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第4章 更なる戦い

第436話 ゲーム会場へようこそ76

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「む・・・」
 薄暗く、じめじめと湿った森の中を歩いていた桐原と戸隠だったが、ふいに戸隠が何かに気が付いたらしく、茂みの中の一点に目を向けて何やら思案し始めた。
「・・・どうかしたんですか?」
 しゃがみ込んで茂みを注視する戸隠に、息も絶え絶えに背後から声をかける桐原。歩くのだけでもようやくの彼女に、周囲に気を配る余裕などなかった。
「ここで・・・何やらひと悶着あったようなのでな」
 戸隠が、右手を顎にあてがい、左手を茂みの方に伸ばしながら言う。桐原もつられてそちらの方へと目を向けた。
 戸隠が注意を向けた辺りの茂みは、不自然に踏まれたような形跡が確認できた。さらにはー
「この辺りで、何やら妖気の痕跡みたいなものも感じた」
「え・・・?」
 妖気、と言われて、思わず身を固くする桐原。妖気、つまりは魔物の放つ瘴気の事なのだろうが、そんなものがまだこの辺りに残っているということは、この近辺は危険ということを意味するのではなかろうかー
 そんな不安に駆られている桐原に頓着した様子もなく、戸隠はさらに茂みの中を確認しようとする。
「おそらく、この辺りで何者かが物の怪の類とやり合ったのだろう。まあ、物の怪の類の気配自体はもうないようだから、ひとまず危険は無かろうが」
 ひとまず危険はないという言葉に安堵する桐原だった。
 桐原はどちらかというと戦いには向かないタイプである。できることなら無駄な戦いや危険は避けたいというのが本音だった。
 大会中の今迄においても、彼女は「ペナルティ候補者」である。つまりは、人間同士の戦いも行ったことがないのだ。戦いというか、先ほどの見えない相手からの襲撃が、彼女にとっては初めての実戦経験ともいえるだろうー尤も、実戦などと呼べるようなものではないのだが。
 人間相手でさえこの有様である。ましてや、人間よりも恐ろしいであろう魔物となんて、とてもではないがやり合いたくはないーというか、実際に魔物の姿を見ただけで、恐らく自分は足がすくんでその場から動けなくなってしまうだろう。
「なに、某と一緒にいれば物の怪など恐れることはない。安心なされよ、桐原殿」
 戸隠が背後の桐原を振り返り、微笑みながら言う。よほどの自信があるのか、戸隠には全く臆している様子は感じられなかった。
「え・・・は、はい」
 思わずどもりながら返事をしてしまう桐原。まさか自分が「殿」つけで呼ばれるとは思ってもいなかったので、いささか虚を突かれたような気分になったのだ。
「それにしても・・・ここで物の怪と何者かが戦ったというのであれば、我らよりも先にこの森の奥まで入り込んだ者達がいるということか」
 薄暗く、ほとんど先を見通せない森の奥を睨む戸隠。その何者かが、果たして今の自分たちと同じチームのメンバーか、はたまた敵チームなのかは、さすがの戸隠でもまだわからなかった。
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