迷宮の主

大秦頼太

文字の大きさ
上 下
77 / 96
迷宮の主

迷宮の主 34

しおりを挟む
34

「地下四階」
 ナサインが階段を降りてくる。後から続いてくるウイカはロングドレスのスカートを持ちながら降りてくる。ネジフがすそを踏みかけてモンテールと階段を転げ落ちる。ウイカもそれに引っ張られ後ろにのけぞった。
「大丈夫か?」
「ほっといて」
「こんなところで着るもんじゃねえだろ」
 ネジフが文句を言う。モンテールが階段の下に広がるホールに逃げていく。
「いよいよ地下四階ですか」
 モンテールの髪の毛に触れながらナサインは言った。
「ああ。別名、もっとも長き迷宮。歩いて進めば次の階にたどり着くまでに二日三日はかかる」
「誰よ。そんなバカなもの作ったの」
 ウイカがあきれ果てていると、シビトが階段から降りてきてナサインを指差した。
「作ったのはこいつだ」
「俺は承認しただけだよ。元のアイデアはミクモのものだ。あいつはこれに罠と魔物を配置する予定だったんだけどな。俺がカットした」
 ウイカはロングドレスを指差しながら、ナサインに鋭く言葉を吐き出す。
「そうだ。これどうにかして」
「気に入らないのか?」
 ナサインの軽い言葉にウイカは怒気を含んだため息を吐き出した。
「そうじゃなくて、動きづらいの」
「ああ、そういうことか」
 ナサインは少し思案する。
「モンテールもネジフも少し防御力を上げておくか」
 ナサインは両手を合わせてから左右に開くそこから生まれた黒い布をウイカに巻く。黒のドレスは上から包み込まれて革の鎧に変わっていった。続いてモンテールにも黒い布を巻きつける。こちらは着ていた長衣が黒色に変わっただけであまり代わり映えがしなかった。ナサインが黒い布を投げ捨てると布は空気の中に消えていく。すぐに腕を重ねて白湯に開く。すると岩のようにゴツゴツした黒い物体がそこに現れる。
「なんだよ、気持ちが悪いなぁ」
 文句を言うネジフに黒い塊を押し当てると、ボコボコ音を立てながら、それは金属の光沢を帯びた黒い鎧へと変わっていく。それを見てネジフは飛び跳ねて喜んだ。
「格好いいじゃねえか」
「こんなもんか」
 ナサインは床に座り込む。ウイカとネジフが体の動きをチェックする中、モンテールは迷宮の奥を覗いていた。
「これをずっと歩いていくんですか?」
「そんなことしないさ。シビト」
 ナサインはシビトに向かって手を出す。
「何だ?」
 シビトにはそれが何を意図しているのかわからなかったようだ。ナサインはもう一度手を出してシビトに呼びかける。
「ん!」
「だからなんだ?」
「鍵だよ鍵。エレベーターホールへの鍵」
 シビトは首をかしげた。
「鍵の管理は自分でやるって言ってなかったか?」
「言ってねえよ。預けただろ?」
「貰ってない」
「渡した」
「渡されてない」
「出せ」
「無い物が出せるかバカ」
「バカとは何だ。主に向かって」
「バカをバカと呼んで何が悪い。このバカ」
「この木偶の坊が」
「俺が木偶の坊ならお前は何だ? ウスノロバカか? ウルトラバカか?」
「また言いやがったな!」
「何度でも言ってやる。バーカバーカ」
「てめえぇ」
 二人の間にウイカが割り込んでくる。
「ちょっと落ち着いてよ。どうしたの?」
「エレベーターホールに入る鍵をシビトが失くしたんだよ」
「失くしたとは何だ。貰ってないものを失くせるか」
「どうせ、酒場かなんかで落としたんだろ」
「もう、子供じゃないんだから、二人とも落ち着いてよ」
「エレベーターが使えないと三日もロスをするんだよ」
「俺は貰ってない」
「渡した」
「無い」
「無いって何だ。やっぱり失くしたのか」
「貰ってない。の無いだ」
「嘘付け」
 シビトがナサインの目の前に立つ。ナサインも負けじとシビトに身体をあわせる。それをウイカが二つに割った。
「ちょっとやめなさいよ」
 ナサインはシビトの胸を突いて強い口調で言葉を吐き出す。
「いいか、俺が魔素の補給を終えるまでに思い出しておけよ」
 甲高い声で笑いながらシビトは余裕を見せる。
「お前こそ、魔素を貯めてる間に思い出すなよ」
「あ?」
 再び顔を向けるナサインとシビトをウイカとモンテールが間に入って止める。
「ナサイン殿、急がねば」
「おじさん落ち着いて」
 ナサインとシビトは互いに「フン」と息を吐き出し背中を向ける。その動きが妙にぴったりだったのにウイカは小さく笑った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした

新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。 「ヨシュア……てめえはクビだ」 ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。 「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。 危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。 一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。 彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

(完結)獅子姫の婿殿

七辻ゆゆ
ファンタジー
ドラゴンのいる辺境グランノットに、王と踊り子の間に生まれた王子リエレは婿としてやってきた。 歓迎されるはずもないと思っていたが、獅子姫ヴェネッダは大変に好意的、素直、あけっぴろげ、それはそれで思惑のあるリエレは困ってしまう。 「初めまして、婿殿。……うん? いや、ちょっと待って。話には聞いていたがとんでもなく美形だな」 「……お初にお目にかかる」  唖然としていたリエレがどうにか挨拶すると、彼女は大きく口を開いて笑った。 「皆、見てくれ! 私の夫はなんと美しいのだろう!」

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~ 

ファンタジー
「詰んだ…」遠い眼をして呟いた4歳の夏、カイザーはここが乙女ゲーム『亡国のレガリアと王国の秘宝』の世界だと思い出す。ゲームの俺様攻略対象者と我儘悪役令嬢の兄として転生した『無能』なモブが、ブラコン&シスコンへと華麗なるジョブチェンジを遂げモブの壁を愛と努力でぶち破る!これは優雅な白鳥ならぬ黒鳥の皮を被った彼が、無自覚に周りを誑しこんだりしながら奮闘しつつ総愛され(慕われ)する物語。生まれ持った美貌と頭脳・身体能力に努力を重ね、財力・身分と全てを活かし悪役令嬢ルート阻止に励むカイザーだがある日謎の能力が覚醒して…?!更にはそのミステリアス超絶美形っぷりから隠しキャラ扱いされたり、様々な勘違いにも拍車がかかり…。鉄壁の微笑みの裏で心の中の独り言と突っ込みが炸裂する彼の日常。(一話は短め設定です)

チートな嫁たちに囲まれて異世界で暮らしています

もぶぞう
ファンタジー
森でナギサを拾ってくれたのはダークエルフの女性だった。 使命が有る訳でも無い男が強い嫁を増やしながら異世界で暮らす話です(予定)。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

処理中です...