迷宮の主

大秦頼太

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迷宮の主

迷宮の主 24

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24

 ナサインの両手が黒い円を吸収する。
「なげえな」
 ネジフが大きなあくびをする。ナサインは軽く笑って、シビトを呼ぶ。
「全部補充してくれ」
「無理だ。この階じゃ、そんなに沢山は精製できない」
 ナサインはシビトの背中に手を当てる。その目が光り始めると、ネジフが飛び上がって驚いた。
「目が!」
 その声にウイカとモンテールが顔を上げる。
「どうしたんですか? ゴミでも入ったんですか? 大きな目ですからね」
 モンテールは見開かれたネジフの目を念入りに見る。
「何も入ってませんよ」
「俺じゃねえよ」
 ネジフの視線の先を追っていくモンテールも驚きの声を出す。
「目が!」
 ナサインの右手から生まれた黒い影は波打ちながらシビトの体の中に吸い込まれていく。同時にナサインの目の赤い光も消えていく。
 黙ってみているウイカにナサインが気付く。
「なんだよ」
「魔素を沢山集めたら、またあんな風になるの?」
「あんな風?」
「具合が悪かっただろ」
 ナサインは笑う。シビトがウイカの肩を叩き、ナサインの代わりに応える。
「あれは腹が減ってるようなもんだ」
 ナサインは左手に黒い炎を出す。
「行くぞ。寄り道はしないで一気に三階を目指す」
 歩き出したナサインが足を止める。
「青く光るコケを見つけたら拾っておけよ」
「何度も言うけど何で?」
 荷物を持ちながらウイカがたずねる。ネジフが階段の上を覗き見る。
「上がうるせえな」
 ナサインは身構える。
「シミュラか?」
 その声にシビトも反応し、ゆっくりと階段の下に歩んでいく。階段の上に広がる暗闇を見つめながらシビトは言葉を吐く。
「先に行ったんじゃないのか?」
「丸蟲の巣の荒らし方を見るとそう思うんだけどね」
 ナサインは両手を合わせると、力強く腕を外に開いていく。すると、そこに黒く長い棒が生まれた。
「出来れば四階以降で会いたかった」
「私どうしましょうか?」
 モンテールが荷物を抱えてうろうろし始める。それを見てナサインが叫ぶ。
「こんな時に他のが来たら対処できないからな。階段の脇の影にでも隠れてろ!」
「俺も腕が痛いから隠れてていいか?」
 ネジフもモンテールについていく。
「シミュラが相手じゃその方がいい」
「ナサイン!」
「お前も隠れてろ」
 ナサインの顔に緊張感が増す。シビトもそれを感じたのか両拳を握り締める。シビトの体からあふれ出た黒い霧が腕を取り巻くとあっという間に黒光りする手甲に変化する。
「もう少し強化できると嬉しいんだがな」
「贅沢言うな」
 階段の上に明かりが見えた。橙色に揺れる光はたいまつのものだ。それが広がるにつれ人の気配がしてくる。
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