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第一章 片隅に咲いた一輪花
第十一話
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噂の正体である化け物を倒し終わってから二人で家へと帰る途中、私はどう会話を切り出そうかと考えていた。だが、考えても考えても、彼女にかける言葉は出てこなかった。そんな二人の沈黙を破ったのは、コトリのほうだった。
「驚きましたよね、師匠。私が、本当に死神だったこと」
「そうだな。それに、君があれほど魔術を使えることにも驚いたよ」
「隠していてごめんなさい。魔術が使えなかったのは本当で、戦いで使っていたのは、使えなくなってしまう前のものです」
「そうか。でも、なぜ私の家に?」
「それは……」
言葉が出てこなかったコトリは、俯いて黙ってしまった。少しの間、彼女の言葉を待っていると、コトリがゆっくりと口を開いて話し始めた。
「私は家を出てから師匠に拾われるまでの約二年間、様々なことをしてきました。汚れ仕事や危険なこと、大人達にいいように利用されたりもしました。だけど、それしか思いつかなかったんです。私が生き残っていくためには……」
「そうか……」
「一人で過ごすようになってから、師匠が初めてでした。私を道具としてじゃなくて、ちゃんと一人の子供として扱ってくれた人は……」
寂しそうにそう語る彼女をそっと抱き寄せ、優しく頭を撫でる。この子はただ、人のぬくもりが欲しかっただけ。それなのに、私はこの子のことを疑ってしまった。
「悪かったな、コトリ。さあ、家に帰ろう」
「はい……」
彼女に手を差し出し、繋いで二人で家へと帰っていく。伝わってくるこのぬくもりが真実で、それ以外のことは今は重要ではない。コトリが例え、どんな人物であったとしても。
「ただいま」
「ただいまです、師匠」
「おかえり、コトリ。お風呂でも入って、ゆっくりしてくるといい」
「はい、そうします」
化け物の返り血でできた黒い染みが着いた紺色の上着を着たまま、彼女は奥にある浴室へと入っていった。あの上着も後で洗ってあげようと思いながら、私は夕食の準備を始めた。今夜は肌寒いので温かいシチューでも作ってから、食べた終えたら彼女のコートを修繕するとしよう。これからの予定を考えながら夕食の仕度をしながら、彼女が浴室から出てくるのを待った。
「お風呂上がりました」
「さっぱりできたかい? シチューが出来てるから食べようか」
「はい! やったー、シチューだ」
今日の晩御飯を聞いた途端に喜ぶ姿は、料理を作った側としてはとても嬉しいものだ。シチューをお玉で掬って皿に入れ、温めておいたパンを一緒に添える。
「ほら、冷めないうちに食べるといい」
「はい、いただきます」
「いただきます」
シチューにちぎったパンを浸し、ふーっと息を吹き掛けながら食べるコトリ。彼女のその姿を見ながら、向かいに座り一緒に食事を取る。この時間が続けばいいのにと、願っている自分がいる。だが願ったところで私は彼女に置いていかれ、残された長い時間を孤独に生きる存在なのだ。そうだとしても今だけは、そう願ってもいいだろうか。この先のありふれた幸せな時間を。
「美味しいかい?」
「はい! 師匠の作るご飯は、とても美味しいです」
「それはよかったよ」
永遠に続くような私の時間の中で、小さな君に出会えたを感謝しよう。例え周りから忌み嫌われる存在だったとして、私は君と過ごせてとても嬉しいと思っているよコトリ。
「驚きましたよね、師匠。私が、本当に死神だったこと」
「そうだな。それに、君があれほど魔術を使えることにも驚いたよ」
「隠していてごめんなさい。魔術が使えなかったのは本当で、戦いで使っていたのは、使えなくなってしまう前のものです」
「そうか。でも、なぜ私の家に?」
「それは……」
言葉が出てこなかったコトリは、俯いて黙ってしまった。少しの間、彼女の言葉を待っていると、コトリがゆっくりと口を開いて話し始めた。
「私は家を出てから師匠に拾われるまでの約二年間、様々なことをしてきました。汚れ仕事や危険なこと、大人達にいいように利用されたりもしました。だけど、それしか思いつかなかったんです。私が生き残っていくためには……」
「そうか……」
「一人で過ごすようになってから、師匠が初めてでした。私を道具としてじゃなくて、ちゃんと一人の子供として扱ってくれた人は……」
寂しそうにそう語る彼女をそっと抱き寄せ、優しく頭を撫でる。この子はただ、人のぬくもりが欲しかっただけ。それなのに、私はこの子のことを疑ってしまった。
「悪かったな、コトリ。さあ、家に帰ろう」
「はい……」
彼女に手を差し出し、繋いで二人で家へと帰っていく。伝わってくるこのぬくもりが真実で、それ以外のことは今は重要ではない。コトリが例え、どんな人物であったとしても。
「ただいま」
「ただいまです、師匠」
「おかえり、コトリ。お風呂でも入って、ゆっくりしてくるといい」
「はい、そうします」
化け物の返り血でできた黒い染みが着いた紺色の上着を着たまま、彼女は奥にある浴室へと入っていった。あの上着も後で洗ってあげようと思いながら、私は夕食の準備を始めた。今夜は肌寒いので温かいシチューでも作ってから、食べた終えたら彼女のコートを修繕するとしよう。これからの予定を考えながら夕食の仕度をしながら、彼女が浴室から出てくるのを待った。
「お風呂上がりました」
「さっぱりできたかい? シチューが出来てるから食べようか」
「はい! やったー、シチューだ」
今日の晩御飯を聞いた途端に喜ぶ姿は、料理を作った側としてはとても嬉しいものだ。シチューをお玉で掬って皿に入れ、温めておいたパンを一緒に添える。
「ほら、冷めないうちに食べるといい」
「はい、いただきます」
「いただきます」
シチューにちぎったパンを浸し、ふーっと息を吹き掛けながら食べるコトリ。彼女のその姿を見ながら、向かいに座り一緒に食事を取る。この時間が続けばいいのにと、願っている自分がいる。だが願ったところで私は彼女に置いていかれ、残された長い時間を孤独に生きる存在なのだ。そうだとしても今だけは、そう願ってもいいだろうか。この先のありふれた幸せな時間を。
「美味しいかい?」
「はい! 師匠の作るご飯は、とても美味しいです」
「それはよかったよ」
永遠に続くような私の時間の中で、小さな君に出会えたを感謝しよう。例え周りから忌み嫌われる存在だったとして、私は君と過ごせてとても嬉しいと思っているよコトリ。
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