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冬のあほうつかい
冬のあほうつかい 28
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28
目を開く。見上げる天蓋ベッドの天井は代わり映えがしないので今がいつなのかよくわからなくなる。迷宮の主となってから先、自分の時間が止まってしまったようにも感じる。氷を使っての城壁の補修、新しい道具の開発、魔法の再発見などをしてきた。攻城戦ではギリギリの勝利が続いた。迷宮は魔力の半分を割いて入り口を氷で塞いだ。動物を操り戦場を駆けさせた。毎日が作業のようで頭の中は濁っていたし、心は乾いていた。冬場に大群が来て夜の内に木材と大石を運んできたこともあった。吹雪の中に指揮官をオオカミたちに襲撃させて崩壊させた後、木材や石を奪い取り資材にした。資材があれば修繕や建築などはどうにかなった。最深部の渦の前で決定をすれば自動的に修繕も建築も完了までやってくれる。どういう仕組なのかはよくわからない。この城や迷宮は生き物なのかもしれない。資材は栄養で必要なものが揃っていればあとは勝手に成長したり治したりする。そんなイメージかも知れない。
「シュミラさま朝ですよ」
この声はカペラだ。ドアの向こう側で返事を待っている。起き上がって両手を広げる。ナイトガウンがするりと落ち、青白い肌の上に白い長衣が滑り込んでくる。シミュラが袖を通すとドアに向かって指を鳴らす。揺れる長衣は光の加減で青や緑に見えた。ドアが開きカペラが飛び込んでくる。
「シュミラさま」
青い髪の女の子。カペラは親を失った。この城に住む者はほとんどが親がいない。戦争が長引いたり攻め手が敗北すると近隣の村々が襲われる。戦争継続のための食料だったり、敗戦後の稼ぎを確定するための行為だった。金や食料を出さないと命を失うので逆らって殺される者もいた。ノースフロストよりもっと南東の町では奴隷商売も盛んなので北の子供が南に売られていくことも珍しくはない。シミュラはそういう子供たちを拾っては城で育てていた。
カペラの生まれた村もそんな中の一つだった。周辺の村が敗残兵たちに襲われた後、村の大人たちは殺され子供たちだけが繋がれて連れ去られていく途中だった。
シミュラはトナカイの背に乗り、後ろにはオオカミの群れを従わせて周辺で敗残兵を探している最中に出会った。あっという間に敗残兵を制圧すると子供たちを開放した。村に戻ろうとする子供、町に行きたがる子供と様々だったが、村を見れば家も焼かれ大人は殺されている状況だったし、ノースフロストは子供を世話してくれる町ではない。南東の町フローズンリバーでは奴隷商人たちに狙われてしまう。そこでいつものように氷の城で子供たちを一時的に預かり、別の村へ送る調整をし、行き場のない子供は大人になるまで面倒を見ることにした。
最初の頃は大変だったが、カペラの頃は大体のことに経験があったし、ここに残った子供たちも協力してくれたのでなんということはなかった。読み書きを教えてあげるものもいるし、裁縫が得意な子もいる料理が得意だったりする子もいた。ここへ来たばかりのカペラは何をやっても上手く行かないので日々イライラしていた。シミュラが付ききりで相手をしていると他の子供から影でいじめられる。すると一層シミュラにベッタリになってしまう。そうなるといじめはエスカレートしていく。とうとうカペラは我慢の限界を迎えいじめっ子に向かってこう叫んだ。
「もうやめて! 近づかないで!」
するとそのいじめっ子はカペラに近づくことができなくなってしまったのだ。それを知ったシミュラはカペラに亜法使いの話をした。亜法使いには想像力と好奇心が大切で、怖いことや苦しいことは楽しいことや嬉しいことで塗り替えることが出来ると教えた。
カペラに対する嫌がらせがやんだわけではなかったが、それからのカペラは以前よりも明るくなったように見えた。このところは同じ子供たちのおねだりに辟易しているようだったが。
目を開く。見上げる天蓋ベッドの天井は代わり映えがしないので今がいつなのかよくわからなくなる。迷宮の主となってから先、自分の時間が止まってしまったようにも感じる。氷を使っての城壁の補修、新しい道具の開発、魔法の再発見などをしてきた。攻城戦ではギリギリの勝利が続いた。迷宮は魔力の半分を割いて入り口を氷で塞いだ。動物を操り戦場を駆けさせた。毎日が作業のようで頭の中は濁っていたし、心は乾いていた。冬場に大群が来て夜の内に木材と大石を運んできたこともあった。吹雪の中に指揮官をオオカミたちに襲撃させて崩壊させた後、木材や石を奪い取り資材にした。資材があれば修繕や建築などはどうにかなった。最深部の渦の前で決定をすれば自動的に修繕も建築も完了までやってくれる。どういう仕組なのかはよくわからない。この城や迷宮は生き物なのかもしれない。資材は栄養で必要なものが揃っていればあとは勝手に成長したり治したりする。そんなイメージかも知れない。
「シュミラさま朝ですよ」
この声はカペラだ。ドアの向こう側で返事を待っている。起き上がって両手を広げる。ナイトガウンがするりと落ち、青白い肌の上に白い長衣が滑り込んでくる。シミュラが袖を通すとドアに向かって指を鳴らす。揺れる長衣は光の加減で青や緑に見えた。ドアが開きカペラが飛び込んでくる。
「シュミラさま」
青い髪の女の子。カペラは親を失った。この城に住む者はほとんどが親がいない。戦争が長引いたり攻め手が敗北すると近隣の村々が襲われる。戦争継続のための食料だったり、敗戦後の稼ぎを確定するための行為だった。金や食料を出さないと命を失うので逆らって殺される者もいた。ノースフロストよりもっと南東の町では奴隷商売も盛んなので北の子供が南に売られていくことも珍しくはない。シミュラはそういう子供たちを拾っては城で育てていた。
カペラの生まれた村もそんな中の一つだった。周辺の村が敗残兵たちに襲われた後、村の大人たちは殺され子供たちだけが繋がれて連れ去られていく途中だった。
シミュラはトナカイの背に乗り、後ろにはオオカミの群れを従わせて周辺で敗残兵を探している最中に出会った。あっという間に敗残兵を制圧すると子供たちを開放した。村に戻ろうとする子供、町に行きたがる子供と様々だったが、村を見れば家も焼かれ大人は殺されている状況だったし、ノースフロストは子供を世話してくれる町ではない。南東の町フローズンリバーでは奴隷商人たちに狙われてしまう。そこでいつものように氷の城で子供たちを一時的に預かり、別の村へ送る調整をし、行き場のない子供は大人になるまで面倒を見ることにした。
最初の頃は大変だったが、カペラの頃は大体のことに経験があったし、ここに残った子供たちも協力してくれたのでなんということはなかった。読み書きを教えてあげるものもいるし、裁縫が得意な子もいる料理が得意だったりする子もいた。ここへ来たばかりのカペラは何をやっても上手く行かないので日々イライラしていた。シミュラが付ききりで相手をしていると他の子供から影でいじめられる。すると一層シミュラにベッタリになってしまう。そうなるといじめはエスカレートしていく。とうとうカペラは我慢の限界を迎えいじめっ子に向かってこう叫んだ。
「もうやめて! 近づかないで!」
するとそのいじめっ子はカペラに近づくことができなくなってしまったのだ。それを知ったシミュラはカペラに亜法使いの話をした。亜法使いには想像力と好奇心が大切で、怖いことや苦しいことは楽しいことや嬉しいことで塗り替えることが出来ると教えた。
カペラに対する嫌がらせがやんだわけではなかったが、それからのカペラは以前よりも明るくなったように見えた。このところは同じ子供たちのおねだりに辟易しているようだったが。
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