迷宮の主

大秦頼太

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迷宮の主

迷宮の主 13

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13

 古城の中は真っ暗闇で何も見えなかった。ウイカが手に持ったカンテラで奥を照らそうとするが、それをシビトがさえぎった。
「消したほうがいいぞ。弓を撃って来る魔物は光をめがけて撃つからな」
 ウイカはカンテラを下に置いてシビトを前に押し出した。石の床にはコケが生え木の葉が半ば腐りかけているのが見えた。シビトは後に呼びかける。
「ナサイン」
「へいへーい」
 ふてくされた感じでナサインが返事をした。
「いい加減諦めろ。お前には人を統べる力は無い」
「うるせえ。俺がいなけりゃお前はただのでくの坊だろうが」
「フフ。負け惜しみか」
 ナサインはうなってカンテラの明かりを消す。急に暗くなったことにウイカとネジフが驚いた。
「おい」
「急に消すなよ」
 しかし、辺りは徐々に明るくなってくる。見れば今までカンテラの灯がともっていたところに黒い炎が燃え上がっていて、それが辺りから黒い粒を吸い込んでいるように見える。
「何だこれ」
「あまり離れるなよ。明かりと違って闇を吸い込んでいるだけだからな」
「なあ、どういう仕組みになってるんだよ」
 ウイカの疑問をナサインは鼻で笑うと、
「行くぞ」
 と指示を出す。しかし、誰もそれに応えようとしなかった。
「あのなぁ」
「ナサインさん。あなたは何者なんですか?」
 モンテールが声を絞り出す。ナサインは少しだけ機嫌を直して笑ってみせる。
「だから、この迷宮の主になる者だって」
「こいつはバカだからそれ以上の答えは出てこないぞ」
 シビトがナサインの手からカンテラを奪い取ると奥へと進み始める。するとナサイン以外はそれについていく。
「ふん」
 ナサインは左手の手のひらを上にすると、そこにカンテラと同じ黒い炎を生み出した。ナサインの周囲も明るくなっていく。
 古城の内部はところどころが崩れている。二階へ上る階段は中二階で崩れ、その先に見える柱はひび割れ廊下の脇に見える部屋への入り口と思われるところには、砕けた扉やもたれかかった扉が見えた。
「これじゃあ、財宝なんかねえぞ」
 ネジフがぶつぶつと文句を言う。
 二階へと上る階段の脇を進んでいくと奥へと続く廊下が見えた。人が二人も並んで歩けば一杯の通路だった。
 シビトが立ち止まる。前方から近づいてくる物音がする。
「少し俺から離れてろ」
 シビトはカンテラをその場に置くと、ウイカたちをその場から下がらせる。
 軽く息を整えるシビトの前に、槍の穂先が突き出される。避けると同時に数本の槍が同時に襲い掛かってくる。
「おじさん!」
 駆け寄ろうとするウイカの手をナサインが引きとめる。
「シビトの邪魔をするな」
「でも、おじさんは弱いのに」
 シビトに襲い掛かってくるのは槍を持った骸骨兵だった。その数、全部で五体。次々に繰り出される槍を避ける一方でシビトは少しも後退していない。骸骨兵たちはその体の隙間さえも利用して槍を突き入れてくるのにシビトにはかすることさえも出来なかった。
「おじさん、避けるの上手い」
「シビト、避けるだけじゃないところを見せてやれ」
 ナサインの掛け声を受けて、シビトは「ふん」と鼻で笑って応える。一本目の槍を交わすと同時に背中に回し、二本目を右拳で上部に跳ね上げる。続いて前の骸骨兵の首筋から出てきた三本目を右の肘で打ち壊し、骸骨兵の最初の一体目の頭部に右拳をひねりこんだ。
 ガシャーン。
 陶器が壊れるような音と共に前にいた骸骨兵の頭が吹き飛んだ。それをシビトがしたり顔で浸っているとそこに次々に骸骨兵たちの反撃が繰り出されてくるのだった。
 変な踊りを踊っているかのようにきわどく避けるシビトを見て、ナサインは大声で笑った。
「おじさん! 広い場所まで下がろう!」
 ウイカは必死で声をかける。それをナサインが止める。
「冗談。あの骸骨たちとの戦いはこれでいいのさ」
 その瞬間、シビトの左肘が骸骨兵の二体目の頭部を破壊する。シビトは転がっている槍を拾い上げて三対目の槍を受けると同時に鎖骨の間にくぐらせ廊下に引っ掛ける。すると骸骨兵たちは進むことも出来ずにもがくように届かない槍を繰り出し続ける。
 シビトはその間に廊下を戻りカンテラを拾い上げて少し前にまで運んでいく。ナサインたちも少しだけ前に進む。
「おじさんすごい」
 再びカンテラで明かりを確保すると、廊下に引っかかる三体目の骸骨兵の頭部を右拳で粉砕する。そのままの勢いで繰り出した蹴りが廊下に引っかかった槍の柄を折る。すると、そこに待ってましたと言わんばかりに残りの骸骨兵の槍が二本同時に突き出されてくる。
 シビトは上体をそらせながら、脚を大きく開きその槍を首のすぐ横でやり過ごす。流れに乗り骸骨兵たちの足元に滑り込むと逆立ちをするように両腕で立ち上がり、広げた両足でそれぞれの頭部を破砕した。
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