迷宮の主

大秦頼太

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迷宮の主

迷宮の主 36

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36

 階段を上るとシビトの前に兵士たちの姿が見えた。その数ざっと二十人ほどだろうか。下へ伸びる階段ホールへの通路になだれ込んでくるのが見えた。シビトはチラリと階段を見る。ネジフが上がってくるのが見えた。
「ネジフ。階段ホールに来た奴は任せる」
「そうかよ」
「その前の通路にさえ入れさせるつもりは無いがな」
「もう入ってんじゃねえか」
 階段ホールに向かって来る兵士の一人が、悲鳴に似た声を上げた。
「魔物です! また出ました! 人型です!」
 そう言うと兵士は逃げるように通路を駆けて行く。ガチャガチャと音をさせながら通路一杯に弓兵が五人ほど並び列を作る。
「矢に当たるなよ。痛いぞ」
「矢が刺されば痛いに決まってんだろ」
 通路に向かって歩き出すシビトをネジフが文句を言って送り出す。
 シビトは胸の前で前の手を合わせ印のようなものを組んだ。
「アスラ!」
 そう叫ぶとシビトの吐き出した真っ黒な空気が顔中に広がり、耳の後ろに二つの顔が並ぶ。漆黒の彫像のようになったシビトが目を開くと、緑色の目が六つ光を放つ。
「撃て! 撃て!」
 その号令と同時に発射された二十本ほどの矢がシビトに襲い掛かる。シビトはそよ風の中を歩くが如くその中を歩いていく。背中の四本の腕と前の腕二本が流れるように動くいていた。
「隊長! 矢が!」
 兵士の誰かの声にはすでに涙が混じっていた。シビトの手にはすべての矢が握られていたのだ。
「槍兵、前に!」
 その声を聞いた途端、兵士たちは大混乱になった。通路一杯に弓兵が並んでいたために逃げ出す弓兵と飛び出そうとした槍兵がぶつかり合う結果になってしまったのだ。
 シビトは矢を地面に放り投げて兵士たちに襲い掛かる。
 脇をすり抜けようとした二人の兵士の頭を掴み通路の壁に押し付ける。兵士の頭はかぶっていた冑ごとひしゃげて床に倒れる。弓兵の一人は、叫び声を上げながら弓を振り回しシビトを追い払おうとした。シビトの拳が弓兵を叩き潰す。
 槍兵がやっとのことでシビトの前にたどり着くと、シビトは息絶えた弓兵をそこに投げつけてきた。慌てて避けようとする槍兵の顔面に突き出された手刀が何の抵抗も無く頭を打ち抜いた。
「俺いらねえじゃん」
 それを後で見ていたネジフは階段の隅に座り込んでシビトの様子を観察した。
「あいつ相当むかついてたんだな」
 シビトは怒りを発散させるかのように兵士たちを殺戮している。
「どこが善なる王だよ。魔人じゃねえか」
 六本の腕が兵士たちを掴み上げた瞬間、その影から繰り出される槍がシビトの身体に突き刺さる。シビトは一層怒りに任せ兵士たちを武器に暴れまわる。
 シビトから逃げるように脇をすり抜け、通路からホールへかけてくる兵士が見えた。ネジフは立ち上がるとその前に立ちふさがった。
「惜しい」
 兵士は後ろに気を取られていたために急に現れたネジフに驚いた。鞘から剣を引き抜こうとするが、体が震えてどうすることも出来ないようだった。
「化け物!」
「バカヤロウ。俺は人間だぞ!」
 ネジフは戦斧を振り下ろす。戦斧は兵士の鎖骨を砕き一撃で絶命させる。
「あれ? 何でこいつら殺す必要があるんだ?」
 ネジフは息絶えた兵士を見て首をかしげた。
「わかんねえからいいか」
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