汀(みぎわ)

大秦頼太

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汀25

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汀25

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「ダメだ助からない」
 診療所の処置室の中で新谷吉十郎は動かなくなった野際律子を見下ろしているだけだった。
「お腹の子は……」
 誰かが言った。それで新谷吉十郎は我に返る。
「そうだ。せめて子どもだけは……」
 律子の着物を広げてむき出しになった腹に聴診器を当てるが、新谷吉十郎の顔は青ざめたままだった。
「どうしてこんなことに」
 新谷吉十郎は産婆の手配を頼むと律子の腹を開くことを決めた。
 しばらく後に産婆が到着すると新谷吉十郎は首を横に降った。産婆が赤子を見るがやはりダメなようで子どもも助からなかった。波が引くように人が消えていく。残されるのは野際律子とその子どもの亡骸と力なく立ち尽くす新谷吉十郎。あとは空気に溶け声だけになってしまった。
「田沼の家に葬式を頼まにゃならんな」
 声が葬式の手配を頼むと他の声も消えていき、そこには母子の遺体と新谷吉十郎、そして私が残された。
「こんなこと許されちゃいけない。なんでこんなことが……」
 新谷吉十郎は周囲の物に当たりながら泣き叫ぶ。膝から崩れ落ち床を叩く。まるで側に誰もいないかのように激しく慟哭し感情を開放していった。
 すると急に静かになった。
「許されないことだ」
 ふらりと立ち上がった新谷吉十郎は処置室の中の小さな鍵のついた棚を開き、そこからガラスの容器を取り出すと野球ボール大の黒い塊を取り出した。
 新谷吉十郎は刃物で黒い塊を小指大の大きさに削って律子の口に入れる。反応がないと見るや取り出し今度は赤子にと、手元が狂い律子の血溜まりの中に欠片が落ちる。新谷はすぐにそこに手を入れて欠片を拾い上げると律子の血を拭いもせずに赤子の口の中へ突き入れた。
 少しの時間。少しの静けさ。新谷吉十郎は自嘲気味に笑った。
「馬鹿げてる。どうかしていた」
 再びの絶望がやってくる刹那、赤子が息を吹き返した。新谷吉十郎は赤子の口の中から塊を取り出そうとするがすでに欠片はなく、赤子は声もなく泣くのだった。新谷吉十郎は黒い塊を血の溜まる野際律子の腹へ放り込んだ。そして、それを見守るもなんの変化がないと知るとがっくりと首を落とした。
 不思議に思うことがある。
「これは誰の記憶なんだ?」
 祖母の記憶? いや、祖母は死んでいた。いや、死んでいるように見えただけなのか。
「記憶が魂を閉じ込めるなら、魂にも記憶があるのでしょう」
 律子の声がした。その律子の声に気が付きもせずに新谷吉十郎は赤子を抱いてどこかへ行ってしまった。




 律子の亡骸が上体を起こしこちらを向いた。黒い塊は律子の中で癒着を起こしていた。
「こんな姿でお話するなんてはしたないとお思いでしょうね」
 はっきりと律子はこちらを見ている。
「たしか英二さんとおっしゃいましたね。ここは私の中ですから、お汀さんはここには来ることが出来ません。安心していいですよ。少しお話をしましょうか」
「ど、どういうことなんですか? 記憶が、少なくとも誰も記憶できなかった時間があるはず。こ、これは千景お婆ちゃんの記憶ですか?」
 律子は前を直し、開いた腹を隠した。
「落ち着いてください。どう説明したらいいのかしら、さっきの黒い欠片が私の血を吸ったのを見ましたか?」
 小刻みに頷く。
「私の血を吸ったので死んだ赤子に魂が戻りました。仕組みはわかりませんが、そういうことのようです。これは私の記憶です。死んで後も少しの時間は見たり聞いたり出来るものなのですね」
「あなたはなぜ生き返らなかったんですか? あなたのお腹にだって黒い塊が……」
「わからない。血が足りなかったのかも」
「その黒い塊は一体何なんですか?」
 律子は悲しそうに微笑んだ。
「わかりません。でも簡単に言うなら人の魂です。とても多くの人の」
「魂? でも、あれどう見ても物体でしたけど?」
「これ自体ではもう何をどうすることも出来ない無力なものの集まりなのです。そのはずでした。でも、源次郎さんは怒りと憎しみのあまりにこれを禍々しい物へと変えてしまった。私はこの塊の中でそれを見ていた。私達の魂が呪われた物に変わっていくのを」
「田沼源次郎の呪い」
「はい。あの人はお汀さんを心の底から憎しみ抜き、お汀さんを何度も殺そうと思いましたが、死なすだけではそれが罪からの開放というか救いになってしまうと思っているようでした。殺したい気持ちと死なせずに苦しめたいという2つの想いの力が念となり強い呪いを生んだのです」
「それがあの女を探すと殺されることに繋がるんですか?」
 律子は頷いた。
「人がお汀さんを探そうとするのは怖いからです。どこかで恐れているから、いないと信じて探し出そうとするんです。お汀さんは自分を探す者のその気配を察して、その体の乗っ取りをするために殺そうとします」
「でも、みんな巻き込まれて死んでいるはず」
「はい。巻き込まれて死者が出るというのは、おそらく乗っ取るために使う魂の数が足りないからなのでしょう。お汀さんに恐怖した魂は容易に抵抗できなくなり奪われ彼女の力に変わるのです」
「俺を乗っ取れないのは魂が足りないから?」
「それもありますが、あなたにも娘が取り込んだ黒い欠片が入り込んでいて魂が濃いからなのだと思います」
「魂が濃い。……もしかして千景お婆ちゃんの能力って黒い欠片の力なんですか?」
「それはわからないわ」
「どうすればあの女を消すことが出来ますか?」
 律子は目をつぶって息を深く吸い込んだ。
「私は偽りのない大きな愛で包むしか無いと考えていました」
「考えていた?」
「はい。憎むべき私がお汀さんに殺され続ければいずれは気がついてくれると思っていたけど、お汀さんは気が付きもしないし飽きもしないし、私を殺すことでもっと憎しみは強くなってしまうし……」
「あなたにもわからないのですね」
「そうです。お汀さんは暴力を受けて逃げてきた過去があるから、愛が必要なのかと思っていたのだけれど、そんな単純な話ではなかった。お汀さんもまた好きだった人に殺されて魂の形が変わってしまったのかもしれない」
 突破口が見つかったと思ったところからの行き止まり。目の前にいる律子もまたあの女の記憶の中でこの呪いを解こうとしていたのだろう。そして、繰り返し続け、その無意味さを知った。
「待てよ。……もしあの女の心を折ることが出来たらどうなりますか?」
 殺される側の律子と力を合わせれば、もう二度とあの女の記憶の中で負けることはないように思えた。そうなればあの女も諦めざる負えないのではないだろうか。
「お汀さんに心が残っているのかしら」
 その律子の顔はとても冷たい表情だった。たしかにそうだ。あの女の中に人の心が残っているのだとしたら、もうとっくの昔に成仏をしているはずだろう。それが出来ずにこの現世の人たちに障るのは悪霊に成り下がってしまったからに違いない。
「あの女の死に巻き込まれた人たちもたくさん見ました。みんな苦しんでいました」
「魂をお汀さんに奪われたのね。かわいそうに」
 みんなあの女に苦しめられている。あの女をどうにかすればみんなの魂も開放されるのだろうか。屈服させられ奪われたみんなの魂。どうしたら救えるのか。ルールのようなものがここにもあるのか。儀式が必要なのか。犠牲がいるのか。勝つことは出来るのか。勝つとはなにか。
 ふと思いついたことがある。
「どうでしょうか」
 尋ねてみた声に律子が顔を向ける。
「あの女の巻き添えになった人たちを一人ずつ開放していったらあの女の力が弱まりませんか?」
「そんなこと出来るのかしら?」
「私一人ではわかりませんけど、あなたがいればなんとかなるかも。やって見る価値はあると思います」
 律子は小さく頷いた。
「わかりました。私も出来る限り力をお貸しします」




「ありがとうございました」
 大山サチコが千景に頭を下げる。
「本当にいいの? せっかく来たのなら体が休まるまでゆっくりしていけばいいのに。会いたいでしょ?」
 千景の問いにサチコは目をそらす。
「会ってしまったらここを離れられなくなりそうだから行きます」
「そう。側にいてあげるだけでもあの子の力になるかもしれないわよ」
 サチコは顔を上げる。もしやる気が顔に書かれるとすればそのおでこには一生懸命と書かれているだろう。
「だからです! だから、私は英二さんの力になるために動きたいんです。今の私じゃ弱いんです。役に立つなにかを持って帰ってきますから」
「あなたの頑固さ嫌いじゃないけど、無茶はしないようにね。それからあなたは駆け引きとか取引が上手くないから絶対にやらないように。覚えておきなさい」
「はい!」
 サチコは千景に背を向けて早坂神社をあとにした。この後の予定はなんとなく決まっている。大島賢の下へ行き新谷何とかさんを探すのである。
「さすがパワースポットね。やる気が漲ったわ」
  ノシノシと参道を下る。あの日の暗い夜、海を見つめながら一人思っていた。動かない波。それでも波音は聞こえ、体よりも心を凍えさせるような風が吹いていた。
 私はいつも間違えている。自分の意志で決断してより良い道を選んだはずなのに、何故か歩き始める道は今までの道よりも険しいだけで何も与えてはくれなかった。失敗する方を選ぶ癖があるからとわざと失敗する方を選んでも実りある道にはやはりつながっていなかった。
 人は後悔ばかりを抱えて生きていくように作られているのかもしれない。こっちの道じゃなければもっと成功していたかもしれない。そう思うように出来ているのだ。現実にはどっちの道を選んでもツラく険しいもので大した違いはないのだ。だって、
「だって、あの人は来てくれたもの」
 私の中にあった夜を連れて行ってくれたあの人。
「今度は私が」
 あの人の夜を持っていくのだ。いや、二人で夜明けにたどり着くのだ。
 振り返り山を仰ぐ。
 もしあのまま暗い夜に一人きりでいたのなら私は海に身を投げていたかもしれない。そうしたらもう二度とここに来ることは出来なかった。
 私は正しい選択をしたのだ。いつかそう思いたい。生き続けることは辛いけれど、まだまだ困難は続くけど。英二さんを取り返すのだ。




 千景は見下ろす。誰に語るわけでもなく話し始める。
「パワースポットはね、人の気を吸うのよ。そうして空いたところへ自分自身から新しい力が沸き起こり力になるの。神は何も与えてはくれない。ただ奪うだけ。ここが神域なのはここへやってくる人間たちのおかげなのよ」
 振り返ると千景は社の中へ入っていった。




「マジか!」
 また外した。今日は調子が悪い。ここ最近は神がかり的に的中させまくっていて「馬が見える」状態だったが今日はさっぱりだ。掛け金を引き上げたせいでビビったのか。それとも別の問題なのか。
 こんなときは過去の知識や経験が役に立つわけだが、勘に頼りすぎていたために経験も知識も殆どないのが致命的だった。しかし、何頭も買ってかすりもしないなんてことは初めてのことだった。
「大体5頭も選んどけば2頭か3頭は絡んできて買い方の問題になるはずなんだけどな」
 それが一頭も絡まなかった。1レースだけなら別に不思議なことではないが全部で8レースもやってこれでは話にならない。まったくツイてる時にやり方を確立しておくべきだったな。
 そうだ。そういうことだ。ツキがない。落ちている。それがそもそもの原因だ。理論とかデータとかそういうのは二の次でいい。ツキが全てだ。それが俺のやり方だ。
 とりあえずさっさと寝蔵に帰るしか無い。こんなときは悪いことがやってくるからだ。外をウロウロしてるなんて猛獣の檻の中で歩き回るようなもんだ。
 昔住んでいたジジイの家の蔵に忍び込んで金目の物を持ち出し売っぱらって当時の仲間に奢ってやったことがあった。うちは代々医者の家系なんだよと祖父が自慢げに話していたから、それならばと金になりそうなものをいくつかかっぱらった。大した金にならなくてどこもかしこも湿気てるなと思った。たしか5万円くらいだったか、質屋か骨董屋はそのぐらいしかよこさなかった。少ないって言うと「盗品だったら警察に言うぞ」とかなんとか脅かしてきやがって「そんなんじゃねえよ。うちの家宝だ」って言い返したけど、ありゃあ間違いなくバレていただろうな。
 5万円はなにに使ったかはもう忘れちまったけど、その後でこんなツキのない状態がやってきてあっという間に人生真っ逆さまだった。色々わからないようにしておいたのに盗んだのが俺だとバレてジジイの家を追い出された。家族ごと。新しい家に俺の居場所はなかった。小さかった弟たちには何が起こったかわかんなかったかもしれない。まぁ、お前の兄ちゃんは泥棒なんだよと言えるわけもないが。
 数年後に二十歳になったのを機に分籍されて完全に縁を切られたのを知った。冗談じゃねえ、こっちから願い下げだ。清々したよ。もっと金のある家に生まれたかったもんだ。金はなくても金に縁がある家が良かった。
 子どもが親を選べないように親も子どもを選べない。まぁ、最近じゃ障害を持ってるかどうか生まれる前に検査して子どもを選ぶような親もいるようだが、その内、この子どもはとても反抗的に育ちますので生むのはやめたほうがいいですよ。なんていう医者が出てくるかもしれない。
 冗談じゃねえ。人間は人間だ。俺が俺であるように生き方はすでに決まっている。魂がそうであるように誰も自分の魂に嘘をついて生きるなんてことは出来ない。もし仮に魂に嘘をついて生きているやつがいるとすればそいつはとんでもない偽善者だろう。
 人間には4つの魂の箱がある。あると思う。なんでかって言うと、例えば世の中が善悪で出来ているのなら、みんなこの善悪の魂で構成されている。ただ、入れ物が1つで2種類しかない場合、戦いの決着は単純であっという間に着く。だが、この世界を見てみればわかるように世の中はもっと複雑だ。だから魂の入れ物は1つではない。4つくらいが丁度いいのだ。それで、気持ち悪いくらいの善人は4つの箱全てに善の魂が詰まっている。逆にものすごい悪党は4つの箱の中身は全部悪だ。
 だが、完全な善も完全な悪も珍しいものだ。大体みんな中途半端で善悪の数が半分ずつか一つしか持っていなかったりする。俺みたいな中途半端な人間は悪善悪善みたいな感じだろう。だけどよぉ、面白いことに4つの箱の中が悪の魂の方が多いくせに善人のふりをしている奴らもかなりの数いるってことだ。善悪悪悪とか、悪悪悪善のくせに善人を決め込んでいるやつがいるんだ。世の中には。自分の魂に嘘を付く偽善者ってやつだ。
 悪の魂っていうのはその場で善であることが有利だとわかれば善のフリをすることだってあるんだ。善は悪のフリは出来ない。善故に。その点で言えば善は融通がきかない要素でもあるかもしれないな。そうだな。善の魂は超えられない一線を持っている。例えば強盗や殺人を犯す悪の魂を持っていても他の箱に入っている善の魂がこの一線を超えられないとすればそいつは強盗も殺人もしない。ただ、2つ目、3つ目の悪の魂を止められるかは別の話だろうけど。よく心を入れ替えるなんていう言葉があるが、本当に魂を入れ替えない限りその人間の本質が変わるなんてことはないのだろう。

 俺は自慢じゃないが、身内の持ち物を勝手に金に替えたことがあるが他所様の持ち物を奪ったことはない。当然、殺しも暴力もなしだ。暴力反対。中途半端かもしれないが悪善悪善の人間なのでごくごく一般的な人間なのだ。ただ、魂のあり方と幸運、不運はまったく別のものだ。
 何事にも波がある。これだけツキが離れ幸運の波が引いたとなるとこの後には物凄いリターンがあるだろう。こればっかりは仕方がないので寝ながらチャンスを待つしか方法がない。果報は寝て待て、だ。デカイ波を捕まえることができればまたしばらく安心だ。


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