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第十八話 怪鳥
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「キャアアアアァァァ!!!」
口からは悲鳴しか出なかった。自分の悲鳴以外に耳が捉えたのは、大きな羽ばたきだった。続けて「カル!」とルースが叫ぶ声が聞こえた。
身体は締め付けられていて痛いし、息が上手く出来ず苦しい。私は無理矢理目を開けた。最初に見えたのは、遠ざかる地面。そして私を見上げながら追いかけるルースと、その近くを飛ぶカルの姿。そこから離れた場所にルースの後を追いかける、赤い服の姿も見えた。
私の身体を掴んでいるのは、鳥の鉤爪のようだった。尋常ではないくらい、巨大な鳥だと分かる。羽ばたきの風で、髪の毛が四方八方に舞い上がった。
いきなり圧迫がなくなった。落下の感覚に更なる恐怖を覚えたが、すぐにドサッと何かの上に乗った。何かに落とされたらしい。下はフワフワした枯れ草が敷き詰めてある場所だった。外側は木の枝が絡まりあっている。
どうやらここは巨大鳥の巣なのだ、と分かった。
「姫さま、おからだは大丈夫ですか?」
プリンが目覚めて訊いてくる。私はどうにか頷いた。あの鉤爪に掴まれてどこも怪我していないのは、奇跡だと思った。
ふと横を見ると白い棒のようなものがいくつも見えた。そして、白く丸い形のものも……。すぐにそれは骨だと分かった。腕や脚の骨……肋骨、そして頭蓋骨。鳥はこの巣に獲物を運んで食べるのだ。
「いや──アァァァァァ!!!」
騒いでも仕方ないのに、恐怖のあまり叫んでいた。
「……ア……シア……」と私の名を呼ぶルースの声が遠くから届いた。私は落ちるかもしれないという恐怖と戦いながら、鳥の巣のふちに寄り、下を覗いてみた。
ものすごく高い位置にいると分かる。鳥は私をかなりの速さで運んだらしく、ルースの姿はまだ小さく見えた。カルと並走して走っている。
その後ろに、前かがみになり左腕を胸の前に構え、右手を後ろに向けたちょっと変わった走り方をしているパティがいた。腕を動かしていないのに、すごい速さで走っている。両手に片方ずつハイヒールを持っているのが、こんな時なのにひどく滑稽に見えた。
巨大鳥はバサバサと羽根を動かしながら、私の上を旋回していた。ルースたちの動きを警戒しているようだ。鳥は小さく何かつぶやいているような気がしたが、聞き取れなかった。
下にいるルースが、見る見る近づいてくる。後ろを走るパティとの距離がどんどん開いていくのが分かった。
パティとルースの違いに、急に気が付いた。パティが走っている後ろには、土煙が上がっている。ここの空気は乾いているので、草地を走っていても土煙が上がってしまうらしい。
ルースの後ろには、ほとんど土煙がなかった。まったくない訳ではなく、煙と煙の間がとても広い。ルースの一歩は、とてつもなく長いということだ。
あっという間にルースは私のいる木の下に着いた。鳥の巣がある反対側に、同じくらいの高さの枯れ木がそびえている。ルースは荷物をぶん投げて降ろすと、右手に剣を持ち、木の枝に向けてジャンプした。カルがルースのそばで一緒に飛び上がる。
体の大きいルースが片手懸垂で枝に取り付こうとするのは、大変なのではないか、と思ったが杞憂だった。ルースはふわりと浮き上がり、枝の上に立つ。
さらに上の枝に手を伸ばし、また浮き上がる。ひょい、ひょい、とそれを繰り返してほとんど時間をかけずに私のいる巣の向かい側まで来てしまった。
「アリシア!」
「ルース!」
巨大鳥が私とルースの間に降りてきた。ルースの姿が見えなくなる。「アリシア、金を上に向かって投げろ!」と叫ぶルースの声が羽音の合間に聞こえた。
私は意味も分からず、握りしめていた金を空に向けて思い切り投げ上げた。「きん、きん、きん、きん」と言いながら巨大鳥が飛びあがる。
さっきはなんて言っているのか分からなかったけど、この鳥は金を求めていたのだ、と理解した。
鳥が上に浮かび上がったおかげで、ルースの姿が見えた。枝の上で一瞬身をかがめると、鳥に向かってぐんっと飛んだ。
私はルースが重力で一気に落ちてしまうと思った。でもルースの身体は、ぽーんと空に浮いて巨大鳥を超えていた。そのままふわりと、鳥の背中にルースが降りる。ギャッと鳥が鳴いた。
ルースは鳥を蹴ってその身を浮かすと、身体ごとギュンッと回転して、遠心力で勢いづいた剣を鳥の首元にたたきつけた。
鳥の首に三分の二くらいの深い切れ目が入った。「ギャア……」と鳴いた鳥の声は途中で途絶えた。代わりにブシュッと音がしてどす黒い血が首から噴き出す。
ルースは鳥を上手く足で蹴り、方向を変えた。血はこちらとは反対方向へ向かって飛び散る。鳥は変な向きに首を曲げながら、羽根をバサバサ動かした。断末魔の動きだろうか。
