百合斬首～晒しな日記～

第4章 更なる戦い

第468話 ゲーム会場へようこそ108

　ヒナに背負われて、風間家が所有している一軒家へと入る。所有しているとは言っても、いざという時のための隠れ家として使われている民家で、普段は誰もおらず、幼いころからヒナとカヤはここで一緒に過ごすことが多かった。
「ふう・・・」
「もういい、一人で動けるから」
　ヒナの背から降りて、カヤは一人で奥の部屋へ行こうとするーが、
「くっ」
　痛みに顔をしかめて、思わずその場にうずくまってしまった。
「カヤ・・・無理しちゃダメ」
　痛みにうずくまるカヤに手を伸ばしかけるヒナに対し、
「うるさい！！」
　カヤの拒絶の声が部屋に鋭く響き渡った。その声の大きさに、ヒナは思わず身を強張らせる。
　カヤがヒナを睨みつけている。そのまなざしは鋭く、並の相手なら睨まれただけで身動きができなくなりそうなくらい剣呑なものであった。
「カヤ・・・」
「あんたの手はこれ以上借りない」
　それだけを静かに、しかしかなり押し殺した声で告げると、カヤは何とか立ち上がり、奥の部屋へ続く扉を開けた。
　その背中が、ヒナのことを完全に拒絶しているということを明確に示していたのだった。

　カヤが隣の部屋へと引っ込んでから、ヒナは近くのソファに腰かけ、何をするでもなく天井を見上げていた。
「カヤ・・・」
　幼い頃、ヒナとカヤはそれこそ姉妹のように仲が良かった。風間家という特殊な家の事情もあり、同年代の子供が近くにいなかったというのもあるが、遊び相手は常にカヤだけだった。
　だが、いつのころからか、ヒナとカヤの間に壁が生まれ始めていた。言うなれば「本家と分家の壁」である。
　ヒナとカヤが悪いわけでもない。家が二人を分断させた。それは、ヒナも十分わかっている。そして、それゆえにカヤとかつてのような関係を取り戻すことがいかに不可能であるかも、十分わかっていた。
「・・・もう、あの頃には戻れないんだよね」
　もしこの場にカヤがいたのなら、その問いには即答したことだろう。
　ー絶対に戻れないー
「・・・カヤ」
　何度もカヤの名前を呼ぶが、その声が相手に届くことはもうない。カヤにとって、ヒナは乗り越えるべき対象なのだ。本家を超え、いつか自分が本家を名乗る。今のカヤの心中にあるのは、もはやその強い思いだけだ。
「・・・こんな家に生まれてこなければよかった・・・」
　風間家の関係者たちが聞いたら赫怒するであろう言葉を口に出すヒナ。姉妹同然に育った相手と反目し合うくらいなら、最初から風間家の人間としてではなく、普通の一般家庭の子供として生まれてくればよかった。
　これから先、何度カヤとやり合うことになるのだろうか。それを思うだけで気が滅入るー