迷宮の主

大秦頼太

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冬のあほうつかい

冬のあほうつかい 3

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 狩人のような風体の若い男がノースフロストの港に降り立つ。
「春の町か。その割には汗と鉄の匂いしかし無いな」
 並んでいるテントを一通り見て回る。欲しいものを見つけると店主と値段交渉をして手に入れる。オープンカフェのような酒場もあったが、今はむさ苦しい連中ばかりしかいなかった。女が増えるのは夜だという。乱雑にテントが設営されているのかと思いきやある程度のブロック分けがされているようである。港からまっすぐ北側に大通りがある。そこから東西に振り分けられ西が軍隊の設営所、東が商業ブロックとなっている。まず第一陣がそういう形を作り後発は先発の隣にテントを張る。東ブロックは途中で川を挟むこととなり、川の向こうでは商売が難しいために場所争いが加熱する。例年だと先にテントだけを広げて商品を並べずに後発できた商人にテントごと場所を売るような輩までいる。
 いわゆる売春宿のようなものは川沿いに多かった。川で髪や体を洗っている女たちが若い狩人に手を振ってくる。若い狩人も手を振り返す。小舟を並べて繋げた上に木の板を渡したような橋を渡る。
 町の周囲は動物の侵入を防ぐために石を積み上げた土塁や板塀が作られるのだが、大体の場所は去年の名残もあるため少々手を加えるだけで良かったが新しい場所はそうは行かない。兵隊たちが土塁や塀を作る作業をしていた。今年はすでに二カ国の軍隊が到着しており、西にアステリア軍が駐屯し、東の商業ブロックの南東にベアラング軍が駐屯する形になっている。そのため今年は後発の商人たちにも儲けの芽がありそうだった。
「川は浅いが幅がある。が、魚は少ないっと」
 秋の頃にはサケ・マス類が遡上してくるのだろう。そうなるとグリズリーなども頻繁にやってくるはずである。ただその頃にはテントの一群も皆帰国しているだろう。
「石ころだらけか。雪解けの水はあまりないのか。もう流れきったのか」
 北の山々はまだ真っ白だった。
「違うか。あれはずっと白いままだもんな」
 雪解けの水はほとんどこない。氷の城より北側はずっと冬のままなのだ。極寒の帯がずっとそこにあり続けていると聞いたことがあった。
 シミュラと戦うということは敗北するということだ。少なくとも百年以上は軍隊は敗北者だ。商人たちは敗北者に物資を売って儲ける。負け続けてもなお軍隊を送り続ける。それはなぜだろうか。軍事に金を使いすぎ滅びた国も一つや二つではない。新しい国が興っても軍備に金をかけすぎて崩壊するのだ。または、軍に国を乗っ取られる。それでも民は変わる社会の変わらないシステムの中で生き続けなければならない。
「軍隊で氷の城を落とせると思ってるのかねぇ」
 本気で氷の城を落とすのなら冒険者を集めたほうが良いだろう。兵隊と同じ数の冒険者を集めれば簡単に制圧できるはずだ。ただ誰もそうしないのは、費用が兵隊の何倍もかかるからだ。
「金銀財宝が本当に存在するのか。誰も見たことがない。見たことがないから人を引き寄せるのか。あの人が勝ち続けるから期待値が上がるわけだ」
 若い狩人は川沿いに北側へ向かっていった。
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