4 / 96
冬のあほうつかい
冬のあほうつかい 3
しおりを挟む
3
狩人のような風体の若い男がノースフロストの港に降り立つ。
「春の町か。その割には汗と鉄の匂いしかし無いな」
並んでいるテントを一通り見て回る。欲しいものを見つけると店主と値段交渉をして手に入れる。オープンカフェのような酒場もあったが、今はむさ苦しい連中ばかりしかいなかった。女が増えるのは夜だという。乱雑にテントが設営されているのかと思いきやある程度のブロック分けがされているようである。港からまっすぐ北側に大通りがある。そこから東西に振り分けられ西が軍隊の設営所、東が商業ブロックとなっている。まず第一陣がそういう形を作り後発は先発の隣にテントを張る。東ブロックは途中で川を挟むこととなり、川の向こうでは商売が難しいために場所争いが加熱する。例年だと先にテントだけを広げて商品を並べずに後発できた商人にテントごと場所を売るような輩までいる。
いわゆる売春宿のようなものは川沿いに多かった。川で髪や体を洗っている女たちが若い狩人に手を振ってくる。若い狩人も手を振り返す。小舟を並べて繋げた上に木の板を渡したような橋を渡る。
町の周囲は動物の侵入を防ぐために石を積み上げた土塁や板塀が作られるのだが、大体の場所は去年の名残もあるため少々手を加えるだけで良かったが新しい場所はそうは行かない。兵隊たちが土塁や塀を作る作業をしていた。今年はすでに二カ国の軍隊が到着しており、西にアステリア軍が駐屯し、東の商業ブロックの南東にベアラング軍が駐屯する形になっている。そのため今年は後発の商人たちにも儲けの芽がありそうだった。
「川は浅いが幅がある。が、魚は少ないっと」
秋の頃にはサケ・マス類が遡上してくるのだろう。そうなるとグリズリーなども頻繁にやってくるはずである。ただその頃にはテントの一群も皆帰国しているだろう。
「石ころだらけか。雪解けの水はあまりないのか。もう流れきったのか」
北の山々はまだ真っ白だった。
「違うか。あれはずっと白いままだもんな」
雪解けの水はほとんどこない。氷の城より北側はずっと冬のままなのだ。極寒の帯がずっとそこにあり続けていると聞いたことがあった。
シミュラと戦うということは敗北するということだ。少なくとも百年以上は軍隊は敗北者だ。商人たちは敗北者に物資を売って儲ける。負け続けてもなお軍隊を送り続ける。それはなぜだろうか。軍事に金を使いすぎ滅びた国も一つや二つではない。新しい国が興っても軍備に金をかけすぎて崩壊するのだ。または、軍に国を乗っ取られる。それでも民は変わる社会の変わらないシステムの中で生き続けなければならない。
「軍隊で氷の城を落とせると思ってるのかねぇ」
本気で氷の城を落とすのなら冒険者を集めたほうが良いだろう。兵隊と同じ数の冒険者を集めれば簡単に制圧できるはずだ。ただ誰もそうしないのは、費用が兵隊の何倍もかかるからだ。
「金銀財宝が本当に存在するのか。誰も見たことがない。見たことがないから人を引き寄せるのか。あの人が勝ち続けるから期待値が上がるわけだ」
若い狩人は川沿いに北側へ向かっていった。
狩人のような風体の若い男がノースフロストの港に降り立つ。
「春の町か。その割には汗と鉄の匂いしかし無いな」
並んでいるテントを一通り見て回る。欲しいものを見つけると店主と値段交渉をして手に入れる。オープンカフェのような酒場もあったが、今はむさ苦しい連中ばかりしかいなかった。女が増えるのは夜だという。乱雑にテントが設営されているのかと思いきやある程度のブロック分けがされているようである。港からまっすぐ北側に大通りがある。そこから東西に振り分けられ西が軍隊の設営所、東が商業ブロックとなっている。まず第一陣がそういう形を作り後発は先発の隣にテントを張る。東ブロックは途中で川を挟むこととなり、川の向こうでは商売が難しいために場所争いが加熱する。例年だと先にテントだけを広げて商品を並べずに後発できた商人にテントごと場所を売るような輩までいる。
いわゆる売春宿のようなものは川沿いに多かった。川で髪や体を洗っている女たちが若い狩人に手を振ってくる。若い狩人も手を振り返す。小舟を並べて繋げた上に木の板を渡したような橋を渡る。
町の周囲は動物の侵入を防ぐために石を積み上げた土塁や板塀が作られるのだが、大体の場所は去年の名残もあるため少々手を加えるだけで良かったが新しい場所はそうは行かない。兵隊たちが土塁や塀を作る作業をしていた。今年はすでに二カ国の軍隊が到着しており、西にアステリア軍が駐屯し、東の商業ブロックの南東にベアラング軍が駐屯する形になっている。そのため今年は後発の商人たちにも儲けの芽がありそうだった。
「川は浅いが幅がある。が、魚は少ないっと」
秋の頃にはサケ・マス類が遡上してくるのだろう。そうなるとグリズリーなども頻繁にやってくるはずである。ただその頃にはテントの一群も皆帰国しているだろう。
「石ころだらけか。雪解けの水はあまりないのか。もう流れきったのか」
北の山々はまだ真っ白だった。
「違うか。あれはずっと白いままだもんな」
雪解けの水はほとんどこない。氷の城より北側はずっと冬のままなのだ。極寒の帯がずっとそこにあり続けていると聞いたことがあった。
シミュラと戦うということは敗北するということだ。少なくとも百年以上は軍隊は敗北者だ。商人たちは敗北者に物資を売って儲ける。負け続けてもなお軍隊を送り続ける。それはなぜだろうか。軍事に金を使いすぎ滅びた国も一つや二つではない。新しい国が興っても軍備に金をかけすぎて崩壊するのだ。または、軍に国を乗っ取られる。それでも民は変わる社会の変わらないシステムの中で生き続けなければならない。
「軍隊で氷の城を落とせると思ってるのかねぇ」
本気で氷の城を落とすのなら冒険者を集めたほうが良いだろう。兵隊と同じ数の冒険者を集めれば簡単に制圧できるはずだ。ただ誰もそうしないのは、費用が兵隊の何倍もかかるからだ。
「金銀財宝が本当に存在するのか。誰も見たことがない。見たことがないから人を引き寄せるのか。あの人が勝ち続けるから期待値が上がるわけだ」
若い狩人は川沿いに北側へ向かっていった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います
登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」
「え? いいんですか?」
聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。
聖女となった者が皇太子の妻となる。
そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。
皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。
私の一番嫌いなタイプだった。
ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。
そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。
やった!
これで最悪な責務から解放された!
隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。
そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる