迷宮の主

大秦頼太

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冬のあほうつかい

冬のあほうつかい 7

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 城壁の二段目から平原を見下ろすと、武装した兵士たちが草原の上で雑に並んでいた。シミュラの手には象牙色の長大な杖が握られている。白い長衣は風を受けるたびに青や緑色に発光していた。
「敵はどれくらい?」
 髭面の大男モンティが答える。
「ニ百といったところでしょうか。こちらの手の内を見ようって話ですかね。どうします? トナカイかオオカミを突っ込ませますか?」
「……。いいえ、冬季に考えていた物を使いたいわ。ちょうどいい機会ですからね。それと、いつも通り氷の矢と槍で迎え撃ちます。動物たちにはもう少し日常を大事にしてもらいましょう」
「はっ!」
 モンティが城の中へ下がっていく。
 シミュラが象牙色の杖を空にかざすと氷の城の城壁から数十本の氷の矢と槍が発射される。それは勢いよく武装兵たちの方へ飛んでいくがその脚とも数歩前で地面に突き刺さるだけだった。
「寝ぼけているものはいなさそうね」
 彼らはおそらくそのまま帰る部隊なのだろう。大軍で押し寄せる前に矢と槍の飛距離を確かめたのだ。向こうからの弓は一段目の城壁にすら届かない。仮に届くとすれば投石機などの攻城兵器であるが、春は地面が軟らかいので使用は困難である。
「このまま帰らせれば、すぐに戦闘が始まる」
 シミュラは象牙の杖を前方へ突き出す。すると氷の槍が解けて水になる。更に杖を横にすると水が霧に変わる。武装した兵士たちは霧に包まれていく。それから杖を横に一回転させる。その途端、霧の中から悲鳴が上がり始める。
「ぎゃあ、足を切られた!」
「足元になにかいるぞ!」
「逃げろ!」
「どっちに行けばいいかわからん!」
「とにかくここを離れろ! やられるぞ!」
 霧の中から兵士たちが飛び出してくる。上手く町側に出られたものはそのまま走っていく。運悪く氷の城に近づいたものには氷の矢と槍が飛んでくる。体や足に突き刺さり動けなくなるもの逃げ切って町の方へ逃げ去っていくもの。霧が晴れると倒れる兵士たちの中に氷の花が地面に咲いていた。花は春の日差しを受け、すぐに解けて消えていってしまう。
「これで少しは時間を稼げるかしら?」
 対策に時間を使ってくれれば冬までの時間が短くなる冬が来れば時間切れだ。軍隊は帰らざる負えない。

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