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第二十五話 涙
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私は自分の目から、涙がボロボロこぼれていることに気づかなかった。
多分、恐ろしい思いの連続で、精神状態が普通ではなかったのだろう。嫌なことばかりを考えてしまって、ただひたすら自分を責め続けていた。
抱えた膝の上に頭を乗せて、私は泣いていた。こんな裸同然の格好でめそめそ泣いているバカな女。同情を買おうとしている様に見える?
……どんな風に思われているか分からない。そう思うと怖くてルースのことを見る勇気が持てなかった。
ふわりと、背中に布がかけられた。それは膝を抱える私をまるごと包み込む。恐る恐る顔を上げると、目の前にルースがいて、シャツで私をくるみこんでいた。
「俺の服ですみません。その……アリシアの服を取ろうとしたのですが、上に下着が乗っていたので……」
心底申し訳なさそうな言い方だった。頬を赤く染めて私から視線をそらしている。
「さっきの事は……謝ります。あなたをこんな風に泣かすつもりはなかった。情けないですが、本当に夢の中だと思っていて……その……死んだあとの」
私は最初、ルースが何に謝っているのか分からなかった。涙でベタベタに濡れた顔を上げて、ただ茫然とルースが話しているのを聞いていた。
「死んだらどうなるか知らなかったけど、こんなにも自分の理想が叶うのか、と思って嬉しくて……。それと……女性とその……服を着ずに抱き合うのは初めてだったので、こんなに柔らかくて気持ちいいものなのかと……」
私はもう、完全に、思考が停止していた。ルースは何も言わない私を見て、悲しみを帯びた表情を見せた。そして深く頭を下げる。
「本当に、ごめんなさい。泣かれるどころか、嫌われても、殴られても仕方ないことをしました。すみません」
私の膝に当たっているルースの両手は小さく震えていた。私はほうけてルースの頭のつむじを見ていたけど、ルースは私にキスをしたことと、抱きしめたことを謝っているのだとようやく理解した。
「ル……ルース、わたし……」
ルースははじかれたように顔を上げた。
「わたし……こんな、はしたないことして……あなたをゆっ……ゆうわくしようとしたんじゃな……の」
泣いていたせいで、言葉が上手く出てこない。
「お願い……わたしこそ……きらわないで……」
また涙があふれる。でも今度はルースから目をそらさなかった。今度呆然とするのは、ルースの番だった。私の言ったことをルースもすぐには理解できなかったようで、しばらくしてから、ごくん、とつばを飲み込んだ。
「ええと……怒って泣いているのではないのですか?」
私はふるふると首を横に振った。ルースは明らかに安堵した様子で、身体の力を抜いた。
それから私を包んでいたシャツを離し、両手で私の頬をはさむ。親指で私のほっぺの涙をそっとぬぐった。
「アリシア、あなたは苦しんでいる俺を助けてくれたんです。誘惑しようとしたなんて、一切思っていない。まして、あなたを嫌うなんて──そんなことできるはずがありません!」
きっぱりと強く、ルースが否定してくれる。私は今度こそ安心できた。嬉しさのあまりまた涙が出てしまう。ルースは私の涙をぬぐい、額に優しく口づけした。
「ありがとう、アリシア。あなたは命の恩人です」
「そんな……私だけじゃないわ。パティもカルもプリンも、みんなで協力したの。それに、あの大きな鳥から私を助けてくれたのはルースだもの。私こそお礼を言わなきゃならないわ。それで……ルース、そちらに行ってもいいかしら」
ルースはお尻をずらして隣のスペースを作ってくれた。私は向かい合わせだったルースの隣に移動する。
「動かないでね」
ルースは神妙な顔をして止まった。私はよりルースに近づき、ほっぺたにそっとキスをした。ルースは眉をあげて驚いたように私を見た。そして嬉しそうにほほ笑む。私もルースに笑い返した。
ルースが右手を私の頬につける。指先で撫でるように私の頬をさすった。目は熱っぽく私を見つめている。お互いが引き合うように近づいた。
私の肩から、ルースが掛けてくれたシャツが滑ってずれた。ルースの視線が私の胸元へいく。そしてギョッとした顔をすると、大急ぎで横を向いた。
「ア……アリシア。その恰好は、俺には刺激的過ぎます」
私は自分の胸があらわになっていることに気づいて、慌ててシャツの前を合わせた。
「ご、ごめんなさい。腕を通したつもりになっていて……。私ったら……恥ずかしいわ」
「いえ……大歓迎だし大好物なんですが、いかんせん全く慣れていなくて……あなたに不心得なことをしでかしそうでまずい……う……」
ギュっと目をつむり、歯を食いしばったルースは脚に掛けていたエマージェンシーシートを握りしめた。ルースの腰のあたりのシートが、下から持ち上げられたように盛り上がっている。
なにかしら……。ハッ……まさかアレが例のアームストロング……? なんてこと。あんな大きなものをどうするのかしら。
以前ビニ本のモデルをやってくださったグラドルのお姉さま達から『アリちゃんにはまだ早いけど、その内色々教えてあげるわネ』と言われた時、もっと良く聞いておけば良かったわ。ああ、気になる。
多分、恐ろしい思いの連続で、精神状態が普通ではなかったのだろう。嫌なことばかりを考えてしまって、ただひたすら自分を責め続けていた。
抱えた膝の上に頭を乗せて、私は泣いていた。こんな裸同然の格好でめそめそ泣いているバカな女。同情を買おうとしている様に見える?
