしまいね。次はどこで働こうかしら」
 サースは寄ったふりをしながら女たちの会話に耳をそばだてる。
「ベアラングの連中、最初仲間を助けてたらしいけど、塊を見つけた途端に仲間よりも金の粒を探すことに夢中になったそうよ」
「あたしでもそうするわ」
「あたしだってそうよ」
「ねえ、まだ金はあると思う?」
「もう拾いつくされてるわよ」
 サースはそれほど酔っていなかったが、金という単語を聞いたとき酔いが冷めていくのを感じた。
 教団という組織が大掛かりで町を堅固なものにしようとしていること。洪水の後に川で見つかった金の話。氷の城をどうして攻め続けるのかもわかったような気がした。
「(ここには金の鉱脈があるんだ。今までそれは予想に過ぎなかったから誰もここに拠点を作ろうだなんて思わなかったんだ。それが洪水で鉱脈の一部がはがれて金が流されて川底に溜まった。そして、軍隊の生き残りが証拠を持って帰還した。埋蔵している証拠を手に入れたから町は建設されて、これ以降の攻城戦は本格的なものになる)」
 サースの手が震える。
「(フローズンリバーを目指そう。あちらで軍隊を揃えてここを落とせば、ここに氷の城を頂点にした王国が出来る)」
 サースは口元をほころばせた。
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