9 / 96
冬のあほうつかい
冬のあほうつかい 8
しおりを挟む
8
「さっきのアレ、なんですか?」
サースがシミュラに問いかけた。
「氷の花よ」
「氷の花?」
「氷の槍を解かして霧を起こしそこから少し離れたところで花を咲かせるのよ。それで、花びらを回転させるの。薄い氷が刃になって足を切るのよ。革靴程度だったら切り裂けるわ。冬の間に考えていたものよ」
「シミュラ様は優しすぎます。もっと威力の高いものにしなきゃダメですよ」
「アレはそんなに優しいものじゃないわ。みんな戦争などやめて故郷に帰ればいいのよ」
「敵は殺さなきゃ増えるだけです」
「皆が皆、敵になりたくて敵になっているわけではないはず」
「だから攻略本なんて作られるんです。人間は欲の塊なんです。旅をしてみてわかったんだ。どれだけ善良そうに見えても本当に善良な人間なんていないんです。欲に目がくらんだ人間は僅かな金銭のために悪事に手を染めるんです」
「善良な人間だっているわ。ここの人間は違うでしょ? 命の価値を理解しているでしょう? あなたもそう。だからこんなにも怒っている」
「僕に力があったらあんな奴ら」
「サース。あなたは強いわ。自分を小さく見てはいけないわ」
「でも、僕にはもう亜法はないんだ! 魔法だって習ってみたさ! でも、亜法を使うようには上手くできないんだ。仕方がないから狩人のマネごとみたいなことをしているけど、それだってまるで役に立たない。僕はもっとシミュラ様の役に立ちたかったのに!」
サースの瞳から涙がこぼれ落ちるとシミュラはサースを引き寄せて強く抱きしめる。
「あなたは今もわたくしの宝物よ。側にいてくれるだけでわたくしの力は何倍にもなるわ」
「ここにいるだけだなんてそんなの役に立ってるとは言わない! 僕のことが大事だって言うなら、僕の提案を聞いてくださいよ!」
「……洪水は、たしかに大きな被害を与えるでしょう。でも、憎しみも大きくしてしまうわ。その憎しみは敵を強くするのよ」
「憎しみよりも恐怖が強く植え付けられます。誰もシミュラ様に逆らおうなんて思わないはず」
「あなたはわたくしをそんなに怖いものにしたいのですか?」
「あ、すみません。そういうつもりじゃ。でも、人間たちが次から次へとやってくるのはシミュラ様を侮っているからだって思うんです。怖いところも見せたら来ないと思うんです」
「敵は戻っていきました。氷の花を見てね。しばらく時間があるはず」
「シミュラ様!」
非難の声を出すサースの口をシミュラが指でつまむ。
「草原の動物たちは西側に避難させましょう。それが完了次第に上流の雪を解かします」
サースの顔が明るくなった。
「水を流す合図は僕にやらせてください」
「さっきのアレ、なんですか?」
サースがシミュラに問いかけた。
「氷の花よ」
「氷の花?」
「氷の槍を解かして霧を起こしそこから少し離れたところで花を咲かせるのよ。それで、花びらを回転させるの。薄い氷が刃になって足を切るのよ。革靴程度だったら切り裂けるわ。冬の間に考えていたものよ」
「シミュラ様は優しすぎます。もっと威力の高いものにしなきゃダメですよ」
「アレはそんなに優しいものじゃないわ。みんな戦争などやめて故郷に帰ればいいのよ」
「敵は殺さなきゃ増えるだけです」
「皆が皆、敵になりたくて敵になっているわけではないはず」
「だから攻略本なんて作られるんです。人間は欲の塊なんです。旅をしてみてわかったんだ。どれだけ善良そうに見えても本当に善良な人間なんていないんです。欲に目がくらんだ人間は僅かな金銭のために悪事に手を染めるんです」
「善良な人間だっているわ。ここの人間は違うでしょ? 命の価値を理解しているでしょう? あなたもそう。だからこんなにも怒っている」
「僕に力があったらあんな奴ら」
「サース。あなたは強いわ。自分を小さく見てはいけないわ」
「でも、僕にはもう亜法はないんだ! 魔法だって習ってみたさ! でも、亜法を使うようには上手くできないんだ。仕方がないから狩人のマネごとみたいなことをしているけど、それだってまるで役に立たない。僕はもっとシミュラ様の役に立ちたかったのに!」
サースの瞳から涙がこぼれ落ちるとシミュラはサースを引き寄せて強く抱きしめる。
「あなたは今もわたくしの宝物よ。側にいてくれるだけでわたくしの力は何倍にもなるわ」
「ここにいるだけだなんてそんなの役に立ってるとは言わない! 僕のことが大事だって言うなら、僕の提案を聞いてくださいよ!」
「……洪水は、たしかに大きな被害を与えるでしょう。でも、憎しみも大きくしてしまうわ。その憎しみは敵を強くするのよ」
「憎しみよりも恐怖が強く植え付けられます。誰もシミュラ様に逆らおうなんて思わないはず」
「あなたはわたくしをそんなに怖いものにしたいのですか?」
「あ、すみません。そういうつもりじゃ。でも、人間たちが次から次へとやってくるのはシミュラ様を侮っているからだって思うんです。怖いところも見せたら来ないと思うんです」
「敵は戻っていきました。氷の花を見てね。しばらく時間があるはず」
「シミュラ様!」
非難の声を出すサースの口をシミュラが指でつまむ。
「草原の動物たちは西側に避難させましょう。それが完了次第に上流の雪を解かします」
サースの顔が明るくなった。
「水を流す合図は僕にやらせてください」
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
生活魔法は万能です
浜柔
ファンタジー
生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。
それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。
――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。
(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!
ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。
なのに突然のパーティークビ宣言!!
確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。
補助魔法師だ。
俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。
足手まといだから今日でパーティーはクビ??
そんな理由認められない!!!
俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな??
分かってるのか?
俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!!
ファンタジー初心者です。
温かい目で見てください(*'▽'*)
一万文字以下の短編の予定です!
【完結】後妻に入ったら、夫のむすめが……でした
仲村 嘉高
恋愛
「むすめの世話をして欲しい」
夫からの求婚の言葉は、愛の言葉では無かったけれど、幼い娘を大切にする誠実な人だと思い、受け入れる事にした。
結婚前の顔合わせを「疲れて出かけたくないと言われた」や「今日はベッドから起きられないようだ」と、何度も反故にされた。
それでも、本当に申し訳なさそうに謝るので、「体が弱いならしょうがないわよ」と許してしまった。
結婚式は、お互いの親戚のみ。
なぜならお互い再婚だから。
そして、結婚式が終わり、新居へ……?
一緒に馬車に乗ったその方は誰ですか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる