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迷宮の主
迷宮の主 34
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34
「地下四階」
ナサインが階段を降りてくる。後から続いてくるウイカはロングドレスのスカートを持ちながら降りてくる。ネジフがすそを踏みかけてモンテールと階段を転げ落ちる。ウイカもそれに引っ張られ後ろにのけぞった。
「大丈夫か?」
「ほっといて」
「こんなところで着るもんじゃねえだろ」
ネジフが文句を言う。モンテールが階段の下に広がるホールに逃げていく。
「いよいよ地下四階ですか」
モンテールの髪の毛に触れながらナサインは言った。
「ああ。別名、もっとも長き迷宮。歩いて進めば次の階にたどり着くまでに二日三日はかかる」
「誰よ。そんなバカなもの作ったの」
ウイカがあきれ果てていると、シビトが階段から降りてきてナサインを指差した。
「作ったのはこいつだ」
「俺は承認しただけだよ。元のアイデアはミクモのものだ。あいつはこれに罠と魔物を配置する予定だったんだけどな。俺がカットした」
ウイカはロングドレスを指差しながら、ナサインに鋭く言葉を吐き出す。
「そうだ。これどうにかして」
「気に入らないのか?」
ナサインの軽い言葉にウイカは怒気を含んだため息を吐き出した。
「そうじゃなくて、動きづらいの」
「ああ、そういうことか」
ナサインは少し思案する。
「モンテールもネジフも少し防御力を上げておくか」
ナサインは両手を合わせてから左右に開くそこから生まれた黒い布をウイカに巻く。黒のドレスは上から包み込まれて革の鎧に変わっていった。続いてモンテールにも黒い布を巻きつける。こちらは着ていた長衣が黒色に変わっただけであまり代わり映えがしなかった。ナサインが黒い布を投げ捨てると布は空気の中に消えていく。すぐに腕を重ねて白湯に開く。すると岩のようにゴツゴツした黒い物体がそこに現れる。
「なんだよ、気持ちが悪いなぁ」
文句を言うネジフに黒い塊を押し当てると、ボコボコ音を立てながら、それは金属の光沢を帯びた黒い鎧へと変わっていく。それを見てネジフは飛び跳ねて喜んだ。
「格好いいじゃねえか」
「こんなもんか」
ナサインは床に座り込む。ウイカとネジフが体の動きをチェックする中、モンテールは迷宮の奥を覗いていた。
「これをずっと歩いていくんですか?」
「そんなことしないさ。シビト」
ナサインはシビトに向かって手を出す。
「何だ?」
シビトにはそれが何を意図しているのかわからなかったようだ。ナサインはもう一度手を出してシビトに呼びかける。
「ん!」
「だからなんだ?」
「鍵だよ鍵。エレベーターホールへの鍵」
シビトは首をかしげた。
「鍵の管理は自分でやるって言ってなかったか?」
「言ってねえよ。預けただろ?」
「貰ってない」
「渡した」
「渡されてない」
「出せ」
「無い物が出せるかバカ」
「バカとは何だ。主に向かって」
「バカをバカと呼んで何が悪い。このバカ」
「この木偶の坊が」
「俺が木偶の坊ならお前は何だ? ウスノロバカか? ウルトラバカか?」
「また言いやがったな!」
「何度でも言ってやる。バーカバーカ」
「てめえぇ」
二人の間にウイカが割り込んでくる。
「ちょっと落ち着いてよ。どうしたの?」
「エレベーターホールに入る鍵をシビトが失くしたんだよ」
「失くしたとは何だ。貰ってないものを失くせるか」
「どうせ、酒場かなんかで落としたんだろ」
「もう、子供じゃないんだから、二人とも落ち着いてよ」
「エレベーターが使えないと三日もロスをするんだよ」
「俺は貰ってない」
「渡した」
「無い」
「無いって何だ。やっぱり失くしたのか」
「貰ってない。の無いだ」
「嘘付け」
シビトがナサインの目の前に立つ。ナサインも負けじとシビトに身体をあわせる。それをウイカが二つに割った。
「ちょっとやめなさいよ」
ナサインはシビトの胸を突いて強い口調で言葉を吐き出す。
「いいか、俺が魔素の補給を終えるまでに思い出しておけよ」
甲高い声で笑いながらシビトは余裕を見せる。
「お前こそ、魔素を貯めてる間に思い出すなよ」
「あ?」
再び顔を向けるナサインとシビトをウイカとモンテールが間に入って止める。
「ナサイン殿、急がねば」
「おじさん落ち着いて」
ナサインとシビトは互いに「フン」と息を吐き出し背中を向ける。その動きが妙にぴったりだったのにウイカは小さく笑った。
「地下四階」
ナサインが階段を降りてくる。後から続いてくるウイカはロングドレスのスカートを持ちながら降りてくる。ネジフがすそを踏みかけてモンテールと階段を転げ落ちる。ウイカもそれに引っ張られ後ろにのけぞった。
「大丈夫か?」
「ほっといて」
「こんなところで着るもんじゃねえだろ」
ネジフが文句を言う。モンテールが階段の下に広がるホールに逃げていく。
「いよいよ地下四階ですか」
モンテールの髪の毛に触れながらナサインは言った。
「ああ。別名、もっとも長き迷宮。歩いて進めば次の階にたどり着くまでに二日三日はかかる」
「誰よ。そんなバカなもの作ったの」
ウイカがあきれ果てていると、シビトが階段から降りてきてナサインを指差した。
「作ったのはこいつだ」
「俺は承認しただけだよ。元のアイデアはミクモのものだ。あいつはこれに罠と魔物を配置する予定だったんだけどな。俺がカットした」
ウイカはロングドレスを指差しながら、ナサインに鋭く言葉を吐き出す。
「そうだ。これどうにかして」
「気に入らないのか?」
ナサインの軽い言葉にウイカは怒気を含んだため息を吐き出した。
「そうじゃなくて、動きづらいの」
「ああ、そういうことか」
ナサインは少し思案する。
「モンテールもネジフも少し防御力を上げておくか」
ナサインは両手を合わせてから左右に開くそこから生まれた黒い布をウイカに巻く。黒のドレスは上から包み込まれて革の鎧に変わっていった。続いてモンテールにも黒い布を巻きつける。こちらは着ていた長衣が黒色に変わっただけであまり代わり映えがしなかった。ナサインが黒い布を投げ捨てると布は空気の中に消えていく。すぐに腕を重ねて白湯に開く。すると岩のようにゴツゴツした黒い物体がそこに現れる。
「なんだよ、気持ちが悪いなぁ」
文句を言うネジフに黒い塊を押し当てると、ボコボコ音を立てながら、それは金属の光沢を帯びた黒い鎧へと変わっていく。それを見てネジフは飛び跳ねて喜んだ。
「格好いいじゃねえか」
「こんなもんか」
ナサインは床に座り込む。ウイカとネジフが体の動きをチェックする中、モンテールは迷宮の奥を覗いていた。
「これをずっと歩いていくんですか?」
「そんなことしないさ。シビト」
ナサインはシビトに向かって手を出す。
「何だ?」
シビトにはそれが何を意図しているのかわからなかったようだ。ナサインはもう一度手を出してシビトに呼びかける。
「ん!」
「だからなんだ?」
「鍵だよ鍵。エレベーターホールへの鍵」
シビトは首をかしげた。
「鍵の管理は自分でやるって言ってなかったか?」
「言ってねえよ。預けただろ?」
「貰ってない」
「渡した」
「渡されてない」
「出せ」
「無い物が出せるかバカ」
「バカとは何だ。主に向かって」
「バカをバカと呼んで何が悪い。このバカ」
「この木偶の坊が」
「俺が木偶の坊ならお前は何だ? ウスノロバカか? ウルトラバカか?」
「また言いやがったな!」
「何度でも言ってやる。バーカバーカ」
「てめえぇ」
二人の間にウイカが割り込んでくる。
「ちょっと落ち着いてよ。どうしたの?」
「エレベーターホールに入る鍵をシビトが失くしたんだよ」
「失くしたとは何だ。貰ってないものを失くせるか」
「どうせ、酒場かなんかで落としたんだろ」
「もう、子供じゃないんだから、二人とも落ち着いてよ」
「エレベーターが使えないと三日もロスをするんだよ」
「俺は貰ってない」
「渡した」
「無い」
「無いって何だ。やっぱり失くしたのか」
「貰ってない。の無いだ」
「嘘付け」
シビトがナサインの目の前に立つ。ナサインも負けじとシビトに身体をあわせる。それをウイカが二つに割った。
「ちょっとやめなさいよ」
ナサインはシビトの胸を突いて強い口調で言葉を吐き出す。
「いいか、俺が魔素の補給を終えるまでに思い出しておけよ」
甲高い声で笑いながらシビトは余裕を見せる。
「お前こそ、魔素を貯めてる間に思い出すなよ」
「あ?」
再び顔を向けるナサインとシビトをウイカとモンテールが間に入って止める。
「ナサイン殿、急がねば」
「おじさん落ち着いて」
ナサインとシビトは互いに「フン」と息を吐き出し背中を向ける。その動きが妙にぴったりだったのにウイカは小さく笑った。
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