迷宮の主

大秦頼太

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迷宮の主

迷宮の主 47

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47

 細い道はまっすぐ遠くへ伸びている。下から吹き上がってくる生温い風がシビトの持った骨の先端の黒い炎を揺らす。シビトの腰には太い骨が二本くくりつけられていた。
「見ろ」
 シビトが声と左手を上げる。ウイカとナサインは立ち止まりシビトの隙間から前方を覗き込む。
 道は真っ直ぐ、右と左の三つに分かれていた。シビトは三つに分かれた道の中央に立ちナサインとウイカを振り返る。
「さあ、どっちに行く」
 ナサインは左右の道を見比べる。
「あの親父の考えそうなことだけどよ。たぶん、全部途中で切れてるな」
「まさか」
「ま、そういう奴だな」
 ナサインはシビトを指差す。
「真っ直ぐに行くぞ」
「言うと思った」
 再びシビトが歩き出すと、ナサインが何気なく後ろを振り返る。
「うわ」
 ナサインたちを追いかけてくる骸骨の姿があった。灰色の長衣に身を包み左右に大きく体を揺らしながら近づいてくる。
「シビト!」
 ナサインはシビトに声をかけるが、すぐにシビトの返答が返って来る。
「こっちもだ」
 足元に左手の炎を置くと、ナサインは両手を合わせ左右に開き黒い棒を手にする。弔慰の骸骨は口に赤い宝石のようなものをくわえていた。
 ナサインと顔を合わせると骸骨は首をかしげた。そして、顔を元に戻すと両手を振り回しながら不安定な足場を気にすることも無く踊り始める。
「まずい!」
 ナサインは足元の黒い炎を蹴り上げた。骸骨が口を開く。
「『火球(ファイアボール)』」
 前に突き出された骸骨の手から生まれた人の頭ほどの大きさの火の玉が黒い炎とぶつかり溝の中に落ちていく。骸骨はまた首をかしげた。
 ナサインは黒い棒を振り回し、骸骨の足元を払う。しかし、骸骨はそれをするりとかわし再び踊り始める。ナサインは棒を右手に持ち、左手で黒い炎を骸骨に向けて撃つ。
「『火球(ファイアボール)』」
 骸骨の放つ火の玉とナサインの放つ黒い炎は再び共に溝の中に消えていく。
「ナサイン!」
 ウイカの叫びが聞こえた。振り上げた杖で、骸骨を上から打ち据える。空気に膨らんだ布を叩くような感触に思わずイライラが募る。
「取り込み中だ!」
「あっち側にも!」
 振り返れば骸骨の踊り子が左右の道からもやってくるのが見えた。
「冗談だろ」
 ナサインに左手に黒い炎を出し、骸骨の踊りを見極める。その足を後からつかむのは、先ほど殴った骸骨の手だった。
「気持ちが悪いんだよ!」
 右手に持った黒い杖の先が骸骨の顎を強打する。すると、くわえていた赤い宝石が外れ溝の中に転がっていく。途端に骸骨は動きを止めた。
「何?」
「ナサイン!」
 ウイカの声に顔を上げると、右手側にいる骸骨に向かって黒い炎を投げつける。黒い炎は骸骨が打ち出した火球に吸い込まれるように飛んでいくと溝の中に吸い込まれるように落ちていく。
「シビト! 口の中の赤い宝石を狙え!」
「ナサイン!」
 今度は左手側にいる骸骨が踊りを踊っている。左手に炎を出して骸骨の前に躍り出る。放たれる火球に向かって左手を突き出し、黒炎が火を吸った瞬間に黒い炎を投げ捨てる。
「後ろ!」
「クソ! 忙しすぎるんだよ!」
 再び振り返り左手に黒い炎を出す。
「またこっちも!」
 ナサインは右手に握る杖を上方に捨てると、右手にも黒い炎を発現させた。打ち出される骸骨の火の玉に合わせて黒い炎をぶつける。
「シビト、まだか?」
「すまん。こっちも手一杯だ」
「ナサイン! こっち!」
 ウイカが手に何かを握って左手側の骸骨に向かって走り出した。黒い炎を両手にナサインは火球の処理に当たる。ウイカに向かって放たれる火球に黒い炎をあわせる。抱き合って落ちる二色の炎に照らされて、ウイカの振るった骨が骸骨の赤い宝石を跳ね飛ばす。骸骨は力なく床に倒れ、溝の内へ滑り落ちていく。
「助かった!」
 ナサインは右手側の火の玉を打ち落とし、そこにウイカが骨を棍棒のように使い宝石を落とす。
「こっちも終わった」
 ナサインの前に現れたシビトの両腕から煙が上がっていた。
「嫌な野郎だ」
「同感」
「ほんとね」
 三人は顔を見合わせて笑った。
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