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呪われた子 30
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白い室内。白い机と白い椅子。セヴルとバリュフが腰掛け、グロウはそわそわしていた。
「この部屋、気持ちが悪いよ」
「静かにしてなさい」
「だってぇ」
「静かにしないなら、今日のご飯は野菜のみですよ」
「ひどいー。肉を買って帰るって言ったじゃんか~。肉、肉~、お肉~」
バリュフにすがりつくグロウ。それを見てセヴルが笑う。バリュフが、セヴルの肩を叩く。その手には布が巻かれていた。
「あれって、なんだったんだろう」
「光の剣か」
「……はい」
「呪いなら、ここで解いてくれるんじゃないかな?」
「そっか」
「そうしたら、普通に暮らせるよ」
「はい」
「えー、もったいないよ。見世物にすればお金になるよ」
バリュフは、グロウの口をつまむ。
「一人、知ってそうな奴がいるけど」
「え?」
「興味、出ちゃったかな?」
にやりと笑うバリュフの手をグロウが振り払って、部屋の中を駆け回る。
「先生、見て、見て。壁が光ってる」
「あんまりはしゃいで怪我するなよ」
「蟲使いって、なんだったんですか?」
「そのものさ。もともとサイロー師は、蟲を無力化する研究をしていた。草を食べても、大地を腐らせることがないようにね。だが、白の信徒に娘を殺されて、師は正気を失い閉じ篭るようになった。人を避けるようになり四年前に町から姿を消したそうだ。私も師と向き合うのが怖くて逃げていたんだな。そのすぐ後、蟲は草よりも人を食べるようになっていた」
「ってことは、蟲はもう草しか食べない?」
「次の蟲使いが出てこない限りはね」
「次?」
入り口が開き、聖導師パとガリウスが入ってくる。セヴルとバリュフが席から立つ。グロウが聖導師パにぶつかりそうになるところをガリウスが受け止める。
「ほほほほ。そのままでよいぞ」
セヴルたちは席につく。
「ほほほほ。報告は聞いた。セヴル、よくやってくれた。それと、殺人の件は、放免になった。もっとも、そっちの件はそちらの法師のおかげか」
バリュフは胸の前に手を当てる。
「ほほほほ。久しぶりですね。まさか彼が蟲使いだなんて思いませんでしたよ」
「ご迷惑をおかけしました」
「ほほほほ。あなたには、重荷を背負わせてしまった」
「大した重さじゃないですよ」
「どうです? またここで共に過ごしませんか?」
「離れてわかることもあるんです。それにここは窮屈すぎる。御挨拶も済んだので、早々に失礼させていただきます。私、今は魔術師ですから」
立ち上がるバリュフ。グロウの手を引いて部屋を出て行く。しかし、すぐに顔を出す。
「セヴル。いろいろ知りたくなったら、またうちにおいで」
「またねー」
グロウが手を振る。そして、二人は去っていった。セヴルは机の上に視線を落とす。
「ほほほほ。君はどうする? 今回のことで、君を白の信徒に招くことも出来るが……」
セヴルは、首を横に振る。
「とんでもない。俺、こんな白いところにずっといるなんて、本当に無理」
「ほほほほ。慣れれば、心が穏やかになるぞ?」
「じゃあ、どうするの? あ、すみません」
身を乗り出したガリウス。口を押さえて席に座る。
「ほほほほ。当てが外れたなガリウス。まぁ、友はどこにいても友だ。快く見送ってあげなさい」
「はい」
ガリウスのしっかりとした返事に、セヴルは顔を上げた。
「旅をするよ」
「ほほほほ。旅とな?」
「この世界が、箱の中だなんて嘘を、俺が暴いてやる」
ガリウスが慌ててセヴルの口から出た言葉を消そうと両手を振った。
「セヴル! そんなこと言ったら、監獄に送られちゃうよ」
「ほほほほ。今のは聴かなかったことにしてやろう。……そうじゃな、罰金で相殺じゃな。その代わり、褒章は無しじゃ。好きな大地で野垂れ死にするが良かろう」
にやりと笑った聖導師パ。両手で頭を抱えるセヴル。
「うわ」
「ほほほほ。思慮深く、大胆であれよ。若者」
「はい!」
白い建物から出ると、太陽の光が強くなる頃だった。
「まずは、石の大地かな。いや、草原の大地を巡ってみよう」
セヴルは布で右腕を吊った。その背中を誰かが蹴った。セヴルは、前にのめって倒れこむ。
「あたしに挨拶に来ないなんて、どういうこと?」
「こうなるから嫌だったんだよ」
振り返れば、サアラがしっかりと両足で仁王立ちしている。
「良かったね」
「ま、傷は残ってるけどね。蟲殺しの勇者様を助けた傷なら、誇り高いってもんよ」
「ありがとう」
「当然よ。で、これからどうするの?」
「草原の大地をくまなく回ってみるつもり」
「そっか、行くのか。……あたしがいなくても、寂しがるなよ!」
サアラがセヴルの肩を何度も叩く。
「大丈夫だって。でも、蟲殺しの勇者って言うネーミングのセンスはどうかと思うよね」
「人が一生懸命考えたのに、ケチつけるならお前が考えろー!」
白の広場に響く連続蹴りの音が、昼を過ぎてもやまなかったため、セヴルの旅立ちは、次の日に持ち越しになった。
ある白の信徒の手記に、この日のことを「赤い惨劇」と記されたことを二人は知らない。
世界は、四角い箱の中にある。
一つは、草原の大地。
一つは、石の大地。
一つは、火の大地。
一つは、水の大地。
四つの大地の北に、光の大地。
四つの大地の南に、闇の大地。
箱が開かれることはない。
そこに、神がいないのだから……。
完
白い室内。白い机と白い椅子。セヴルとバリュフが腰掛け、グロウはそわそわしていた。
「この部屋、気持ちが悪いよ」
「静かにしてなさい」
「だってぇ」
「静かにしないなら、今日のご飯は野菜のみですよ」
「ひどいー。肉を買って帰るって言ったじゃんか~。肉、肉~、お肉~」
バリュフにすがりつくグロウ。それを見てセヴルが笑う。バリュフが、セヴルの肩を叩く。その手には布が巻かれていた。
「あれって、なんだったんだろう」
「光の剣か」
「……はい」
「呪いなら、ここで解いてくれるんじゃないかな?」
「そっか」
「そうしたら、普通に暮らせるよ」
「はい」
「えー、もったいないよ。見世物にすればお金になるよ」
バリュフは、グロウの口をつまむ。
「一人、知ってそうな奴がいるけど」
「え?」
「興味、出ちゃったかな?」
にやりと笑うバリュフの手をグロウが振り払って、部屋の中を駆け回る。
「先生、見て、見て。壁が光ってる」
「あんまりはしゃいで怪我するなよ」
「蟲使いって、なんだったんですか?」
「そのものさ。もともとサイロー師は、蟲を無力化する研究をしていた。草を食べても、大地を腐らせることがないようにね。だが、白の信徒に娘を殺されて、師は正気を失い閉じ篭るようになった。人を避けるようになり四年前に町から姿を消したそうだ。私も師と向き合うのが怖くて逃げていたんだな。そのすぐ後、蟲は草よりも人を食べるようになっていた」
「ってことは、蟲はもう草しか食べない?」
「次の蟲使いが出てこない限りはね」
「次?」
入り口が開き、聖導師パとガリウスが入ってくる。セヴルとバリュフが席から立つ。グロウが聖導師パにぶつかりそうになるところをガリウスが受け止める。
「ほほほほ。そのままでよいぞ」
セヴルたちは席につく。
「ほほほほ。報告は聞いた。セヴル、よくやってくれた。それと、殺人の件は、放免になった。もっとも、そっちの件はそちらの法師のおかげか」
バリュフは胸の前に手を当てる。
「ほほほほ。久しぶりですね。まさか彼が蟲使いだなんて思いませんでしたよ」
「ご迷惑をおかけしました」
「ほほほほ。あなたには、重荷を背負わせてしまった」
「大した重さじゃないですよ」
「どうです? またここで共に過ごしませんか?」
「離れてわかることもあるんです。それにここは窮屈すぎる。御挨拶も済んだので、早々に失礼させていただきます。私、今は魔術師ですから」
立ち上がるバリュフ。グロウの手を引いて部屋を出て行く。しかし、すぐに顔を出す。
「セヴル。いろいろ知りたくなったら、またうちにおいで」
「またねー」
グロウが手を振る。そして、二人は去っていった。セヴルは机の上に視線を落とす。
「ほほほほ。君はどうする? 今回のことで、君を白の信徒に招くことも出来るが……」
セヴルは、首を横に振る。
「とんでもない。俺、こんな白いところにずっといるなんて、本当に無理」
「ほほほほ。慣れれば、心が穏やかになるぞ?」
「じゃあ、どうするの? あ、すみません」
身を乗り出したガリウス。口を押さえて席に座る。
「ほほほほ。当てが外れたなガリウス。まぁ、友はどこにいても友だ。快く見送ってあげなさい」
「はい」
ガリウスのしっかりとした返事に、セヴルは顔を上げた。
「旅をするよ」
「ほほほほ。旅とな?」
「この世界が、箱の中だなんて嘘を、俺が暴いてやる」
ガリウスが慌ててセヴルの口から出た言葉を消そうと両手を振った。
「セヴル! そんなこと言ったら、監獄に送られちゃうよ」
「ほほほほ。今のは聴かなかったことにしてやろう。……そうじゃな、罰金で相殺じゃな。その代わり、褒章は無しじゃ。好きな大地で野垂れ死にするが良かろう」
にやりと笑った聖導師パ。両手で頭を抱えるセヴル。
「うわ」
「ほほほほ。思慮深く、大胆であれよ。若者」
「はい!」
白い建物から出ると、太陽の光が強くなる頃だった。
「まずは、石の大地かな。いや、草原の大地を巡ってみよう」
セヴルは布で右腕を吊った。その背中を誰かが蹴った。セヴルは、前にのめって倒れこむ。
「あたしに挨拶に来ないなんて、どういうこと?」
「こうなるから嫌だったんだよ」
振り返れば、サアラがしっかりと両足で仁王立ちしている。
「良かったね」
「ま、傷は残ってるけどね。蟲殺しの勇者様を助けた傷なら、誇り高いってもんよ」
「ありがとう」
「当然よ。で、これからどうするの?」
「草原の大地をくまなく回ってみるつもり」
「そっか、行くのか。……あたしがいなくても、寂しがるなよ!」
サアラがセヴルの肩を何度も叩く。
「大丈夫だって。でも、蟲殺しの勇者って言うネーミングのセンスはどうかと思うよね」
「人が一生懸命考えたのに、ケチつけるならお前が考えろー!」
白の広場に響く連続蹴りの音が、昼を過ぎてもやまなかったため、セヴルの旅立ちは、次の日に持ち越しになった。
ある白の信徒の手記に、この日のことを「赤い惨劇」と記されたことを二人は知らない。
世界は、四角い箱の中にある。
一つは、草原の大地。
一つは、石の大地。
一つは、火の大地。
一つは、水の大地。
四つの大地の北に、光の大地。
四つの大地の南に、闇の大地。
箱が開かれることはない。
そこに、神がいないのだから……。
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