迷宮の主

大秦頼太

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冬のあほうつかい

冬のあほうつかい 21

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 シミュラとニコデムスが明かり持ちを担当している。シミュラは上を照らし、ニコデムスが足元を照らしているが別にそう取り決めたわけではなかった。
 リーダーのイラリは長剣と幅広の剣を使い分ける剣士だった。更に腰に二本の短剣を装備している。攻撃をひらりと躱して長剣を骸骨兵たちの骨の間に通す。魔物の身動きを封じた後、幅広の件で頭骨を破壊する。
 重戦士グスタフは左腕に大きな丸盾を構えて突進して骸骨兵を転がすと右手に持った金棒で一撃で粉砕する。
 狩人のマリは単弓を上手く使うし、罠や敵を察知するのがとても上手だった。シミュラが操る二匹の狼もマリの補助に役立った。
 ニコデムスは魔法使いのくせに魔術も使わなかったし、身の丈を超える杖で肩を叩きながらただついてくるだけだ。ただその杖は地面からシミュラの胸くらいまでの長さしか無い。ニコデムスが小さいだけなのだ。誰も文句を言わないのは危機的状況まで魔力を温存する作戦なのだろう。シミュラも二頭の狼に戦闘参加をさせるだけで魔法は使わなかったのだが、それは触媒を集めるための杖を持っていないからだった。
 魔法を使うためには触媒と変化が必要になる。すぐに使える触媒があれば別だが、それがない場合は周囲から集めなくてはいけない。火を起こすための触媒、風を起こすための触媒、それを集めるために専用の杖がいる。火や水がそこにあれば魔力を使って変化させて魔法を唱えることも可能だが、杖を使って触媒を変換させたほうが魔力の損失が少ない。
 杖を持っていないシミュラはただの動物使いだと思われているのであった。

 迷宮の攻略は順調だった。というのもシミュラが仕掛けの殆どを知っていたからだった。実際、謎解きは子供のなぞなぞのようなものが多かった。それはシミュラの父ロスが彼女に考えさせて作らせたからだった。ただそれを言うようなことはしなかった。命の危険性が高い罠のときや謎掛けのときだけ口を出すようにしていると、あっという間に階層をクリアしていくのだった。
 新たな階層が作られなかったのは軍勢に攻め込まれるせいだったのだろう。次の戦争までに失った戦力を立て直すのに物資や資金が使われて迷宮運営は後回しにされたわけである。
 城と迷宮を同時に運営するのは難しい。城の防衛といえども戦争には多くの金がいる。軍隊を養うだけの食料や装備品も必要だし、その保全や整備にも資金がいる。
 そして、迷宮の階層を増やすには資材や魔素が大量に必要となる。
 この地には収入となるものは殆どない。木材と角や牙、毛皮など動物から取るもの。それくらいしか無い。戦争で死んだ者や迷宮の中で命を落とした冒険者の持ち物も迷宮の主の物となる。それを資材にしたり売りに出したりすることも出来るし、財宝の一部に加えることも出来た。
 戦争で得られる戦利品などあまりあてに出来ない。それは極々ありふれたものしか手に入らないからだ。例えば兵士が持つ剣や槍を千本単位で得たとしても財宝としての価値は低い。防具についても変わらない。安物をいくつ集めても宝物にはならない。
 敵をどれだけ屠っても収入と支出はほぼ同じである。
 氷も魔術師と呼ばれた父ロスは、支出を減らすために様々な工夫をしてきた。自らの魔力を使って城壁ののぞき窓から氷の矢が出るような仕掛けを作ったり、母ナミュラと共に新しい魔術の研究をしたり、エサイアスやシミュラに氷の魔法を教えたりなどして支出を抑える努力をしていた。中でもシミュラが見せた動物を操る魔法が大きく成長すれば収支をプラスに持っていくことが出来るはずだった。そうすれば家族は迷宮を失わずに住んだのだ。だが、それは間に合わなかった。

 この迷宮はどうしてこんなにも簡単に攻略が出来てしまうのか。もっとお金があれば平和に暮らせたのにとシミュラは思う。
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