10 / 27
第十話 データ送信完了
しおりを挟む
それにしてもこの子、まだ子供なのにそういう事をどこまで分かっているのかしら。実を言うと私もよく分かってないのだけれど……。
約束を取り付けて少しは気が収まったのか、アルレイは応接間に戻った。私とルースも後についていく。
「あの……アリシア。ほんとにいいんですか? 俺と一緒に〝弦〟に向かうこと」
どこか気まずい雰囲気を残しつつ、ルースが言った。私は赤くなってしまったのがバレませんように、と願いつつ、ルースに答えた。
「私の望みよ。あなたと行きたいの」
「──分かりました。感謝します。そして、俺はあなたを必ず守る。だから向こうに行ったら俺から離れないでください」
「……はい」
ドキドキする。明日になっても、その先も、ずっとルースと一緒にいられる……。そう思うだけで嬉しくて胸の鼓動が早くなる。
プリンがぽよぽよと飛び上がり、私の頭の上に乗った。ひんやりとした感触が気持ちよかった。
応接間の出入り口から中に入るとすぐ、リアンが立っていた。
アルレイは既にさっき座っていた場所に戻り、眼のふちを赤くしたまま頬を膨らませて前方を睨みつけている。
両親は心配そうに戻って来た私とルースを見ていた。
「リアン、騒がしくしてしまってごめんね」
リアンは首を横に振ると、黙ったままルースの方に顔を向ける。
相変わらず、深く被ったフードのせいで表情はわからない。
「……カ……」
囁くようなリアンの声に「はい?」とルースが返した。
「カレーシュウがします……」
「ひっ……加齢臭⁉ 俺? 俺からですか? 俺まだ十九歳なんですけど、もう加齢? え、カメムシ臭いだけじゃなく、加齢臭もするの⁉」
ルースは青くなって自分を抱きしめた。
あら、ルースってまだ十代だったの? 私より一つ上なだけなのね。てっきりもっと年上かと思ってた。
最初見た時は二十五、六……いえ、二十七、八……ううん、ハッキリ言うわ。三十くらいだと思ってた。
「ジャガイモのカレー粉炒めが出来上がりました。まだお腹に入りそうですか?」
執事のオルロフが新たな料理を乗せたカートを押しながら、応接間に入って来た。
「カレーシュウってこれ⁉」とルースが声をあげる。リアンはそんなルースをスルーして、静々と自分の席に戻った。
「明日の日中に、旅の支度を整えなさい。私は〝弦〟に行ったことはないが、町の年寄りから話を聞いて、文献も調べてみようと思う。
儀式は夜じゃないとできないから、儀式終了後にすぐ出発となるぞ」
父がジャガイモのカレー粉炒めを食べながら言った。カレーの香辛料は、どんなにお腹いっぱいでも更に食欲をそそる魅力がある。
「ありがとうございます、国王様。それと、良い研ぎ師がいたら教えて頂けますか?
私も出来ますが、できればプロにやってもらいたくて」
「おお、町に良い研ぎ手がおるぞ。明日朝一でオルロフに剣を運ばせよう。大将は何かと準備があるだろうから」
「はい、よろしくお願いします!」
ルースが父に頭を下げる。その後食事も終わり、それぞれが寝る準備についた。
ルースはもちろん、迎賓館の客室に泊まることになっている。
私はルースを迎賓館へ続く廊下まで見送りに行った。カルは疲れたのか、ルースの腕の中でグゥグゥ寝息を立てている。
「それではアリシア。今宵はゆっくり休んで下さい。今日は突然の訪問だったのに、こんなに心を尽くした歓迎をありがとうございました」
「いいえ、とんでもないわ。ジャガイモばかりでごめんなさい。もっと豪華なお食事を用意できれば良かったのだけど」
急に田舎の料理が恥ずかしくなった。
いつもはベリル王国の王宮で、それこそ目を見張るようなご馳走を食べているはずのルースに、ジャガイモのフルコースを食べさせるなんて……。
「ジャガイモは大好きですから、とても美味しかったです。ではアリシア。おやすみなさい」
そう言うとルースは私の手を取り、甲に口づけをした。
一瞬で自分の手が心臓になったかのように、熱く脈打つ。
「チッ」という舌打ちが聴こえた。横を見るとアルレイがいる。弟は腕を組み、ルースに視線で凄みを利かせていた。
「姉さま。今のを見たでしょう? この野良大将は姉さまの柔肌に触れて今夜のオカズにしようとしてるんだ。まったく油断のならない奴です」
「そっ……そんなことは……あり、ません……っ」
微妙に目を泳がせながら、途切れがちにルースが言う。オカズって何かしら。
もうお夕飯は食べたし……。オカズというか、ほとんどがジャガイモだったけど。
「ハッキリ否定しないな? 今だって姉さまをジロジロ見て、何を想像してたんだ?」
「想像なんて失礼なことは……。大体俺にはデータがあ」
バシッとルースは自分の手を自分の口に当てた。「そ……それではおやすみなさいっ」と言ってルースは後ろに下がっていく。
カルが「データソウシンカンリョウデスゥ……」とむにゃむにゃしながらつぶやいていた。
ルースが去ったあと、弟は「やっぱりあいつと行くのは反対だ!」と言い出したが、何とかなだめて部屋まで送り、寝かしつけた。
私は明日から始まるルースとの冒険が上手くいくよう、祈りながら眠りについた。
とても眠れない、と思っていたのに、気が付いたら朝になっていた。
約束を取り付けて少しは気が収まったのか、アルレイは応接間に戻った。私とルースも後についていく。
「あの……アリシア。ほんとにいいんですか? 俺と一緒に〝弦〟に向かうこと」
