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第二十四話 キス
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「オッケ―。アリシア、頑張ってね。これ水と薬。ここに置いておくわね」
パティは焚火のそばへ戻った。火に枝をくべて炎の勢いがなくならないようにする。本当にパティの存在がありがたい。
私は水筒を手に取った。口に水を含み、ルースへと近づく。私が口をつけてルースは嫌じゃないかしら……。直前になって不安になった。
でもルースが脱水症状になったら大変だし、心を決めなきゃだめよ、アリシア・カリナン。
私は口をルースの口につけた。薄く開いているルースの口の中に、カリナンの聖水を流し込む。ごくん、と喉を鳴らしてルースは水を飲んだ。良かった……と安堵した。
もう一度、口移しでルースに水を飲ませた。また口を離し、今度はパティがくれた薬を口に含む。そこにまた水を流し込んで、自分の口の中を聖水で満たした。
ルースの口に薬と一緒に水を流し込む。上手く喉に薬が流れ込んでくれるといいのだけど……。
ごくん、ごくん、とルースが水を飲み込んだ。多分、薬も一緒に入ったと思う。私はホッとして、口をルースから離そうとした。
でも離せなかった。なぜなら、私の頭の後ろをルースの手が押さえていたから。
「……!」
口を離して上半身を起こそうとしていた私を追いかけるように、ルースは肘をついて身を起こした。大きな手で後頭部を優しくつかまれ、ルースの唇から逃げることができない。
一度離しても角度を変えて、ルースの唇は私の唇をとらえたままだった。そうして何度も角度を変え、ルースは私にくちづけを繰り返す。いつのまにか、ルースに覆いかぶさっていたはずの私が下になっていた。
ルースの両手は、私の頬をつつみこんでいる。唇を離し、またつける合間に「アリシア……」と私の名前をルースが何度も呼ぶ。意識があるのか、完全に起きているのかは分からない。
ルースはずっと目を閉じている。無意識なの……?
くちびるに、頬に、まぶたに、ルースのキスの雨が降る。そうしながらルースは私の身体に腕をまわし、ギュッと抱きしめた。何もつけていない胸が重なり合う。恥ずかしさで息もできない。私の肩に顔を伏せてルースはまた囁く。
「アリシア……俺のア」
突然、ルースが止まった。しばらくルースはそのまま動かなかった。私を抱きしめるルースの身体が細かく震えだす。私はまた、ルースの具合が悪くなってしまったのかと思いゾッとした。
「ルース! 大丈夫? 寒いの?」
「……いや。──あの……確認したいのですが、ここはあの世ですよね?」
「え……? あ、あの世?」
「ハハ……、そうだよ。あの世に決まってる。俺は死んだんだ。だからここは天国以外あり得ない。それにしても天国は最高だな。一糸まとわぬアリシアを抱けるなんて」
「あ、あの……ルース? 私、パンツは履いておりますわ」
「……」
ルースは一瞬、固まったように動かなかった。それからゆっくり、私から身体を離す。私の頭の両脇に手をつき、腕を伸ばして上から私の顔を見た。
焚火のユラユラ揺れる炎の灯りに照らされたルースの顔は、さっきまで熱があったせいか瞳が潤んでいて、目のふちがほんのり赤くなっている。
つい今しがた重なり合っていた口を半開きにして、乱れた髪の合間から私を見つめてくるルースは、お腹の奥がゾクゾクするほど色っぽかった。
ルースの裸の胸は私の胸の先に触れていて、どんな作用なのか自分の乳頭がキュッと固くなったのが分かった。
そのせいで余計にルースの胸にこすれる形になってしまい、思わず声が漏れそうになる。ルースを見上げたまま、「……はぁ……っ」と少し息が乱れた。
しばらくジッと私を見ていたルースの顔が、一瞬で驚愕の表情になる。
「うわっ! うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ルースが私の上から飛び退った。あまりにも勢いよく身体を起こしたので、プリンのベッドが波打つように揺れる。ルースは尻もちをつき、そのままひっくり返ってベッドから落ちそうになった。プリンが機転を利かせて、ルースの背中側にあたる自分の身体をニュッと伸ばして転落を阻止した。
ルースは尻もち状態のまま、呆然とした顔でこちらを見た。私はエマージェンシーシートを引っ張って胸元に当てた。沸騰するかと思うくらい顔が熱い。
「ああああ、あのっ……これは……どうして……」」
私と同じくらい真っ赤になっているルースが問う。私は恥ずかしさのあまり下を向いた。
「覚えているかどうか分からないけど、あなたは魔獣の鳥のかぎ爪にやられて、熱を出したの。とても寒がっていたので、あの……私が人肌で温めようとして……」
「え……? アリシアが……俺を?」
ルースはそう言ったあと、黙った。私は今更ながら自分のしたことの大胆さを自覚して、血の気が引くような気持になった。もしかしたらルースは、嫌だったのかもしれない。
しかも……元の世界でルースは大国ベリル王国の近衛師団長であり、大将でもある。はたから見たら今の私は、そのルースの地位と名声を狙って近づく不埒な女と同等なのではないの……?
