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第二十一話 音
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「大したもんだわ、プリン。この調子なら早めに良くなるかも。毒は多少身体に回っちゃったように見えるけど、あとはルースの体力の問題ね」
パティがホッとしたように言った。
「姫さま。最後にもう一度吸い出して洗います。毒は傷口近くまで浮き上がってきてますので」
「お願いするわ、プリン」
プリンがまた聖水を手に傷口近くへ行った。
「良かったわね、アリシア。あなたのお友達は優秀よ。カル、見習いなさいよ」
「あっしはこれでも、ルース様の苦痛を引き受けているんですからね! さっきから熱っぽくて怠いんです」
カルは不愉快そうに言う。そういえばカルにしては口数が少ないと思った。ずっとルースのそばにちょこんと座って様子を見ているだけだったから。
従者は主人の苦痛を受け取ることが出来る。主人の判断で苦痛を分けあい、お互いが危機の時に動きやすいように工夫できるのだ。
従者を大切にする主人は、大抵苦痛を従者には分けない。今回ルースがカルに苦痛を受けてもらったのは、相当つらかったからだろう。
それでもカルは、ルースの肩にくちばしを乗せ、安心したようにダラリと寄りかかっていた。プリンのお陰でルースの病状にかなり明るいきざしが見えてきたのは確かだ。
プリンはまた、ルースの傷口に口をつけた。ジュッと吸い込む音がする。続けてペチョッという音がした。毒を吸い出し、綺麗な聖水を入れる、それを繰り返しているようだ。
ジュッ、ペチョッ。ジュッ、ペチョッ。
ジュパッジュパッ、ジュパッジュパッ。
「ちょ……っ。何この音! 音だけゴリゴリの十八禁だわ!」
パティが焦って言う。十八禁って……確か『コンビニ』のビニ本にそういうシールが貼ってあったわ。オトナの世界ね。でも音に関しては良く知らないわ。
ジュポッジュポッ、ジュポッジュポッ。パチュッパチュッ、クチュックチュッ。ジュプジュプ、ジュピュッジュピュッ。
「ああん、激しくない!? なんか恥ずかしくなってきちゃう!」
「ウォエ、オエエエエェェェエエッ」
プリンが最後の毒を吐き出した。私は急いでプリンに聖水を飲ませ、口をすすがせた。そしてルースの傷跡を見る。穴が開いていた傷口は大分狭まり、色も薄く紫色が残るだけだった。
「傷穴に聖水を入れて、出して、を繰り返して洗いました。抜けるだけの毒は全部抜けたはずです」
「ありがとう、プリン! なんてお礼を言っていいか……。疲れたでしょう? ゆっくり休んでね」
そこでふと、ある事に気が付いた。私とルース。今は夜……そして穴。入れたり、出したり……。
リアンの宣託だ。あの子には、このことが視えていたんだわ。ここで起きることがハッキリわかった訳ではないにしろ……なんて能力なのかしら。
これで危険を回避できる託宣を言い渡すことが出来たら、リアンの能力はカリナンにとって、なくてはならないものになるだろう。やはりあの子の方が、斎の姫巫女にふさわしいのだわ……。
「う……。さ、寒い……」
ルースの苦し気な声が聞こえた。私は大急ぎでルース顔を覗く。目は閉じていたので、無意識で言ってしまったらしい。額の汗は引いていたけど、顔色がまた悪くなっていた。唇が紫色なのはさっきとあまり変わらず、身体が小さく震えていた。
「毒は抜けたけど、身体に少し回った分と、あとはショック症状かもしれないわ。ここは地べただし、寒いわよね……。でもこの状態じゃ宿を探しに移動もできないし……どうしよう」
パティが顎に手を当てて考え込んだ。
「とりあえず、枯れ木を集めて来るわ。焚火をしましょう。そうすれば暖かくなるわよ。アリシアはここでルースの様子を見てて」
パティは小さい懐中電灯で照らしながら走り出した。なんだかんだ言って、パティは頼りになる。私はあんな風にてきぱきと判断することは出来ない……。
「あっしも枯れ木を集めてきますわ」
カルが飛び立った。ルースはもう、カルに苦痛を引き受けてもらうのを止めたようだ。それだけ、回復してきてはいるのだろうけど、具合が悪そうなのはまだ熱が残っているからかもしれない。
「気を付けてね!」
私はふたりに声をかける事しかできなかった。ルースを振り返る。苦しそうに眉を寄せていて、悪寒に歯を鳴らしていた。せめて布団に寝せてあげたい。でもこんな場所にそれを求めるのは無理というものだ。
「姫さま。ちょっとわたくし、やってみたいことがあるので、ここを離れますね」
プリンに言われてビックリした。
「プリン? あなた疲れているでしょう? 休んでいていいのよ」
「大丈夫です。すぐに戻ります」
