7人の大人~たとえばこんな白雪姫~

大秦頼太

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第四場

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●第四場
   夜明けの道。暗転幕があればその前。
   A、C、F下手から歩いてくる。

A  しかし、これと言った情報はなかったな。
C  こういうのなんて言うんだっけ? くびれがどうのって。
F  くたびれ儲けだろ?
A  何だよくびれって。
C  くびれも知らないのかよ。くびれって言うのは。
A  骨折り損のくたびれ儲けか。
C  ああ、それそれ。
F  で、あの子どうする?
C  人買いに売れば酒代くらいにはなるんじゃないか?
A  んー。そうだなぁ。

   3人の目の前にフードを深くかぶった老婆が上手より1人やってくる。

C  誰か来る。
F  おばあさんかな?
C  あんまり、金目のものは持ってなさそうだが、どうする?
F  どうする?
A  1、2、3で襲い掛かるぞ。ふんじばってから財布を調べりゃいい。
CF おう。

   老婆、立ち止まる。

A  1、2の3!

   飛び出す3人。

老婆 4!
A  5。
C  6。
F  7。
老婆 お前たちだね? 町で噂話を聞き集めていたのは……。
A  何のことだか。
F  そうだよ。
C  おい。
老婆 そうだと思ったよ。
A  まぁ、仮にそうだとして、何の用だ?
老婆 お前たちに頼みたいことがあるのさ。
C  頼みたいこと?
A  お断りだね。
F  怪しい話には気をつけろって言われてるからな。
老婆 成功したら、金貨10枚やろう。
A  やろう。
C  何でも言ってくれ。
F  肩でももんじゃおうかな。
老婆 詳しいことは、この手紙を見るんだね。

   老婆、手紙をAに渡す。そのままそそくさと去っていく。

A  おい、待てよ。

   と言いつつ手紙を開く。C、F寄ってきて覗き込む。

C  なんて書いてあるんだ?
F  早く聞かせてくれよ。
A  なんてこった。
C  もったいぶるなよ。
F  教えてくれよ。
A  ……俺は字がよめねえんだ。

   暗転。
   暗転幕上がり森の中の山小屋に朝が来る。
   小屋の中は、きれいに片付けられている。
   Aがドタドタと入ってくる。

A  戻ったぞ。

   片付けられた室内を見て、驚く。

A  大変だ! 泥棒だ!

   奥から飛び出してくる一同。

B  泥棒だ!
C  こりゃ一体なんだ。
D  どこだ泥棒は!
E  何をとられた?
F  うわぁ、きれい。
G  泥棒って?
姫  朝からうるさいわね。
A  何でこいつが自由にしているんだ?
姫  この人たち、私の家来になったのよ。
A  何だと?
B  あのね、魚の美味しい食べ方を教えてくれたんだよ。
C  嘘。
D  まぁ、家来は少しの間だけな。
E  そうそう。
F  楽しそう。
G  名前を貰ったしね。
A  名前?
G  俺はジョージ。
B  僕はヘンリー。
D  スチュワート。
E  エドガーだ。
F  おお、いいなぁ。
姫  あなたたちにも用意してるのよ。
F  俺には?
姫  あなた何番目に入ってきたの?
F  最後。
姫  じゃあ、ロバートね。その前は誰?
C  ん? 俺だ。
姫  じゃあ、あなたがハロルドで、(Aに)あなたはリチャード。
D  おめでとう。ロバート。
F  ありがとう。スチュワート?
G  みんなに名前がついた!
B  これで喧嘩がひとつ減ったね。

   はしゃぎまわる一同。Aが怒鳴る。

A  ばかやろう!

   静まり返る。

A  大の大人が名前を貰ったくらいで、何を喜んでいるんだ。大体こいつは人質だぞ? 
  お遊びもいい加減にしろってんだ。
姫  残念だけど、それは昨日までの話よ。
A  何?
姫  こっち側は私を入れて5人。あなたたちは3人しかいないじゃない。
A  何をバカな。おい、そいつをふんじばれ。
C  おう。

   C、姫を捕らえようとするが、B、D、E、Gに阻まれる。

C  何だよ。
D  悪いな。
E  一晩寝たら、名前があるのも悪くないかなって。
D  な。
E  おう。
F  何の関係があるの?
B  家来を辞めるってことは、名前を取り上げられるってことさ。
A  ばかばかしい。そんなに名前が欲しいなら、俺がつけてやる。
他6 おお!
B  僕は?
A  食いしん坊。
C  俺は?
A  卑怯者。
D  俺には?
A  こうもり。
E  俺は?
A  優柔不断。
F  じゃあじゃあ、俺には?
A  すっとこどっこい。
G  俺は何?
A  お人よし。
姫  じゃあ、自分はなんて名前なの?
A  俺か? 俺は、決断力があってとても優しい頼りがいのあるボスだ。
B  長い名前。覚えられない。
C  センスないね。
D  まったくだね。
E  自分勝手だな。
F  俺もそっちに行く。
G  おいでおいで。