……どんな風に思われているか分からない。そう思うと怖くてルースのことを見る勇気が持てなかった。
ふわりと、背中に布がかけられた。それは膝を抱える私をまるごと包み込む。恐る恐る顔を上げると、目の前にルースがいて、シャツで私をくるみこんでいた。
「俺の服ですみません。その……アリシアの服を取ろうとしたのですが、上に下着が乗っていたので……」
心底申し訳なさそうな言い方だった。頬を赤く染めて私から視線をそらしている。
「さっきの事は……謝ります。あなたをこんな風に泣かすつもりはなかった。情けないですが、本当に夢の中だと思っていて……その……死んだあとの」
私は最初、ルースが何に謝っているのか分からなかった。涙でベタベタに濡れた顔を上げて、ただ茫然とルースが話しているのを聞いていた。
「死んだらどうなるか知らなかったけど、こんなにも自分の理想が叶うのか、と思って嬉しくて……。それと……女性とその……服を着ずに抱き合うのは初めてだったので、こんなに柔らかくて気持ちいいものなのかと……」
私はもう、完全に、思考が停止していた。ルースは何も言わない私を見て、悲しみを帯びた表情を見せた。そして深く頭を下げる。
「本当に、ごめんなさい。泣かれるどころか、嫌われても、殴られても仕方ないことをしました。すみません」
私の膝に当たっているルースの両手は小さく震えていた。私はほうけてルースの頭のつむじを見ていたけど、ルースは私にキスをしたことと、抱きしめたことを謝っているのだとようやく理解した。
「ル……ルース、わたし……」
ルースははじかれたように顔を上げた。
「わたし……こんな、はしたないことして……あなたをゆっ……ゆうわくしようとしたんじゃな……の」
泣いていたせいで、言葉が上手く出てこない。
「お願い……わたしこそ……きらわないで……」
また涙があふれる。でも今度はルースから目をそらさなかった。今度呆然とするのは、ルースの番だった。私の言ったことをルースもすぐには理解できなかったようで、しばらくしてから、ごくん、とつばを飲み込んだ。
「ええと……怒って泣いているのではないのですか?」
私はふるふると首を横に振った。ルースは明らかに安堵した様子で、身体の力を抜いた。
それから私を包んでいたシャツを離し、両手で私の頬をはさむ。親指で私のほっぺの涙をそっとぬぐった。
「アリシア、あなたは苦しんでいる俺を助けてくれたんです。誘惑しようとしたなんて、一切思っていない。まして、あなたを嫌うなんて──そんなことできるはずがありません!」
きっぱりと強く、ルースが否定してくれる。私は今度こそ安心できた。嬉しさのあまりまた涙が出てしまう。ルースは私の涙をぬぐい、額に優しく口づけした。
「ありがとう、アリシア。あなたは命の恩人です」
「そんな……私だけじゃないわ。パティもカルもプリンも、みんなで協力したの。それに、あの大きな鳥から私を助けてくれたのはルースだもの。私こそお礼を言わなきゃならないわ。それで……ルース、そちらに行ってもいいかしら」
ルースはお尻をずらして隣のスペースを作ってくれた。私は向かい合わせだったルースの隣に移動する。
「動かないでね」
ルースは神妙な顔をして止まった。私はよりルースに近づき、ほっぺたにそっとキスをした。ルースは眉をあげて驚いたように私を見た。そして嬉しそうにほほ笑む。私もルースに笑い返した。
ルースが右手を私の頬につける。指先で撫でるように私の頬をさすった。目は熱っぽく私を見つめている。お互いが引き合うように近づいた。
私の肩から、ルースが掛けてくれたシャツが滑ってずれた。ルースの視線が私の胸元へいく。そしてギョッとした顔をすると、大急ぎで横を向いた。
「ア……アリシア。その恰好は、俺には刺激的過ぎます」
私は自分の胸があらわになっていることに気づいて、慌ててシャツの前を合わせた。
「ご、ごめんなさい。腕を通したつもりになっていて……。私ったら……恥ずかしいわ」
「いえ……大歓迎だし大好物なんですが、いかんせん全く慣れていなくて……あなたに不心得なことをしでかしそうでまずい……う……」
ギュっと目をつむり、歯を食いしばったルースは脚に掛けていたエマージェンシーシートを握りしめた。ルースの腰のあたりのシートが、下から持ち上げられたように盛り上がっている。
なにかしら……。ハッ……まさかアレが例のアームストロング……? なんてこと。あんな大きなものをどうするのかしら。
以前ビニ本のモデルをやってくださったグラドルのお姉さま達から『アリちゃんにはまだ早いけど、その内色々教えてあげるわネ』と言われた時、もっと良く聞いておけば良かったわ。ああ、気になる。
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