お父さまとお母さまがこのことを知ったら、きっと失望する。色香でルースを惑わし、みだらな関係を持って彼に取り入り、特権を得ようと画策している貧しい国の姫。
そんな噂が立ったら──カリナンは終わってしまう。何より、斎の姫巫女としての立場を汚すことになる……。
パティは焚火のそばへ戻った。火に枝をくべて炎の勢いがなくならないようにする。本当にパティの存在がありがたい。
私は水筒を手に取った。口に水を含み、ルースへと近づく。私が口をつけてルースは嫌じゃないかしら……。直前になって不安になった。
でもルースが脱水症状になったら大変だし、心を決めなきゃだめよ、アリシア・カリナン。
私は口をルースの口につけた。薄く開いているルースの口の中に、カリナンの聖水を流し込む。ごくん、と喉を鳴らしてルースは水を飲んだ。良かった……と安堵した。
もう一度、口移しでルースに水を飲ませた。また口を離し、今度はパティがくれた薬を口に含む。そこにまた水を流し込んで、自分の口の中を聖水で満たした。
ルースの口に薬と一緒に水を流し込む。上手く喉に薬が流れ込んでくれるといいのだけど……。
ごくん、ごくん、とルースが水を飲み込んだ。多分、薬も一緒に入ったと思う。私はホッとして、口をルースから離そうとした。
でも離せなかった。なぜなら、私の頭の後ろをルースの手が押さえていたから。
「……!」
口を離して上半身を起こそうとしていた私を追いかけるように、ルースは肘をついて身を起こした。大きな手で後頭部を優しくつかまれ、ルースの唇から逃げることができない。
一度離しても角度を変えて、ルースの唇は私の唇をとらえたままだった。そうして何度も角度を変え、ルースは私にくちづけを繰り返す。いつのまにか、ルースに覆いかぶさっていたはずの私が下になっていた。
ルースの両手は、私の頬をつつみこんでいる。唇を離し、またつける合間に「アリシア……」と私の名前をルースが何度も呼ぶ。意識があるのか、完全に起きているのかは分からない。
ルースはずっと目を閉じている。無意識なの……?
くちびるに、頬に、まぶたに、ルースのキスの雨が降る。そうしながらルースは私の身体に腕をまわし、ギュッと抱きしめた。何もつけていない胸が重なり合う。恥ずかしさで息もできない。私の肩に顔を伏せてルースはまた囁く。
「アリシア……俺のア」
突然、ルースが止まった。しばらくルースはそのまま動かなかった。私を抱きしめるルースの身体が細かく震えだす。私はまた、ルースの具合が悪くなってしまったのかと思いゾッとした。
「ルース! 大丈夫? 寒いの?」
「……いや。──あの……確認したいのですが、ここはあの世ですよね?」
「え……? あ、あの世?」
「ハハ……、そうだよ。あの世に決まってる。俺は死んだんだ。だからここは天国以外あり得ない。それにしても天国は最高だな。一糸まとわぬアリシアを抱けるなんて」
「あ、あの……ルース? 私、パンツは履いておりますわ」
「……」
ルースは一瞬、固まったように動かなかった。それからゆっくり、私から身体を離す。私の頭の両脇に手をつき、腕を伸ばして上から私の顔を見た。
焚火のユラユラ揺れる炎の灯りに照らされたルースの顔は、さっきまで熱があったせいか瞳が潤んでいて、目のふちがほんのり赤くなっている。
つい今しがた重なり合っていた口を半開きにして、乱れた髪の合間から私を見つめてくるルースは、お腹の奥がゾクゾクするほど色っぽかった。
ルースの裸の胸は私の胸の先に触れていて、どんな作用なのか自分の乳頭がキュッと固くなったのが分かった。
そのせいで余計にルースの胸にこすれる形になってしまい、思わず声が漏れそうになる。ルースを見上げたまま、「……はぁ……っ」と少し息が乱れた。
しばらくジッと私を見ていたルースの顔が、一瞬で驚愕の表情になる。
「うわっ! うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ルースが私の上から飛び退った。あまりにも勢いよく身体を起こしたので、プリンのベッドが波打つように揺れる。ルースは尻もちをつき、そのままひっくり返ってベッドから落ちそうになった。プリンが機転を利かせて、ルースの背中側にあたる自分の身体をニュッと伸ばして転落を阻止した。
ルースは尻もち状態のまま、呆然とした顔でこちらを見た。私はエマージェンシーシートを引っ張って胸元に当てた。沸騰するかと思うくらい顔が熱い。
「ああああ、あのっ……これは……どうして……」」
私と同じくらい真っ赤になっているルースが問う。私は恥ずかしさのあまり下を向いた。
「覚えているかどうか分からないけど、あなたは魔獣の鳥のかぎ爪にやられて、熱を出したの。とても寒がっていたので、あの……私が人肌で温めようとして……」
「え……? アリシアが……俺を?」
ルースはそう言ったあと、黙った。私は今更ながら自分のしたことの大胆さを自覚して、血の気が引くような気持になった。もしかしたらルースは、嫌だったのかもしれない。
しかも……元の世界でルースは大国ベリル王国の近衛師団長であり、大将でもある。はたから見たら今の私は、そのルースの地位と名声を狙って近づく不埒な女と同等なのではないの……?
お父さまとお母さまがこのことを知ったら、きっと失望する。色香でルースを惑わし、みだらな関係を持って彼に取り入り、特権を得ようと画策している貧しい国の姫。
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