プリンは心なしかヨロヨロしながら、ぽよぽよと飛んで行った。私は急に心細くなった。それでも出来ることをしようと、自分の外套をルースにかぶせ、腕をさすり続けた。
パティがホッとしたように言った。
「姫さま。最後にもう一度吸い出して洗います。毒は傷口近くまで浮き上がってきてますので」
「お願いするわ、プリン」
プリンがまた聖水を手に傷口近くへ行った。
「良かったわね、アリシア。あなたのお友達は優秀よ。カル、見習いなさいよ」
「あっしはこれでも、ルース様の苦痛を引き受けているんですからね! さっきから熱っぽくて怠いんです」
カルは不愉快そうに言う。そういえばカルにしては口数が少ないと思った。ずっとルースのそばにちょこんと座って様子を見ているだけだったから。
従者は主人の苦痛を受け取ることが出来る。主人の判断で苦痛を分けあい、お互いが危機の時に動きやすいように工夫できるのだ。
従者を大切にする主人は、大抵苦痛を従者には分けない。今回ルースがカルに苦痛を受けてもらったのは、相当つらかったからだろう。
それでもカルは、ルースの肩にくちばしを乗せ、安心したようにダラリと寄りかかっていた。プリンのお陰でルースの病状にかなり明るいきざしが見えてきたのは確かだ。
プリンはまた、ルースの傷口に口をつけた。ジュッと吸い込む音がする。続けてペチョッという音がした。毒を吸い出し、綺麗な聖水を入れる、それを繰り返しているようだ。
ジュッ、ペチョッ。ジュッ、ペチョッ。
ジュパッジュパッ、ジュパッジュパッ。
「ちょ……っ。何この音! 音だけゴリゴリの十八禁だわ!」
パティが焦って言う。十八禁って……確か『コンビニ』のビニ本にそういうシールが貼ってあったわ。オトナの世界ね。でも音に関しては良く知らないわ。
ジュポッジュポッ、ジュポッジュポッ。パチュッパチュッ、クチュックチュッ。ジュプジュプ、ジュピュッジュピュッ。
「ああん、激しくない!? なんか恥ずかしくなってきちゃう!」
「ウォエ、オエエエエェェェエエッ」
プリンが最後の毒を吐き出した。私は急いでプリンに聖水を飲ませ、口をすすがせた。そしてルースの傷跡を見る。穴が開いていた傷口は大分狭まり、色も薄く紫色が残るだけだった。
「傷穴に聖水を入れて、出して、を繰り返して洗いました。抜けるだけの毒は全部抜けたはずです」
「ありがとう、プリン! なんてお礼を言っていいか……。疲れたでしょう? ゆっくり休んでね」
そこでふと、ある事に気が付いた。私とルース。今は夜……そして穴。入れたり、出したり……。
リアンの宣託だ。あの子には、このことが視えていたんだわ。ここで起きることがハッキリわかった訳ではないにしろ……なんて能力なのかしら。
これで危険を回避できる託宣を言い渡すことが出来たら、リアンの能力はカリナンにとって、なくてはならないものになるだろう。やはりあの子の方が、斎の姫巫女にふさわしいのだわ……。
「う……。さ、寒い……」
ルースの苦し気な声が聞こえた。私は大急ぎでルース顔を覗く。目は閉じていたので、無意識で言ってしまったらしい。額の汗は引いていたけど、顔色がまた悪くなっていた。唇が紫色なのはさっきとあまり変わらず、身体が小さく震えていた。
「毒は抜けたけど、身体に少し回った分と、あとはショック症状かもしれないわ。ここは地べただし、寒いわよね……。でもこの状態じゃ宿を探しに移動もできないし……どうしよう」
パティが顎に手を当てて考え込んだ。
「とりあえず、枯れ木を集めて来るわ。焚火をしましょう。そうすれば暖かくなるわよ。アリシアはここでルースの様子を見てて」
パティは小さい懐中電灯で照らしながら走り出した。なんだかんだ言って、パティは頼りになる。私はあんな風にてきぱきと判断することは出来ない……。
「あっしも枯れ木を集めてきますわ」
カルが飛び立った。ルースはもう、カルに苦痛を引き受けてもらうのを止めたようだ。それだけ、回復してきてはいるのだろうけど、具合が悪そうなのはまだ熱が残っているからかもしれない。
「気を付けてね!」
私はふたりに声をかける事しかできなかった。ルースを振り返る。苦しそうに眉を寄せていて、悪寒に歯を鳴らしていた。せめて布団に寝せてあげたい。でもこんな場所にそれを求めるのは無理というものだ。
「姫さま。ちょっとわたくし、やってみたいことがあるので、ここを離れますね」
プリンに言われてビックリした。
「プリン? あなた疲れているでしょう? 休んでいていいのよ」
「大丈夫です。すぐに戻ります」
プリンは心なしかヨロヨロしながら、ぽよぽよと飛んで行った。私は急に心細くなった。それでも出来ることをしようと、自分の外套をルースにかぶせ、腕をさすり続けた。
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