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第四話 ドスケベ勇者
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「い……異世界? そんな……それはどこなんですか?」
「モッズ。三千世界のひとつに、モッズという星があるらしいわ。ハーテはそこへ逃げたの」
「なんてことだ。一体どうやって……。それでは場所が分かっても行く方法が分からない」
「方法は……なくはないわ。でも危険かもしれない」
「危険なんて今までいくらでも……いや、待って。え……危険なの? 危険な場所? うわ、どうしよう。怖い!」
ルースは急に震えだして、ガタガタする身体を自分で抱きしめた。そうだった、この人勇気がないんだったわ。
「ルース様、勇気がないなら根性で参りましょう。ここへ来るまでだってそれで頑張って来たじゃないですか!」
カルがルースを励ました。ルースは真っ青になって歯をガチガチ鳴らしていたが、グッと食いしばってそれを止めた。自分を抱きしめた腕をなんとか両脇に下ろし、ギュッとつむっていた目を必死で開く。
キッとして前を向いたルースは、なかなかに勇ましく見えた。元々がかなりのイケメンなので、ちょっとドキッとするくらいカッコいい。
その時、ブゥンと音がしてルースのマントに何かがとまった。ビタッとくっついてきたそいつを見た途端、ルースが叫び出す。
「ヒッ! カメムシ! ひゃああっっっ。やめて、俺にとまらないで!」
あーもう、台無しだわ。私はルースのマントをパンッと叩いてカメムシを追い払った。
「いつまでもここでは何だし、私の屋敷に行きましょう。大将様を満足させるおもてなしは出来ないと思うけど、食事と寝床はあるから」
「ルース様! 是非ともお世話になりましょう。もうずっと野宿ばかりで疲れてしまいました。ふかふかのベッドで眠りたいっ」
カルはそう言ったけど、鳥なのにどうやってベッドで寝るのかしら。
「ではアリシア、ご厚意に預からせてもらいます。カメムシ怖いし、マジで」
「分かったわ、ルース。それにカル。では私の家へ参りましょう。帰ろうね、プリン」
プリンは私がずっと手の中で抱いていた。プリンの感触はぽよんとしていて、手にしているととっても気持ちよくて安心する。私に声をかけられて、ウトウトしていたプリンが少し目を開ける。ちょっとだけ笑ってから、また眠り始めた。
プリンはカルのように自己主張が強くなく、かなり大人しい従者だ。いつもぽよぽよと私の周りを飛んで回ったり、肩に乗ったりするだけ。必要な時はしゃべるし、私の世話を焼いてくれるけど、うるさくしたことは一度もない。
「ずっと野宿だったって、どうしてなの? まさか王様は路銀を持たせてくれなかったとか?」
屋敷に向けて歩きながらルースに訊いた。自宅の屋敷は斎場からさほど遠くない。斎場ももちろん、王族であるカリナン一家の敷地だ。私が宣託を受ける時、町人が入ってこないように、厳重に管理されている。
「いえ。ビクスは──あ、王は名をビクスバイトといいます──きちんと路銀を持たせてくれました。ただ、途中でそれを盗られてしまって……」
「ルース様ってば、立ち寄った酒場でセクスィ~な美女に言い寄られて、たくさんお酒を飲まされちゃったんです。ほとんど下戸なのに。それで意識を失って、気づいた時は乗って来た馬と財布が無くなっていたと」
ゲヒヒ、と下品な笑い声をあげてカルか教えてくれた。
なんてこと。この勇者は勇気だけじゃなく財布まで盗まれたワケ? しかもセクシーな美女と一夜を共にした後に。
……まぁいいわ。私には関係ないもの。黙ってれば言い寄られるのも仕方ないくらいの美形だし、そういうことは今までだってたくさんあったはず。
でも何かしら……なんだか気持ちがモヤモヤする。まだ会ったばかりで良く知らないけど、ルースが誠実で良い人だということは、話しぶりや行動から分かってきた。
だから意外だったのかも。私の裸くらいでオロオロしていた人が、色っぽい美女と行きずりの恋をした事が。きっと意外すぎて、それで気持ちが落ち着かないだけ。
──そう、多分それだけ。
なんとなく無言になってしまって、てくてくと歩いて行く。ルースはキョロキョロしながら、木々の奥に見えるカリナンの街並みを珍しそうに見ている。
「カリナン王国といえば、かの有名な『コンビニ』があるところですよね」
突然、ルースが訊いてきた。
「コンビニを知っているの?」
「もちろんです。世界にひとつしかない店でしょう?」
「そうよ。『混沌よろず屋第二別館。ないものはない雑貨店。ビニ本ありマス』、略してコンビニ」
「そこへ行ってみたいんです。俺の憧れなんだ」
「まさかとは思うけど、ビニ本がほしいわけ?」
「男のロマンです」
いけしゃあしゃあとよく言ったわね。カメムシも駄目なヘタレのくせに。
でもまぁ、やっぱり、ルースもちゃんとスケベ心を持ち合わせてるんだ。そうよね、だからセクシー美女とも関係持てちゃう。私がモヤモヤすることじゃない。
「あるわよ、すごいのが。規制でモザイクはかかってるけど、店主に多めに支払えば裏から消しナシをもって来てくれるわ」
「なんと……それはすごいな。伝説の巨大妖魔ヴイーヴルに勝った時、王から賜った報奨金を全て注ぎ込みます」
