迷宮の主

大秦頼太

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冬のあほうつかい

冬のあほうつかい 8

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「さっきのアレ、なんですか?」
 サースがシミュラに問いかけた。
「氷の花よ」
「氷の花?」
「氷の槍を解かして霧を起こしそこから少し離れたところで花を咲かせるのよ。それで、花びらを回転させるの。薄い氷が刃になって足を切るのよ。革靴程度だったら切り裂けるわ。冬の間に考えていたものよ」
「シミュラ様は優しすぎます。もっと威力の高いものにしなきゃダメですよ」
「アレはそんなに優しいものじゃないわ。みんな戦争などやめて故郷に帰ればいいのよ」
「敵は殺さなきゃ増えるだけです」
「皆が皆、敵になりたくて敵になっているわけではないはず」
「だから攻略本なんて作られるんです。人間は欲の塊なんです。旅をしてみてわかったんだ。どれだけ善良そうに見えても本当に善良な人間なんていないんです。欲に目がくらんだ人間は僅かな金銭のために悪事に手を染めるんです」
「善良な人間だっているわ。ここの人間は違うでしょ? 命の価値を理解しているでしょう? あなたもそう。だからこんなにも怒っている」
「僕に力があったらあんな奴ら」
「サース。あなたは強いわ。自分を小さく見てはいけないわ」
「でも、僕にはもう亜法はないんだ! 魔法だって習ってみたさ! でも、亜法を使うようには上手くできないんだ。仕方がないから狩人のマネごとみたいなことをしているけど、それだってまるで役に立たない。僕はもっとシミュラ様の役に立ちたかったのに!」
 サースの瞳から涙がこぼれ落ちるとシミュラはサースを引き寄せて強く抱きしめる。
「あなたは今もわたくしの宝物よ。側にいてくれるだけでわたくしの力は何倍にもなるわ」
「ここにいるだけだなんてそんなの役に立ってるとは言わない! 僕のことが大事だって言うなら、僕の提案を聞いてくださいよ!」
「……洪水は、たしかに大きな被害を与えるでしょう。でも、憎しみも大きくしてしまうわ。その憎しみは敵を強くするのよ」
「憎しみよりも恐怖が強く植え付けられます。誰もシミュラ様に逆らおうなんて思わないはず」
「あなたはわたくしをそんなに怖いものにしたいのですか?」
「あ、すみません。そういうつもりじゃ。でも、人間たちが次から次へとやってくるのはシミュラ様を侮っているからだって思うんです。怖いところも見せたら来ないと思うんです」
「敵は戻っていきました。氷の花を見てね。しばらく時間があるはず」
「シミュラ様!」
 非難の声を出すサースの口をシミュラが指でつまむ。
「草原の動物たちは西側に避難させましょう。それが完了次第に上流の雪を解かします」
 サースの顔が明るくなった。
「水を流す合図は僕にやらせてください」
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