   2対6になる。こっそりと姫たちのほうに行こうとするC。

A  貴様、どこに行く。
C  (ぎくり)向こうに忘れ物が……。
A  俺を一人にすると、後でひどい目に合わすからな。
C  ず、ずるい。
姫  誰が、決断力があってとても優しい頼りがいのあるボスなのかしら?
B  そうだそうだ。
A  お前ら、本当にいいのか?
F  何が?
G  別にリチャードがいなくても困らないしなぁ。
A  リチャードって呼ぶな!
C  じゃあなんて呼べばいいんだよ。
A  決断力があってとても優しい頼りがいのあるボス。
B  無理。長い名前は覚えられない。
D  めんどくさいし。
E  今新しい名前が出てきて、ごちゃごちゃになってるしね。
A  じゃあ、ボスでどうだ?
一同 え~~!
F  ボスってリーダーみたいなことでしょ?
G  そうなるな。
F  ここは公正に決めるべきだよ。
C  公正にだって? 俺たちには不似合いの言葉だ。
B  ご飯の早食いで決めよう。
E  いやいや、賭けで決めよう。
F  待って、さっき手紙を貰ったんだけどさ。
A  ああ、あれか。
G  手紙? 誰から?
C  ばあさんだ。
E  ばあさんからラブレターもらったのか?
D  で、何だって?。
F  それがリチャードもハロルドも読めなくてさ。
E  ハロルドって誰だっけ?
C  俺、俺。俺、ハロルド。
A  俺に読めない物が、こいつらに読めるわけないだろうが。
G  まあ、そうなるな。
姫  ちょっと貸しなさいよ。
A  お前みたいな子どもに分かるわけないだろうが。
C  引っ込んでな。
B  ご飯の支度でもしようか。
F  この子がお姫様なら、読めると思うんだけど、どうかな?
一同 それはもっともだ。
A  よし読んでみろ。
C  大きな声でな。
姫  いいわよ。

   姫、Aから手紙をひったくるように奪う。

姫  森に迷い込んだ小娘を見つけたら、ころ……
E  ころ?
B  顔色が悪いけど大丈夫?
F  続きはなんて書いてあるの?
姫  ……殺されないように、守ってやること。
A  何?
C  お前を守れって?
姫  ……そうみたいね。
E  本当か?
A  ちょっと貸してみろ。

   姫から手紙を奪い取ると、じっと眺める。しかし字が読めないので、どうにもなら
   ない。

A  ふむう。
姫  それから、手紙は読んだら燃やすようにって書いてあるわ。
C  森に迷い込んだ娘って、これのことかな?
E  どういうこと?
C  娘って言うより、子どもだからな。
姫  何よこの!

   姫、Cのすねを蹴り上げる。

C  やりやがったな!

   C、姫を捕まえる。

姫  お前たち助けなさい!

   A以外、Cを取り押さえる。

C  何なんだよ。
D  いや、なんとなく。
E  そう、なんとなく。
C  なんとなくって何だよ。
B  なんとなくは、なんとなくだよ。
F  それよりお腹空いたよ。
A  まて! 誰がリーダーか決めるのが先だ!
姫  確かにお腹が空いたわね。ご飯にしましょう!
他6 ご飯ご飯!
A  おい、こら!
B  どうしよう、何もないよ!
姫  あんたたち本当にどうしようもないのね。
F  だって、ねぇ。
E  (Bに)こいつが食べすぎなんだよ。
B  だって残したらもったいないじゃん。
G  お前が狩りに行って来い!
D  それが良い!
C  獲れるまで帰ってくるなよ。
B  そんな、飢え死にしちゃうよ。
A  早速、リーダーの出番のようだな。
姫  あんたたち! そんなつまらない言い合いしてないで、みんなで何か探しにいくわ
  よ!
7人 えー!
姫  大の大人が、こんなに沢山いて喧嘩するしかできないの?
D  だって、
E  ねぇ?
F  なぁ?
G  うん。
C  おう。
B  お腹空いた。
A  なんでお前が仕切るんだよ!
姫  もう、本当にうるさいのね。
A  お前もな!
姫  じゃあ、二手に分かれて食べ物を探しにいきましょう。
A  だから、何でお前が仕切るんだ!
C  お前、誰かに狙われてるんじゃないのか?
姫  それを守るのがあなたたちの仕事でしょう。
G  まかせときな。
D  ジョージがやるってさ。
A  任せた。
C  頼んだよ。
E  じゃあ、安心だね。
F  よかったよかった。
B  お腹空いたよ。
姫  行くわよ。

   姫真っ先に外に出て行く。それに続いていく大人たち。最後にA。ため息をつきつ
   つ外に出る。

   暗転。
   暗転幕前。
   森の中。上手より。ACDEFがやってくる。

E  何かいるかなぁ
F  肉が食いたいな
A  おい。このままじゃやばいぞ
C  何が?
F  どうした?
A  あの小屋は誰のもんだ?
F  俺たちのもんだろ?
C  俺たちのもんだよ?
A  そうだ。だがな、あの小娘のせいで俺たちはないがしろになっている。
F  ないがしろ。
C  ないがしろ。
A  そうだ。
D  何が白?
E  何かいたの?
A  うるさい。こっちにこい。

   CDEF寄る。

A  ここで主導権を取り返すには、強引な手段が必要だ。
F  どんな?
A  あいつを殺す。
D  ひでえ。
F  なんてことを!
E  ろくでなし。
C  いくらなんでもそれは可愛そうだろ。
A  そうだ。だが、俺たちも譲れないんだ。
E  だからってあんな小さい子を殺すなんてひどすぎる。
C  いくら生意気で。
F  口うるさくて、
D  面倒くさくても、
E  殺すなんてひどすぎる。
A  俺もそう思う。だからな、本当に殺すんじゃなくて死んだことにするんだ。
F  はい?
D  言ってる意味が分からん。
A  あいつが死んだことにすれば、あいつが命を狙われることはなくなるわけだ。そう
  すればここにいる理由もない。
E  おお、なるほど。
C  でも、金貨がもらえなくなるぞ。あの子が死んだら守れなかったってことじゃない
  か。
A  それはもうこの際、あきらめよう。俺たちの暮らしを取り戻そう。あいつが来てか
  ら何もかもがめちゃくちゃだ。
D  なるほど。
F  でも、追い出すのもかわいそうだな。
A  いいか、このままじゃ、好き放題出来なくなるぞ。何もかもあいつに仕切られて
  な! お前たちは、それでいいのか?
E  俺は別にかまわないけど。
A  昼まで寝てられなくなるんだぞ!
C  それは困るな。
A  盗みだって、(姫のまねをする)それは悪いことよ! なんて言い出しかねない。
  それでもいいのか?
F  おう。それはつまらない。
A  酒も毎日飲めなくなるかもしれない!
D  冗談じゃない!
A  今こそ、追い出そう!
C  よし追い出そう!
D  追い出そう!
E  追い出そう!
F  追い出そう!
A  で、相談だ。どうやって追い出そうか?
C  どうやる?
D  どうする?
E  お前考えて。
F  俺わかんね。やっぱりお前考えて。
A  もっとしっかり考えろ。どいつもこいつも使えないな。
他4 お前もな。
A  とにかく何かいい方法はないものか。

   下手から狩人がやってくる。

狩人 おい。お前たち。
5人 ああん?
狩人  (びびる)あ、ちょっとお聞きしてもよろしいですか?
A  なんだ?
C  道なら自分で見つけろ。
E  この森の肉は俺たちのだからな。ウサギ一匹盗むんじゃねえぞ!
狩人 いえいえ、ここに小さな女の子が来なかったですか?
A  小さな女の子?
C  あの子のことか?
E  あの子を探してるのか?
F  あーーー!

   あまりの声の大きさにみんな驚く。

A  うるせえな!
F  あいつ殺し屋じゃない?
D  何?
狩人 何をコソコソ話しているんですか?
E  うるせえ、何でもねぇ!
C  黙ってそっちの隅で待ってろ!
狩人 はい。

   狩人、下手寄りにすごすごと歩いていく。

A  ひらめいた!
C  何!
D  どうした?
E  お?
F  何々?
狩人 どうしました?(近づいていく)
5人 お前は引っ込んでろ!
狩人 すみません。(すごすごと戻る)
A  あいつを捕まえて身ぐるみをはぐ。
C  ほおほお。
E  それで?
A  あいつが殺し屋なら、雇い主がいるよな?
F  いるだろうな。
D  そんなの当たり前だろ。
A  まぁ、最後まで聞け。そうして、あいつの代わりに報告に行くんだ。そうすると、
  報酬がもらえて、しかも……。
C  うるさいのも追い出せる。
E  さえてる!
F  さすがリーダー!
A  もっと言ってくれ。
D  リーダーかっこいい。
C  リーダー頭いい!
E  こんなにいいリーダーを持って俺たちは幸せだ。
A  いやいや、そんなに褒めるなよ。
C  じゃあ、早くしろこのグズ。
D  お前が言い出したんだからお前が行けろくでなし。
E  ほれほれ捕まえてこい。
F  グズグズしやがってまったく使えねえな。
A  褒めるなとは言ったが、けなせとは言ってない。
C  で、まずどうするの?
A  どうするもこうするもふんじばって、身包み剥いで熊か狼のえさだな。
D  分かりやすい。
E  本当だ。
F  じゃ。
C  早速、
A  はじめますか。

   狩人、寒気を感じる。

5人 おい。
狩人 はい。
A  ちょっとこっちに来い。
狩人 はい?
C  いいからいいから。

   真ん中に狩人。取り囲む大人たち。その顔は不気味なほど微笑んでいる。

5人 せーの!

   狩人に飛び掛る大人たち。
   暗転。

狩人 やめてぇ~!!!

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