人魚奇譚CLARISSA

CLARISSA

第二場

●第二場●
　　　夜。
　　　暗転幕前。
　　　暴風の中、ジョーイを先頭にバッチョとカルバスが下手から上手に歩いていく。やがて、風の音がやむ。
　　　ジョーイたちが上手から引き返してくる。

ジョーイ　　良かった。港には影響はないようだ。このまま浜を回って戻るぞ。
バッチョ　　はーい。
カルバス　　ジョーイ様、浜は危険ですから止めましょう。
ジョーイ　　何を言ってる。誰か困ってる人がいるかもしれないじゃないか。そんな人を放っておいたら、我が家の名に恥じることになる。行くぞ。困っている人間を助ければ家名も上がり、父上も私を更に認めてくれて、私の言うことを聞いてくださるだろう。

　　　ジョーイは下手に歩き去る。

カルバス　　へいーへーい。付き合わされる俺達の身にもなって欲しいなぁ。
バッチョ　　（海を見る）おい、カルバス！
カルバス　　なんだよ。早く帰って寝たいってのに。
バッチョ　　デカイ魚が打ち上がってるぞ。
カルバス　　そんなの食ったら腹を壊すぞ。
バッチョ　　もったいないなぁ。
カルバス　　（海を見る）どれだ？
バッチョ　　興味あんのか？
カルバス　　もちろん。食べたいからじゃないぞ。お前と一緒にするなよ。で、どれだ？
バッチョ　　あそこだ。あの大岩のところから１０歩くらい歩いたところだ。
カルバス　　大岩から１０歩？　どっちに？
バッチョ　　右に決まってんだろ。
カルバス　　決まってはないだろ。小さな魚しか見えないぞ？
バッチョ　　もっと右だ。
カルバス　　おい、ところで誰の１０歩だ？
バッチョ　　もう、そんなことはどうでもいいんだよ。

　　　ジョーイが戻ってくる。

ジョーイ　　何をしてるんだ？　お前たち。
カルバス　　こいつがデカイ魚が転がってるって言うんで……。
ジョーイ　　デカイ魚？　どこだ？
バッチョ　　へい。あの大岩のところから１０歩くらい歩いたところです。
カルバス　　だから、誰の１０歩だよ。
バッチョ　　関係ないだろ。
ジョーイ　　あれは、人じゃないか？
バッチョ　　え？
カルバス　　え？
ジョーイ　　人だ。頭のほうを見てみろ。確かに人間だ。行くぞ。
カルバス　　死体なんか見たくないなぁ。
バッチョ　　確かに。
ジョーイ　　早くしろ！
バッチョ　　はい！
カルバス　　はい！

　　　下手に入る三人。波の音が聞こえる。