迷宮の主

大秦頼太

文字の大きさ
上 下
16 / 96
冬のあほうつかい

冬のあほうつかい 15

しおりを挟む
15

 夏。
 アステリア軍が兵力三千ほどで草原に布陣した。足元は重歩兵用の装備になっている。そのため、ぬかるむ大地に足を取られ行軍のスピードは落ちているようだった。前衛は大型の盾を並べて立ち、二列目と三列目は長い槍を空に向ける。四列目は大型の盾を体の脇に構えていた。これは盾、槍、槍の組み合わせをセットとするアステリア軍の編成である。九十人が横に並びこの組み合わせで九列で一塊となる。歩兵は中央、左翼、右翼と三つの塊からなりおよそ二千四百。その後ろに弓兵が百八十ずつ付き従う。後方に指揮官たちがいておよそ三千の兵力となる。
 歩兵たちはまず敵の突進に備える。最前列が盾を正面に構えそれを支えると、二列目は最前列の兵の右肩より長い槍を前方へ突き出す。三列目が二列目の左肩側に長い槍を出して空に向かって構える。その際、右腕を兜の額に充てるようにする。そこに四列目の盾がスライドしてきて最前列の盾のフチの上に四列目の盾のフチが乗り、一列目から四列目の頭上を守る。五列目は四列目の右肩側で空に長い槍を向ける。六列目以降は三列目からと同じになる。
 トナカイの突進でも正面からであれば受け止められるくらいの耐久性と柔軟性を持っている。グリズリーの場合は盾が剥がされる事があるので弓兵で先に仕留める必要がある。とは言っても長弓で一撃で仕留めることは難しい。指揮官クラスが持っているクロスボウであれば一撃の威力が高いので心臓を射抜けばそれが可能となる。狙いをつけて放つ必要があるので獲物の足を止める必要があるので陣形は崩されることを覚悟しなければいけない。グリズリーの数はニ十頭もいれば多い方である。それよりもトナカイのほうが危険かもしれない。正面のグリズリーに気を取られていると横からトナカイ百頭の突進が来る。そこで弓兵を出すのだが、オオカミの集団に背後を取られて矢を放てない事が多い。
 首尾よく(もしくは運良く)動物の猛攻を防いで更に先へ進むと次は氷の矢と槍が飛んでくるわけである。更に今年は新しい魔法「スプリングキラー」が現れた。誰が名付けたのか知らないが南方の庭師が考案したスプリンクラーという散水機を氷の女王が使う足元で回る氷の花となぞらえて呼んだそうだ。
 足元はぬかるむ上に氷の刃から足を守らなくては進むことも出来ない。進軍が緩めば矢と槍の餌食であるし、急ぐためには軽装備にしなければならないがそれでは多くの者が足を負傷し攻城戦どころではなくなる。ここ何十年も城壁にたどり着いた軍隊はいない。スプリングキラーのせいで更に遠くなった。
 春先の雪解け水の洪水のせいで草原のぬかるみも未だに酷かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」 公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。 血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。

(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!

ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。 なのに突然のパーティークビ宣言!! 確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。 補助魔法師だ。 俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。 足手まといだから今日でパーティーはクビ?? そんな理由認められない!!! 俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな?? 分かってるのか? 俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!! ファンタジー初心者です。 温かい目で見てください(*'▽'*) 一万文字以下の短編の予定です!

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

処理中です...