迷宮の主

大秦頼太

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迷宮の主

迷宮の主 4

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「……路地に入れ」
 ナサインは荒い呼吸をしたままシビトに指示を出す。シビトは薄暗い路地に入るとナサインを路地の上に投げ捨てる。
「……てめえ」
 ナサインを見下ろすシビトは薄笑いを浮かべてる。
「これで俺は自由だな」
 この言葉に今度はナサインが笑う。
「残念だったな」
 ナサインは壁にもたれかかりながら立ち上がる。額の汗をぬぐうと、ゆっくりと呼吸を整える。
「お前は個人的に縛っているからな。俺が主だ」
 シビトの笑みが凍りつく。
「そうだろうと思った。言ってみただけだ」
 苦々しく鼻を鳴らすと、シビトは小さく「くそ」と呟く。
「迷宮の主が変わったぞ。こんなことならロンドも出しておくべきだった」
 ナサインは拳を振り上げて脚を叩く。
「で、どうする?」
 シビトはナサインを見下ろす。その顔から笑みは消えていた。ナサインはシビトの腹部を拳で殴りつけると挑戦的に笑ってみせる。
「取りに行くに決まってるだろう。俺が次の主になるのさ」
「フフ」
 シビトは高い声で笑う。
「マソがないのにか? お前なんかまるで役立たずじゃないか」
「うるせえ。お前だってデカイだけだろうが」
「何?」
「マソが切れてる今、俺たちは子供よりも弱いってことを忘れるなよ。出来るのはハッタリをかますくらいなんだよ」
「え?」
「こんなことならマソを払ってくるんじゃなかったな。代理を立てればよかった」
「おい、子供より弱いって言うのは嘘だろ?」
 うろたえるシビトにナサインはさびしい笑顔を見せる。
「本当なのか」
「マソは魔の素だからな。魔素を除去しないと外には出られないのが欠点だよな」
「魔素使いなんだからすぐに集めろ」
「そんなに簡単なものじゃないんだよ」
「役に立たない奴め」
 悔しがるシビトのすねをナサインは蹴り上げる。シビトは平然とそれを受ける。
「痛くもかゆくもないな」
 ナサインはシビトの挑戦的な態度を無視して表通りを覗き見る。
「とりあえず人を集めないとな」
 ナサインはポケットをまさぐると二枚の金貨を取り出す。
「シビト、いくら持ってる?」
 シビトも懐から銀貨三枚と金貨を五枚出してみせる。
「俺のほうが金持ちのようだな」
 ナサインは舌打ちをしてシビトの金貨を二枚奪い取る。
「おい」
 ナサインは片手を上げてシビトを制する。シビトは忌々しげに残った金を懐にしまい入れる。
「戻ったら返すさ」
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