迷宮の主

大秦頼太

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迷宮の主

迷宮の主 11

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11

 ウイカの耳に何かが聞こえてくる。側を見ると半分だけ完成しているテントが小刻みに震えている。ウイカが入り口の隙間から覗くとモンテールのお尻が見えた。
「こら!」
「ひぃ!」
 モンテールはウイカの声に叫び声を上げる。ウイカはモンテールの衣服をつかむと外に引きずり出した。
「殺さないで!」
 ウイカはモンテールの頭を平手打ちして叱り付ける。
「しっかりしてよ。おじさんが呼んでるから来て」
 走り出そうとするウイカを見上げながらモンテールは立ち上がろうとはしない。
「何?」
「死体が動くなんて……、初めてだったもんで」
「あたしだって初めて見たよ」
 ウイカはモンテールの手を取ると無理やり立たせる。そして後ろに回りこんでモンテールを押して歩く。
 シビトは三体の骸骨の脚を順々に払い、起き上がってくるたびに骸骨を地面に転がしている。
「おじさんやるなぁ」
「私なんて役に立ちませんよぉ」
 モンテールの声には涙が混じっていたが、ウイカはその背中を押し続けた。
「知らないよ。おじさんが連れて来いって行ったんだから」
 近づいてくるモンテールを横目に見たシビトが手を上げて二人を止める。転がった骸骨にネジフが戦斧を振り下ろすが片手のそれは骨を砕くことは出来ず、その表面を削り取るだけだった。
「祈りの言葉を叫べ」
 シビトがモンテールに指示を出す。
「さっきから叫んでますよ! 神様、お助けください!」
「経典の祈りの言葉だ!」
「ああ、あの祈りの言葉? 何章でしょうか?」
 完全にウイカに寄りかかるような形のモンテールはうわずった声を吐き出した。シビトは起き上がった骸骨の脚を蹴り飛ばす。
「知るか! 何でもいい。とにかく言え」
 シビトの言葉にモンテールはもごもごと小さな声で何事かを呟きだす。すると、骸骨たちの動きが鈍くなりやがて立ち尽くしたまま止まってしまう。
「こいつら死んだのか?」
 ネジフが動かなくなった骸骨を戦斧で叩く。だが、やはり片手では砕けなかった。体勢を崩しても骸骨たちはゆっくりと立ち上がり、そのまま立ち尽くすだけだった。先ほどまでのような反応を見せない骸骨にモンテールが拍手を浴びせる。
「やった!」
 その瞬間、骸骨たちが再びネジフに襲い掛かる。
「なんだよ。ふざけんなよ」
「やめるな!」
 シビトの言葉でモンテールは慌てて祈りの言葉を呟く。骸骨たちはまた動きを止める。
「それで、どうするの?」
「ネジフ。今のうちに鼻に布を詰めろ」
「なんでだよ」
「臭いんだろ」
「あ、お前頭いいな」
 ネジフは荷物が落ちている方へ駆けて行く。
「あの、私はいつまで?」
「だからやめるな! ネジフが骨を砕ければ終わりだ」
 その言葉にようやく落ち着いたのか、モンテールは衣を正しながら祈りの言葉に集中した。
「まったく」
 シビトは軽くため息をついてナサインを見る。ナサインは手のひらから黒い煙を吸い込んでいるままだった。
「あれ、何してるの?」
 ウイカが不満そうに言葉を吐く。シビトはその肩を叩き骸骨に向き直る。
「魔素を溜めてるのさ」
「魔素? って何?」
 そこへ鼻に布を詰め込みながらネジフが戻ってくる。
「お前、魔素のこと知らねえのか? 頭わりいな」
「だから何なんだよ」
「ただじゃ教えねえよ」
「セコイ奴」
 ウイカは戦斧を構えるネジフの背中を見て、首をかしげる。
「あんたも知らないんだろ?」
 ネジフは驚くべき速さで振り返り、目を見開き大声でウイカに応える。
「ふざけんなよバカ。俺様は知ってるに決まってるんだろ」
 そう言うと骸骨に向かって走り出すそして勢い良く両手で戦斧を振り下ろす。戦斧はうなりを上げて骸骨の身体を断裁する。ネジフは楽しげに骸骨たちをグシャグシャにするのだった。
「死ねよ、この骨野郎共め」
「すでに死んでるけどな」
 シビトは骨の中から石のような黒い塊を手に取ると、それを拾い集めてナサインに向かって放り投げる。石はナサインに命中する前に煙になって彼の両手に吸い込まれていった。
「これが魔素さ」
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