ルースは鳥の背中をまた軽く蹴ると、フワッと浮いて私の方へ移動してきた。
口からは悲鳴しか出なかった。自分の悲鳴以外に耳が捉えたのは、大きな羽ばたきだった。続けて「カル!」とルースが叫ぶ声が聞こえた。
身体は締め付けられていて痛いし、息が上手く出来ず苦しい。私は無理矢理目を開けた。最初に見えたのは、遠ざかる地面。そして私を見上げながら追いかけるルースと、その近くを飛ぶカルの姿。そこから離れた場所にルースの後を追いかける、赤い服の姿も見えた。
私の身体を掴んでいるのは、鳥の鉤爪のようだった。尋常ではないくらい、巨大な鳥だと分かる。羽ばたきの風で、髪の毛が四方八方に舞い上がった。
いきなり圧迫がなくなった。落下の感覚に更なる恐怖を覚えたが、すぐにドサッと何かの上に乗った。何かに落とされたらしい。下はフワフワした枯れ草が敷き詰めてある場所だった。外側は木の枝が絡まりあっている。
どうやらここは巨大鳥の巣なのだ、と分かった。
「姫さま、おからだは大丈夫ですか?」
プリンが目覚めて訊いてくる。私はどうにか頷いた。あの鉤爪に掴まれてどこも怪我していないのは、奇跡だと思った。
ふと横を見ると白い棒のようなものがいくつも見えた。そして、白く丸い形のものも……。すぐにそれは骨だと分かった。腕や脚の骨……肋骨、そして頭蓋骨。鳥はこの巣に獲物を運んで食べるのだ。
「いや──アァァァァァ!!!」
騒いでも仕方ないのに、恐怖のあまり叫んでいた。
「……ア……シア……」と私の名を呼ぶルースの声が遠くから届いた。私は落ちるかもしれないという恐怖と戦いながら、鳥の巣のふちに寄り、下を覗いてみた。
ものすごく高い位置にいると分かる。鳥は私をかなりの速さで運んだらしく、ルースの姿はまだ小さく見えた。カルと並走して走っている。
その後ろに、前かがみになり左腕を胸の前に構え、右手を後ろに向けたちょっと変わった走り方をしているパティがいた。腕を動かしていないのに、すごい速さで走っている。両手に片方ずつハイヒールを持っているのが、こんな時なのにひどく滑稽に見えた。
巨大鳥はバサバサと羽根を動かしながら、私の上を旋回していた。ルースたちの動きを警戒しているようだ。鳥は小さく何かつぶやいているような気がしたが、聞き取れなかった。
下にいるルースが、見る見る近づいてくる。後ろを走るパティとの距離がどんどん開いていくのが分かった。
パティとルースの違いに、急に気が付いた。パティが走っている後ろには、土煙が上がっている。ここの空気は乾いているので、草地を走っていても土煙が上がってしまうらしい。
ルースの後ろには、ほとんど土煙がなかった。まったくない訳ではなく、煙と煙の間がとても広い。ルースの一歩は、とてつもなく長いということだ。
あっという間にルースは私のいる木の下に着いた。鳥の巣がある反対側に、同じくらいの高さの枯れ木がそびえている。ルースは荷物をぶん投げて降ろすと、右手に剣を持ち、木の枝に向けてジャンプした。カルがルースのそばで一緒に飛び上がる。
体の大きいルースが片手懸垂で枝に取り付こうとするのは、大変なのではないか、と思ったが杞憂だった。ルースはふわりと浮き上がり、枝の上に立つ。
さらに上の枝に手を伸ばし、また浮き上がる。ひょい、ひょい、とそれを繰り返してほとんど時間をかけずに私のいる巣の向かい側まで来てしまった。
「アリシア!」
「ルース!」
巨大鳥が私とルースの間に降りてきた。ルースの姿が見えなくなる。「アリシア、金を上に向かって投げろ!」と叫ぶルースの声が羽音の合間に聞こえた。
私は意味も分からず、握りしめていた金を空に向けて思い切り投げ上げた。「きん、きん、きん、きん」と言いながら巨大鳥が飛びあがる。
さっきはなんて言っているのか分からなかったけど、この鳥は金を求めていたのだ、と理解した。
鳥が上に浮かび上がったおかげで、ルースの姿が見えた。枝の上で一瞬身をかがめると、鳥に向かってぐんっと飛んだ。
私はルースが重力で一気に落ちてしまうと思った。でもルースの身体は、ぽーんと空に浮いて巨大鳥を超えていた。そのままふわりと、鳥の背中にルースが降りる。ギャッと鳥が鳴いた。
ルースは鳥を蹴ってその身を浮かすと、身体ごとギュンッと回転して、遠心力で勢いづいた剣を鳥の首元にたたきつけた。
鳥の首に三分の二くらいの深い切れ目が入った。「ギャア……」と鳴いた鳥の声は途中で途絶えた。代わりにブシュッと音がしてどす黒い血が首から噴き出す。
ルースは鳥を上手く足で蹴り、方向を変えた。血はこちらとは反対方向へ向かって飛び散る。鳥は変な向きに首を曲げながら、羽根をバサバサ動かした。断末魔の動きだろうか。
ルースは鳥の背中をまた軽く蹴ると、フワッと浮いて私の方へ移動してきた。
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