報奨金をそんなことに……。やっぱりとんでもないドスケベだったわ、この勇者。
「モッズ。三千世界のひとつに、モッズという星があるらしいわ。ハーテはそこへ逃げたの」
「なんてことだ。一体どうやって……。それでは場所が分かっても行く方法が分からない」
「方法は……なくはないわ。でも危険かもしれない」
「危険なんて今までいくらでも……いや、待って。え……危険なの? 危険な場所? うわ、どうしよう。怖い!」
ルースは急に震えだして、ガタガタする身体を自分で抱きしめた。そうだった、この人勇気がないんだったわ。
「ルース様、勇気がないなら根性で参りましょう。ここへ来るまでだってそれで頑張って来たじゃないですか!」
カルがルースを励ました。ルースは真っ青になって歯をガチガチ鳴らしていたが、グッと食いしばってそれを止めた。自分を抱きしめた腕をなんとか両脇に下ろし、ギュッとつむっていた目を必死で開く。
キッとして前を向いたルースは、なかなかに勇ましく見えた。元々がかなりのイケメンなので、ちょっとドキッとするくらいカッコいい。
その時、ブゥンと音がしてルースのマントに何かがとまった。ビタッとくっついてきたそいつを見た途端、ルースが叫び出す。
「ヒッ! カメムシ! ひゃああっっっ。やめて、俺にとまらないで!」
あーもう、台無しだわ。私はルースのマントをパンッと叩いてカメムシを追い払った。
「いつまでもここでは何だし、私の屋敷に行きましょう。大将様を満足させるおもてなしは出来ないと思うけど、食事と寝床はあるから」
「ルース様! 是非ともお世話になりましょう。もうずっと野宿ばかりで疲れてしまいました。ふかふかのベッドで眠りたいっ」
カルはそう言ったけど、鳥なのにどうやってベッドで寝るのかしら。
「ではアリシア、ご厚意に預からせてもらいます。カメムシ怖いし、マジで」
「分かったわ、ルース。それにカル。では私の家へ参りましょう。帰ろうね、プリン」
プリンは私がずっと手の中で抱いていた。プリンの感触はぽよんとしていて、手にしているととっても気持ちよくて安心する。私に声をかけられて、ウトウトしていたプリンが少し目を開ける。ちょっとだけ笑ってから、また眠り始めた。
プリンはカルのように自己主張が強くなく、かなり大人しい従者だ。いつもぽよぽよと私の周りを飛んで回ったり、肩に乗ったりするだけ。必要な時はしゃべるし、私の世話を焼いてくれるけど、うるさくしたことは一度もない。
「ずっと野宿だったって、どうしてなの? まさか王様は路銀を持たせてくれなかったとか?」
屋敷に向けて歩きながらルースに訊いた。自宅の屋敷は斎場からさほど遠くない。斎場ももちろん、王族であるカリナン一家の敷地だ。私が宣託を受ける時、町人が入ってこないように、厳重に管理されている。
「いえ。ビクスは──あ、王は名をビクスバイトといいます──きちんと路銀を持たせてくれました。ただ、途中でそれを盗られてしまって……」
「ルース様ってば、立ち寄った酒場でセクスィ~な美女に言い寄られて、たくさんお酒を飲まされちゃったんです。ほとんど下戸なのに。それで意識を失って、気づいた時は乗って来た馬と財布が無くなっていたと」
ゲヒヒ、と下品な笑い声をあげてカルか教えてくれた。
なんてこと。この勇者は勇気だけじゃなく財布まで盗まれたワケ? しかもセクシーな美女と一夜を共にした後に。
……まぁいいわ。私には関係ないもの。黙ってれば言い寄られるのも仕方ないくらいの美形だし、そういうことは今までだってたくさんあったはず。
でも何かしら……なんだか気持ちがモヤモヤする。まだ会ったばかりで良く知らないけど、ルースが誠実で良い人だということは、話しぶりや行動から分かってきた。
だから意外だったのかも。私の裸くらいでオロオロしていた人が、色っぽい美女と行きずりの恋をした事が。きっと意外すぎて、それで気持ちが落ち着かないだけ。
──そう、多分それだけ。
なんとなく無言になってしまって、てくてくと歩いて行く。ルースはキョロキョロしながら、木々の奥に見えるカリナンの街並みを珍しそうに見ている。
「カリナン王国といえば、かの有名な『コンビニ』があるところですよね」
突然、ルースが訊いてきた。
「コンビニを知っているの?」
「もちろんです。世界にひとつしかない店でしょう?」
「そうよ。『混沌よろず屋第二別館。ないものはない雑貨店。ビニ本ありマス』、略してコンビニ」
「そこへ行ってみたいんです。俺の憧れなんだ」
「まさかとは思うけど、ビニ本がほしいわけ?」
「男のロマンです」
いけしゃあしゃあとよく言ったわね。カメムシも駄目なヘタレのくせに。
でもまぁ、やっぱり、ルースもちゃんとスケベ心を持ち合わせてるんだ。そうよね、だからセクシー美女とも関係持てちゃう。私がモヤモヤすることじゃない。
「あるわよ、すごいのが。規制でモザイクはかかってるけど、店主に多めに支払えば裏から消しナシをもって来てくれるわ」
「なんと……それはすごいな。伝説の巨大妖魔ヴイーヴルに勝った時、王から賜った報奨金を全て注ぎ込みます」
報奨金をそんなことに……。やっぱりとんでもないドスケベだったわ、この勇者。
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