どこか気まずい雰囲気を残しつつ、ルースが言った。私は赤くなってしまったのがバレませんように、と願いつつ、ルースに答えた。
「私の望みよ。あなたと行きたいの」
「──分かりました。感謝します。そして、俺はあなたを必ず守る。だから向こうに行ったら俺から離れないでください」
「……はい」
ドキドキする。明日になっても、その先も、ずっとルースと一緒にいられる……。そう思うだけで嬉しくて胸の鼓動が早くなる。
プリンがぽよぽよと飛び上がり、私の頭の上に乗った。ひんやりとした感触が気持ちよかった。
応接間の出入り口から中に入るとすぐ、リアンが立っていた。
アルレイは既にさっき座っていた場所に戻り、眼のふちを赤くしたまま頬を膨らませて前方を睨みつけている。
両親は心配そうに戻って来た私とルースを見ていた。
「リアン、騒がしくしてしまってごめんね」
リアンは首を横に振ると、黙ったままルースの方に顔を向ける。
相変わらず、深く被ったフードのせいで表情はわからない。
「……カ……」
囁くようなリアンの声に「はい?」とルースが返した。
「カレーシュウがします……」
「ひっ……加齢臭⁉ 俺? 俺からですか? 俺まだ十九歳なんですけど、もう加齢? え、カメムシ臭いだけじゃなく、加齢臭もするの⁉」
ルースは青くなって自分を抱きしめた。
あら、ルースってまだ十代だったの? 私より一つ上なだけなのね。てっきりもっと年上かと思ってた。
最初見た時は二十五、六……いえ、二十七、八……ううん、ハッキリ言うわ。三十くらいだと思ってた。
「ジャガイモのカレー粉炒めが出来上がりました。まだお腹に入りそうですか?」
執事のオルロフが新たな料理を乗せたカートを押しながら、応接間に入って来た。
「カレーシュウってこれ⁉」とルースが声をあげる。リアンはそんなルースをスルーして、静々と自分の席に戻った。
「明日の日中に、旅の支度を整えなさい。私は〝弦〟に行ったことはないが、町の年寄りから話を聞いて、文献も調べてみようと思う。
儀式は夜じゃないとできないから、儀式終了後にすぐ出発となるぞ」
父がジャガイモのカレー粉炒めを食べながら言った。カレーの香辛料は、どんなにお腹いっぱいでも更に食欲をそそる魅力がある。
「ありがとうございます、国王様。それと、良い研ぎ師がいたら教えて頂けますか?
私も出来ますが、できればプロにやってもらいたくて」
「おお、町に良い研ぎ手がおるぞ。明日朝一でオルロフに剣を運ばせよう。大将は何かと準備があるだろうから」
「はい、よろしくお願いします!」
ルースが父に頭を下げる。その後食事も終わり、それぞれが寝る準備についた。
ルースはもちろん、迎賓館の客室に泊まることになっている。
私はルースを迎賓館へ続く廊下まで見送りに行った。カルは疲れたのか、ルースの腕の中でグゥグゥ寝息を立てている。
「それではアリシア。今宵はゆっくり休んで下さい。今日は突然の訪問だったのに、こんなに心を尽くした歓迎をありがとうございました」
「いいえ、とんでもないわ。ジャガイモばかりでごめんなさい。もっと豪華なお食事を用意できれば良かったのだけど」
急に田舎の料理が恥ずかしくなった。
いつもはベリル王国の王宮で、それこそ目を見張るようなご馳走を食べているはずのルースに、ジャガイモのフルコースを食べさせるなんて……。
「ジャガイモは大好きですから、とても美味しかったです。ではアリシア。おやすみなさい」
そう言うとルースは私の手を取り、甲に口づけをした。
一瞬で自分の手が心臓になったかのように、熱く脈打つ。
「チッ」という舌打ちが聴こえた。横を見るとアルレイがいる。弟は腕を組み、ルースに視線で凄みを利かせていた。
「姉さま。今のを見たでしょう? この野良大将は姉さまの柔肌に触れて今夜のオカズにしようとしてるんだ。まったく油断のならない奴です」
「そっ……そんなことは……あり、ません……っ」
微妙に目を泳がせながら、途切れがちにルースが言う。オカズって何かしら。
もうお夕飯は食べたし……。オカズというか、ほとんどがジャガイモだったけど。
「ハッキリ否定しないな? 今だって姉さまをジロジロ見て、何を想像してたんだ?」
「想像なんて失礼なことは……。大体俺にはデータがあ」
バシッとルースは自分の手を自分の口に当てた。「そ……それではおやすみなさいっ」と言ってルースは後ろに下がっていく。
カルが「データソウシンカンリョウデスゥ……」とむにゃむにゃしながらつぶやいていた。
ルースが去ったあと、弟は「やっぱりあいつと行くのは反対だ!」と言い出したが、何とかなだめて部屋まで送り、寝かしつけた。
私は明日から始まるルースとの冒険が上手くいくよう、祈りながら眠りについた。
とても眠れない、と思っていたのに、気が付いたら朝になっていた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
一宿一飯の恩義
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
妹のアイミが、一人暮らしの兄の家に泊まりに来た。コンサートで近くを訪れたため、ホテル代わりに利用しようということだった。
兄は条件を付けて、アイミを泊めることにした。
その夜、条件であることを理由に、兄はアイミを抱く。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる