迷宮の主

大秦頼太

文字の大きさ
上 下
26 / 96
冬のあほうつかい

冬のあほうつかい 25

しおりを挟む
25

 迷宮の主は魔物を使役することが出来る。魔物は魔素によって稼働を続ける。魔素を失った魔物は魔素を補充するまで眠りについた状態になる。魔素が何で出来ているのかは誰も知らない。魔物を動かす素だから魔素と呼ばれているだけだった。
 何らかの実験か魔法でナミュラは魔物化し黒い道着の男が指示しているのであろう。つまり黒い道着の男を倒せばナミュラも止まるのだ。
 シミュラは自由のある左手で白い塊を凍らせて砕こうと試みるがダメだった。
「魔力ではそれは崩せないのよ! あきらめてあなたも血をよこしなさい!」
 ナミュラがシミュラに襲いかかろうとしたところにニコデムスが魔法を使う。
「風刃の嵐(ウインドストーム)!」
 風の刃では大蜘蛛の外皮に傷をつけることが出来なかった。吹き飛ばすのが誠意いっぱいだった。
「鬱陶しい風だこと」
 大蜘蛛の体がナミュラの中に収納されていく。分かれていた脚二つが一つにまとまり手足に変わっていく。紅い粘菌がタイトなドレスを作り出す。
「一定のダメージか衝撃を与えると人の姿になるようじゃ。さっきは途中で止めたようじゃがオオカミたちが本気でやれば倒せるのではないか?」
 ニコデムスがシミュラの前にやってくる。
「お母様は操られているだけなんです。あの黒い道着の男に」
 ナミュラはニコデムスから距離を取る。風の魔法が避けられる距離を保っているのかもしれない。
 シミュラは二頭のオオカミを黒い道着の男に向かわせる。攻撃に参加させると言うよりは杖を奪い取るタイミングを探っていた。
「返しなさい! お父様の杖を返しなさい! それはお前が持って良いものではない!」
 シミュラが左手を伸ばす。床に張り付いた右腕が悲鳴を上げる。
「シミュラ、私が何者なのか忘れたのかい?」
 シミュラとニコデムスの頭上に氷の矢が降り注ぐ。
「風の防壁(ミサイルガード)」
 ニコデムスの杖が頭上にかざされると風が渦を巻いて氷の矢を弾いていく。
「蜘蛛でない時は魔法を使うのか。これは厄介だな」
 シミュラは右肘を立てて体を無理やり引き起こすと、黒い道着の男に向かって左手を伸ばす。
「許しておくれ、お前たち」
 シミュラがそう言うと二頭のオオカミの目が赤く光り輝き直線的に黒い道着の男に襲いかかる。黒い道着の男は特段あわてた様子もなく二頭のオオカミを象牙色の長大な杖で打ち据える。それでもオオカミたちは引かなかった。杖の両端に噛み付いて動きを阻害するとイラリやグスタフの攻撃も黒い道着の男に当たる様になる。グスタフの金棒が黒い道着の男の足を砕き、イラリの長剣が杖を持つ手を切り裂いた。床の上に黒い道着の男が倒れ、オオカミたちもまた横倒れて動かなくなった。
 グスタフが象牙色の長大な杖を奪い取ると、イラリが黒い道着の男にとどめを刺した。
「あぁ」
 と弱々しい声を上げながら、ナミュラは大広間を奥へ奥へと後退りしていく。壁に背中が当たるとズルズルと地面に座り込んだ。
「マリ……」
 イラリが白い塊に固められたマリの顔に触れる。
「わたくしにその杖を」
 グスタフはシミュラを見下ろしたまま動かずにいた。
「グスタフ、杖は渡すな」
 イラリがシミュラに近付いてくる。
「お前は一体何なんだ? 正直に言えば命は助けてやる」
 イラリの真っ直ぐな目にシミュラは覚悟を決めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に転生したので裏社会から支配する

Jaja
ファンタジー
 スラムの路地で、ひもじい思いをしていた一人の少年。  「あれぇ? 俺、転生してるじゃん」  殴られた衝撃で前世の記憶を思い出した少年。  異世界転生だと浮かれていたが、現在の状況は良くなかった。  「王道に従って冒険者からの立身出世を目指すか…。それとも…」  そして何を思ったか、少年は裏社会から異世界でのし上がって行く事を決意する。  「マフィアとかギャングのボスってカッコいいよね!」  これは異世界に転生した少年が唯一無二の能力を授かり、仲間と共に裏社会から異世界を支配していくお話。  ※この作品はカクヨム様にも更新しています。

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!

ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません? せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」 不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。 実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。 あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね? なのに周りの反応は正反対! なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。 勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

【完結】クビだと言われ、実家に帰らないといけないの?と思っていたけれどどうにかなりそうです。

まりぃべる
ファンタジー
「お前はクビだ!今すぐ出て行け!!」 そう、第二王子に言われました。 そんな…せっかく王宮の侍女の仕事にありつけたのに…! でも王宮の庭園で、出会った人に連れてこられた先で、どうにかなりそうです!? ☆★☆★ 全33話です。出来上がってますので、随時更新していきます。 読んでいただけると嬉しいです。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

処理中です...